矢立峠の手前での表紙画像

矢立峠の手前で

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/29 📚 シリーズ: 終末世界90式の旅 📝 4,327文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう

本文

秋田犬会館から戻ったあと、三人はコンビニの駐車場に停めていた90式へ乗り込んだ。

雪はまだ弱い。

ただ、空の色は朝よりも少し重くなっていた。

シオナは操縦席で地図をもう一度確認した。

「ここから国道7号線を北へ。大館北ICまでは行く。でも、そこから高速道路側には入らない」

ミズホがうなずいた。

「秋田自動車道の方は、矢立峠の前後でトンネルが続く。管理状況が分からないトンネルに90式で入るのは避けたい」

サヤが少し顔をしかめた。

「トンネルで詰まったら、戻るのも大変だよね」

「うん。中で放置車両があったり、照明も換気も死んでいたら危ない。出口側が雪で塞がっている可能性もある」

シオナは短く言った。

「だから白沢方面へ進む。国道7号線で峠の手前まで行く」

「まず道の駅やたて峠?」

「その前に、白沢あたりで給油できる場所があれば見る」

サヤは少し意外そうにした。

「秋田で満タンにしたよね?」

「した。でも、ここから先は山越え。戻ることも考えるなら、入れられる時に入れる。ただし、燃料の状態は見る」

秋田駐屯地で教わったことが、シオナの中に残っていた。

号種だけを信じない。

濁りを見る。

匂いを見る。

水の分離を見る。

底まで欲張らない。

燃料は、ただ残っていればいいものではない。

使えるかどうかを確かめるものだった。

90式はゆっくり国道7号線を北上した。

大館市街を離れるにつれて、建物は少しずつまばらになっていく。釈迦内に入り、大館北IC付近へ近づく。案内標識には高速道路の文字が見えた。

サヤが標識を見上げる。

「こっちに入れば早いんだろうけど」

ミズホは地図を押さえた。

「早い道ほど、今は怖いことがある」

シオナは速度を落としたまま、分岐を見送った。

「早さより、止まれる道」

90式は高速道路へは入らず、国道7号線をたどって白沢方面へ進んだ。

しばらく行くと、道路沿いにガソリンスタンドが見えた。営業はしていない。看板も雪に汚れている。だが、敷地は広く、車両を入れられる余地があった。

シオナは駐車場の端に90式を停めた。

「確認する」

三人は外へ出た。

風は弱いが、空気は冷たい。

雪の粒が少しずつ増え始めている。

サヤはネックウォーマーを上げた。

「また降ってきた」

ミズホは手袋を締め直す。

「長居しない。燃料確認だけ」

シオナはスタンドの設備を見て回った。

タンクの状態、ポンプ周り、雪の入り込み、地面の凍結。秋田で教わった通り、いきなり車両へ入れず、まず少量を容器に取る。

透明な容器の中で、軽油の色を確認する。

「濁りは……少ない」

ミズホがライトを当てた。

「底に水の分離は見えない。浮遊物も目立たない」

サヤは少し離れて周囲を見ていた。

「人影なし。車も動いてない」

シオナは容器を少し揺らして、質感を見た。

妙な粘りはない。匂いも強く劣化している感じではなかった。

「使えると思う。ただ、底までは吸わない」

ミズホが記録する。

「白沢付近ガソリンスタンド。軽油少量補給。見た目、匂い、分離確認。底部までは使用せず」

サヤが少し笑った。

「もう燃料鑑定団だね」

シオナは真面目な顔のまま答えた。

「止まったら困るから」

「分かってる」

補給は必要最小限にした。

秋田で満タンにしていたので、ここでは満タンを目指すのではなく、余裕を少し足すだけにする。欲張らない。それも教わったことだった。

給油を終えるころには、雪がはっきり降り始めていた。

サヤの肩に白い粒が残る。

「これは、ちゃんと防寒した方がいいね」

ミズホは頷いた。

