港を離れて洗い流す夜の表紙画像

港を離れて洗い流す夜

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/30 📚 シリーズ: 終末世界90式の旅 📝 2,904文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう

本文

青森港国際クルーズターミナルを離れる時、シオナはすぐに青森駐屯地へ向かうつもりではなかった。

医薬品は渡した。

フェリーと青森駐屯地の無線もつながった。

船側は自主隔離を続け、駐屯地側も定時連絡を取ることになった。

役目は果たした。

けれど、三人は病院へ入り、薬局を回り、港のタラップ下まで医薬品を運んだ。

防護装備をしていたとはいえ、青森市内の感染跡に近づいたことは事実だった。

ミズホは無線を切ったあと、はっきり言った。

「今日は駐屯地には行かない方がいい」

サヤが振り向く。

「念のため?」

「うん。私たちは病院と薬局と港に行った。終末ウィルスじゃなさそうな船には直接触れてないけど、外側に何が付いたか分からない。青森駐屯地に入るなら、こっちで一晩置いて、洗浄して、体調を見てからの方がいい」

シオナは操縦席で前を見たまま頷いた。

「駐屯地には連絡する。今日は市街の外れで泊まって、明日以降に向かう」

ミズホが無線で青森駐屯地へ伝えた。

「こちら90式の三名。フェリーへの医薬品受け渡し完了。念のため、本日は青森駐屯地へ直接向かわず、市内の宿泊施設で洗浄と体調確認を行います。明朝、状況を報告します」

青森駐屯地側の返答は早かった。

『了解しました。その判断を支持します。体調の変化があればすぐ連絡してください。宿泊場所を決めたら、おおよその位置だけ知らせてください』

「了解しました」

サヤは小さく息を吐いた。

「ちゃんと分かってくれるの、ありがたいね」

ミズホは静かに答えた。

「向こうも人員が減ってる。余計なリスクは避けたいはず」

シオナは青森市街の中心へ深入りしないように、通れそうなロードサイドを選んで進んだ。

青森市内は、弘前のように大きく焼け落ちた跡が目立つわけではなかった。けれど、静かだった。

静かすぎる街だった。

車道には放置車両が点々とあり、歩道には雪が積もり、店の看板だけが昔の生活を思い出させる。

人がいたはずの場所から、人の気配だけが抜け落ちている。

サヤが窓の外を見ながら言った。

「弘前とは違うけど……これはこれできついね」

ミズホは頷いた。

「人が少なくなった街」

「東京みたい?」

シオナは少しだけ沈黙した。

「似てる。でも青森は、まだ外側に人がいる。浪岡も駐屯地も船も」

その言葉に、サヤはうなずいた。

やがて、比較的荒れていないホテルが見つかった。

市街中心部から少し外れた場所で、建物のガラスも大きく壊れていない。周囲に放置車両はあるが、入口を塞いではいない。看板は雪に汚れているが、建物そのものは使えそうだった。

