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望郷のハチ公像

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/28 📚 シリーズ: 終末世界90式の旅 📝 3,365文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう

本文

翌朝、大館の空は重かったが、雪は強くなかった。

ホテルの窓から見える国道7号線は、うっすらと白く縁取られている。昨夜のうちに積もった雪が路肩に残り、道の中央だけが車の通った跡で黒く見えていた。

電気のない部屋で、三人はランタンの明かりを消す前に朝食を済ませた。乾麺の残り、缶詰、温かい茶。ホテルのボイラーのお陰で昨夜湯に入れたおかげで、体の芯はまだ少し軽かった。

サヤはパンフレットをもう一度広げていた。

「秋田犬会館って、そんなに遠くないんだよね」

ミズホは地図を見ながら答えた。

「距離としては近い。でも、道幅や周辺を見ると、90式で直接乗り付けられる場所じゃないと思う」

シオナも地図を覗いた。

「国道沿いの広い場所に停めて、歩こう」

「歩くの?」

「うん。会館の近くにコンビニがある。駐車場が広そうなら、そこに90式を置く」

サヤは少し笑った。

「コンビニに90式を駐車」

ミズホが即座に言う。

「買い物じゃなくて一時停車」

「分かってるって」

シオナはパンフレットの「望郷のハチ公像」という文字を見た。

望郷。

その二文字が、昨日から胸の奥に残っていた。

渋谷のハチ公像は、故郷へ帰れなかった犬の像だったのだろうか。

それとも、人を待ち続けた犬が、最後には人のいない街で動物たちに囲まれていたのだろうか。

答えはない。

けれど、大館にいる今なら、その像を見に行く意味はある気がした。

「出よう」

シオナが言うと、サヤとミズホもうなずいた。

三人は荷物をまとめた。

ホテルには、昨夜と同じようにメモを残した。

国道7号線沿いホテルに一泊。

電気なし。ボイラー燃料により大浴場使用。

本日、秋田犬会館方面を徒歩確認後、弘前方面への経路を検討。

サヤがメモを見て言った。

「観光っぽいけど、観光じゃないね」

ミズホは淡々と返す。

「確認だよ。地域の目印と人の痕跡を見る」

「でもハチ公も見る」

「それも確認」

シオナは少しだけ笑った。

「行こう。雪が強くならないうちに」

三人は90式へ乗り込んだ。

ホテルの駐車場から国道7号線へ出る。

シオナはいつも通り、速度を出さない。大館市内は能代からの道よりも建物が多く、交差点も増える。雪に埋もれた車や、閉じた店舗の前を慎重に抜けていく。

サヤは車長ハッチ側から外を確認していた。

「前方、コンビニの看板。駐車場広い。放置車両少なめ」

ミズホが地図を見る。

「会館まで徒歩で行ける距離。ここでいいと思う」

シオナは駐車場の端へ90式を入れた。

建物から少し離れ、出入口を塞がない位置。すぐに出られる向き。前にも後ろにも余裕を残す。

エンジンを切ると、あたりは静かになった。

コンビニは営業していない。

ガラスは割れていないが、中は暗い。入口前には雪が吹き込んでいた。

三人はまず周囲を確認した。

人影なし。足跡は古いものが少し。危険な気配はない。

シオナは防寒具を整えた。

「徒歩で行く。長くは離れない」

ミズホが確認する。

「ライト、地図、救急袋、携帯食、カイロ。無線は近距離用だけ持つ。90式から離れすぎない」

サヤはネックウォーマーを上げた。

「長靴で行く?」

「雪が残ってるから長靴の方がいい」

三人は防寒着や帽子にネックウォーマーを重ね、足元は熱塩共同区でもらった長靴にした。雪道を歩くには、それがいちばん信用できた。

サヤは自分の足元を見て言った。

「大館で長靴観光」

ミズホが言う。

「観光じゃない」

「分かってる。確認」

「そう」

シオナは90式を振り返った。

雪をかぶった車体。

外部ラック。

濡れ物箱。

砲塔上に機銃はない。砲弾もない。

戦うためではなく、ここまで来るための車両。

「少し待ってて」

誰に言うでもなく、シオナはそう呟いた。

三人はコンビニの駐車場を出て、秋田犬会館へ向かった。

道は細くなった。

90式で入るには、やはり気が進まない道だった。普通の車なら入れる。けれど、雪の残る市街地で90式を無理に進める場所ではない。

歩いて正解だった。

サヤは息を白くしながら言った。

「これ、90式で来なくてよかったね」

ミズホがうなずく。

「曲がるだけで大変だったと思う。建物や電柱に近い」

シオナは足元を見ながら歩いた。

「壊さなくていいものは壊さない」

「それ、いいね」

サヤが言った。

「終末でも、壊さなくていいものは壊さない」

道の先に、秋田犬会館が見えてきた。