「ここから峠に近づく。気温も下がると思う」

三人は90式のそばで防寒を整えた。

厚手の手袋。

ネックウォーマー。

帽子。

カイロ。

足元は長靴のまま。

濡れたものは濡れ物箱へ、乾いた予備は車内へ。

シオナはハッチ周りについた雪を払った。

「道の駅やたて峠まで行く。そこで止まって様子を見る」

ミズホが地図を確認する。

「峠へ入る前の確認地点だね」

「うん。そこで人の痕跡があればいい」

サヤは雪の降る北側を見た。

「なければ?」

シオナは少しだけ黙ってから答えた。

「その時は、今日は越えない」

サヤはうなずいた。

「分かった」

三人は再び90式に乗り込んだ。

白沢を過ぎると、道の雰囲気が変わり始めた。

市街地の縁を抜け、峠へ向かう道になっていく。雪はまだ吹雪ではないが、先ほどより強い。道路脇の白さが増し、山の方は灰色に沈んでいた。

シオナはさらに速度を落とした。

30km/hなど出さない。

20km/h台で、路面と前方を見ながら進む。

サヤは外を確認するたび、手早くハッチを閉じた。

「前方、通れる。路肩に雪。吹き溜まり少し。視界はまだある」

ミズホが地図を見る。

「道の駅やたて峠まで、もう少し」

シオナはハンドルを握る手に力を入れすぎないよう意識した。

峠。

山越え。

青森県境。

ここまで来たという感覚と、ここから先が別物だという感覚が同時にあった。

やがて、道の駅やたて峠の案内が見えた。

建物は雪の中に沈むように立っていた。

駐車場は広いが、積雪がある。完全に放棄された雰囲気ではない。入口付近には、最近人が動いたような跡がわずかに残っている。

シオナは駐車場の端に90式を停めた。

「ここで待つ」

エンジンを止める前に、周囲を見た。

人影はない。だが、足跡のようなものがある。雪で半分埋もれているが、完全に古いものではなさそうだった。

三人は建物の中を確認した。

道の駅の内部は冷えていた。

電気はない。

売店は閉まっている。棚の多くは整理されていて、使える物資はすでに誰かが持ち出した後のようだった。

ミズホが掲示板を見つけた。

そこには、手書きの道路状況メモが貼られていた。

矢立峠

秋田側、通行可否は天候次第。

青森側、碇ヶ関方面と不定期接触あり。

夕方以降の峠越え禁止。

風が出たら戻ること。

道の駅で待機推奨。

サヤがそれを読んで、ぽつりと言った。

「待機推奨って、今の私たちそのものだね」

シオナは外を見た。

雪は降り続けている。

視界はまだあるが、山の上の方は白くなっていた。

「しばらく様子を見る」

ミズホも同意した。

「今すぐ峠へ入る理由はない。ここで情報を探そう」

三人は90式に戻り、車内で温かい飲み物を作った。

外は冷えている。道の駅の建物も寒い。90式の中の狭さが、今は逆に落ち着いた。

サヤは手袋の中でカイロを握っていた。

「この先が青森なんだね」

ミズホが地図を広げる。

「矢立峠を越えれば碇ヶ関。そこから弘前方面へ進める」

シオナは前方の白い道を見た。

「でも、越えられれば、だね」

その時、サヤが外を見て声を上げた。

「車が来る」

シオナはすぐに姿勢を正した。

駐車場の入口側に、四輪駆動車が一台、続いてもう一台入ってきた。

雪をかぶった車体。屋根に資材を積み、後部にはスコップや標識板のようなものが見える。

自衛隊車両ではない。

市の車両とも、工事関係の車両とも見える。

しかし、車体には手書きの札が取り付けられていた。

大館・碇ヶ関巡回

サヤが小さく言った。

「いた」

ミズホは記録袋を手に取る。

「慌てない。普通に接触する」

シオナはエンジンを止め、外へ出た。

両手を見える位置にして、車両から降りてきた人たちの方へ向かう。

相手は五人ほどだった。

年配の男性、作業服の女性、消防団らしい防寒着の男性、そして道路管理経験者のような装備をした二人。全員、雪慣れした足取りだった。

先頭の男性は、90式を見て完全に足を止めた。