シオナは通りの端に90式を停めた。すぐ出られる向き。道路を塞がない位置。いつもの癖になっている。

三人はまず外で手順を確認した。

ミズホが仕切る。

「防護装備は、外でできるだけ外す。汚れた面を内側に触れない。レインウェアは袋に入れる。手袋は最後まで残す。車内に持ち込むものと持ち込まないものを分ける」

サヤが少し疲れた声で言った。

「病院より、脱ぐ方が緊張する」

「脱ぐ時が危ないから」

ミズホは淡々と答えた。

シオナは頷いた。

「手順通りにやる」

三人は駐車場の片隅で、慎重に防護装備を外した。

レインウェアの外側を触らないように、内側へ巻き込む。

テープを剥がし、最後に手袋を外し廃棄する。

N95とゴーグルはすぐ捨てず、袋へ分ける。再利用するものと廃棄するものを分ける。

オリコンを運んだ時に使った箇所、車体の触れた場所、外部ラックの周辺も、消毒液で拭ける範囲を拭いた。

それからホテルへ入った。

館内は冷えていたが、電気は一部だけ生きていた。

ロビーの照明が弱く点き、非常灯も動いている。水道も完全には死んでいないようだった。

サヤがフロント奥を確認して戻ってきた。

「客室、上の階じゃなくて低い階の方がよさそう。階段で行けるし、窓も割れてなさそう」

ミズホはうなずいた。

「まずシャワーが生きてる部屋を探す」

数部屋を確認して、使える部屋を見つけた。

湯は安定していない。

勢いも弱い。

だが、シャワーから温かい水が出た。

それだけで三人は少し黙った。

サヤがぽつりと言った。

「今日、このシャワーはありがたすぎる」

シオナは頷いた。

「念入りに洗おう」

順番はミズホが決めた。

最初にシオナ。

次にサヤ。

最後にミズホ。

「操縦席に一番長くいたし、外で一番多く触ってる。シオナから」

「分かった」

シオナは浴室へ入った。

熱すぎない湯を出し、髪、顔、首、手首、指の間、腕、足元まで丁寧に洗う。

病院の床。薬局の棚。港のタラップ下。

直接触れたわけではないものまで、頭の中に残っている。

洗い流しても、すぐに気持ちが軽くなるわけではなかった。

それでも、湯が流れるたびに、少しずつ体が自分のものに戻ってくる感じがした。

浴室から出ると、サヤが乾いたタオルを渡した。

「どう?」

「生き返る」

「じゃあ私も生き返ってくる」

サヤも念入りに洗った。

普段なら冗談を言いそうなところでも、この時ばかりは静かだった。髪を洗い、手を洗い、顔を洗い、首元を何度も流す。

浴室から戻ると、少しだけ表情が戻っていた。

「シャワー、文明」

ミズホが最後に入った。

彼女は一番時間をかけた。

手順を頭の中で確認しながら、手、腕、顔、髪、首元、足元を丁寧に洗った。病院にいた頃の癖が、こういう時に戻ってくる。

浴室から出ると、サヤが言った。

「ミズホもちゃんと休んで」

「うん」

ミズホは短く答えた。

部屋では、三人分の濡れたものを分けて干した。

病院や港で使った装備は袋に入れ、再利用しないものは封をする。外部ラックへ戻すもの、車内に入れるもの、廃棄扱いにするものを分ける。

それから、ようやく夕食になった。

手持ちの食料で簡単に済ませる。

乾麺と缶詰。温かい茶。

スタバで回収したインスタントコーヒーも、少しだけ試した。

サヤは湯気の立つカップを持って言った。

「コーヒー補給のはずが、フェリー救援になったね」

シオナは少し笑った。

「青森中央インターのスタバ、忘れられない場所になった」

ミズホはカップを両手で包んだ。

「でも、フェリーと駐屯地がつながった。あれは大きい」

「うん」

シオナは頷いた。

「船はもう、ひとりじゃない」

その言葉で、部屋は少し静かになった。

夜、三人は青森駐屯地へ定時連絡を入れた。

「こちら90式の三名。市街国道沿いのホテルに投宿。三名とも現時点で体調異常なし。洗浄実施済み。明朝、再度体調確認後に連絡します」

青森駐屯地から返答があった。

『了解しました。無理に移動せず、今夜は休んでください。フェリーとは定時連絡を開始しました。医薬品受領後、船内対応を進めているとのことです』

ミズホは少しだけ安心したように目を伏せた。

「よかった」

通信を終えると、三人は部屋の灯りを落とした。

外の青森市は静かだった。

弘前のように焼け落ちてはいない。

だが、人のいなくなった市街の静けさは、夜になると一層深くなる。

ホテルの一室だけに、小さな灯りが残っている。

その部屋で三人は毛布にくるまり、できるだけ体を休めた。

明日は青森駐屯地へ連絡し、体調に問題がなければ次の道を聞く。

大湊へ向かう道を。

けれど今夜は、洗って、食べて、眠る。

薬を届けた一日は、そこでようやく終わった。

ジャンル・タグ

, , , , , , , ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 2 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

財団法人はるな会

財団法人はるな会

人とAIによる共著作品発表のため団体という形のペンネームにしました。複数の世界を、ゆっくり旅する物語を書いていきます。ChatGPTことチャティを相棒としてストーリーの概要や場面についてを対話する形で...

👥 フォロワー: 6人

作者ページを見る