建物は雪の中で静かに立っていた。

人の気配はすぐには感じない。だが、入口付近の雪は完全に埋もれてはいなかった。誰かが以前、軽く払ったような跡が残っている。

そして、その前に像があった。

ハチ公だった。

「……あった」

サヤが小さく言った。

望郷のハチ公像。

雪をかぶりながら、像は静かに立っていた。

渋谷で見た像とは違う。周囲に動物たちの群れはいない。ツタも絡んでいない。ビルの谷底でもない。

ここは故郷だった。

大館の雪の中で、ハチ公は遠くを見るように立っていた。

シオナは、しばらく動けなかった。

渋谷の光景が戻ってくる。

草に覆われたスクランブル交差点。

ビルの骨を抜ける風。

動物たちの通り道になった谷底。

犬や猫が寝床にしていた像の足元。

ツタに包まれ、森の守り神のように立っていたハチ公。

あの時、シオナはひとりだった。

90式の砲塔から、誰もいない渋谷を見ていた。

まだサヤにも会っていない。

ミズホもいない。

ただ、東京の終わりと、終わった後に生まれた静かな世界だけがあった。

「……ここが、故郷なんだ」

シオナの声は、雪に吸い込まれるほど小さかった。

サヤは隣に立った。

「渋谷のハチ公とは、違う?」

シオナはゆっくりうなずいた。

「違う。渋谷のは、街を見守ってた。人がいなくなった後の街を」

「こっちは?」

シオナは像を見た。

「帰りたかった場所みたいに見える」

ミズホは像の足元を見ていた。

「雪、少し払われてるね」

シオナも気づいた。

完全に放置されているなら、足元はもっと雪に埋まっていたはずだった。

誰かが来ている。

誰かが、ここを気にしている。

サヤが少し明るい声で言った。

「じゃあ、大館にも人がいるね」

「うん」

ミズホは周囲を見回した。

「少なくとも、ここを忘れていない人がいる」

その言葉が、シオナには少し響いた。

忘れていない人。

終末のあと、守れるものは限られている。

食料、燃料、電気、薬、道。

そのどれもが大事だ。

けれど、その中で誰かが、ハチ公像の足元の雪を払った。

生きるために絶対必要なことではない。

でも、人が人でいるためには必要なことかもしれなかった。

シオナは像の前で立ち尽くした。

「渋谷では、ハチ公の周りに動物がいた。犬も猫も、シカもタヌキも。あの街はもう人のものじゃなくなってた。でも、ここは……」

ミズホが静かに続ける。

「まだ人が来ている」

「うん」

サヤは像を見上げた。

「待ってるんじゃなくて、迎えてるみたいにも見えるね」

シオナはその言葉に少しだけ笑った。

「そうかもしれない」

望郷のハチ公像は、雪の中で何も言わなかった。

けれどシオナには、その沈黙が渋谷のハチ公とは違うものに思えた。

渋谷の像は、終わった街を見ていた。

大館の像は、まだ帰ってくる人を待てる場所にいた。

三人はしばらくそこにいた。

長居はしない。

体が冷える。

90式もコンビニの駐車場で待っている。

ミズホが最後に、ノートを開いた。

「記録していい?」

シオナはうなずいた。

ミズホは短く書いた。

大館市内。

秋田犬会館前、望郷のハチ公像を確認。

像周辺に雪払いの跡あり。

人の出入り、または管理痕跡あり。

サヤが覗き込んだ。

「もう少し情緒を入れてもいいんじゃない?」

「記録だから」

「じゃあ別枠で」

ミズホは少し考えて、最後に一行だけ足した。

渋谷のハチ公とは違う静けさ。

シオナはそれを見て、何も言わなかった。

三人は会館を離れ、来た道を戻った。

コンビニの駐車場に、90式が見えてくる。

雪の中で、重い車体が静かに待っていた。

サヤが息を吐いた。

「戻ってきた」

ミズホが言う。

「この後は、大館の人の痕跡を探す。像の雪を払った人がいるなら、どこかに拠点があるかもしれない」

シオナは90式を見上げ、それからもう一度、秋田犬会館の方を振り返った。

「うん。ここは終わってない」

渋谷の谷底で、世界は人から離れていった。

大館の雪の中では、人がまだ何かを残そうとしていた。

同じハチ公なのに、見せるものは違っていた。

三人は再び90式に乗り込んだ。

次に探すのは、像を忘れなかった人たちだった。

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作者について

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人とAIによる共著作品発表のため団体という形のペンネームにしました。複数の世界を、ゆっくり旅する物語を書いていきます。ChatGPTことチャティを相棒としてストーリーの概要や場面についてを対話する形で...

👥 フォロワー: 6人

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