「……なんだ、これは」

サヤが少し小さな声で言った。

「まあ、そうなるよね」

シオナは頭を下げた。

「こんにちは。南から来ました。秋田駐屯地、能代、ふたついを経由して、大館からここまで来ました。自衛官ではありません」

男性はしばらく90式を見ていた。

「南から……これで?」

「はい。砲弾は積んでいません。移動手段として使っています」

その説明に、消防団らしい男性が少しだけ表情を緩めた。

「撃つ車じゃなくて、走る車か」

シオナはうなずいた。

「そうです」

ミズホが続けた。

「神町、舟形、庄内、にかほ、秋田駐屯地までの情報があります。青森方面へ向かうため、峠の状況を確認したくてここで待っていました」

その言葉に、相手側の空気が変わった。

年配の男性が言った。

「神町が生きているのか」

「はい」

ミズホは記録袋を出した。

「秋田駐屯地にも情報を渡しています」

作業服の女性が、雪を払いつつ言った。

「私たちは大館側と碇ヶ関側の巡回をしてる者です。毎日は無理ですが、天気が落ち着いた日に峠道を見ています」

サヤが身を乗り出した。

「青森側は、どうなんですか」

女性は少し考えてから答えた。

「碇ヶ関には人が残っています。大きな拠点ではありませんが、温泉施設や公共施設を使って、弘前方面とのつながりを保とうとしています」

シオナは静かに息を吸った。

青森側に、人がいる。

ミズホがすぐに聞く。

「弘前までの道は?」

年配の男性が国道の北側を見た。

「国道7号線は、天気が良ければ碇ヶ関までは行ける。ただし、この峠は甘く見ない方がいい。秋田側で見えていても、上で急に白くなる。青森側へ下りる時に路面が凍る場所もある」

道路管理経験者らしい男性が続ける。

「戦車のキャタピラなら雪そのものは踏めるだろうが、だから安全というわけじゃない。道路から外れたら重すぎて面倒だ。橋の上、カーブ、トンネルの出入口、吹き溜まりは慎重に行った方がいい」

シオナはうなずいた。

「今日越えるべきだと思いますか」

巡回班の人たちは顔を見合わせた。

作業服の女性が空を見た。

「今からだと、やめた方がいい。雪が降り出しているし、夕方に近づく。越えるなら明日の朝、風が弱くて視界がある時」

サヤは少し肩を落としたが、すぐに納得したように頷いた。

「やっぱり、待つ日か」

ミズホが言った。

「でも、青森側の情報が得られた。待つ意味はある」

年配の男性は道の駅の建物を指した。

「矢立ハイツ側は一部使えます。電気は弱いが、屋根はある。水も少し出る。温泉は状態次第だが、少なくとも泊まる場所にはなる」

シオナは頭を下げた。

「助かります」

男性は90式をもう一度見た。

「それにしても、よくここまで来たな」

サヤが少し笑う。

「私たちも、毎回そう思ってます」

ミズホはノートを開いた。

「青森側、碇ヶ関に残存者あり。弘前方面との細いつながりあり。峠越えは明朝推奨。夕方以降不可」

シオナは、北へ続く国道を見た。

雪は静かに降っている。

道はまだ見える。けれど、越えない判断をするには十分だった。

神町で学んだ。

にかほで学んだ。

秋田で学んだ。

そして今、矢立峠の手前でも同じことをする。

進めるかもしれない道を、今日は進まない。

その代わり、青森側に人がいることを知った。

それだけで、今日ここに来た意味はあった。

三人は道の駅やたて峠で、峠越えの前夜を迎えることになった。

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財団法人はるな会

人とAIによる共著作品発表のため団体という形のペンネームにしました。複数の世界を、ゆっくり旅する物語を書いていきます。ChatGPTことチャティを相棒としてストーリーの概要や場面についてを対話する形で...

👥 フォロワー: 6人

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