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大湊へ入る日

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/31 📚 シリーズ: 終末世界90式の旅 📝 4,112文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう

本文

横浜寮の部屋には、夜になっても小さな生活音が残っていた。

廊下を歩く足音。

どこかの部屋で閉まる扉。

食堂の片付けをする音。

外では風が鳴り、時折、窓に細かい雪が当たる。

三人は順番にシャワーを浴びた。

温泉ではない。

広い浴場でもない。

けれど温かい湯が出て、髪と体を洗えるだけで十分だった。

サヤはタオルで髪を拭きながら、部屋に戻ってきた。

「いやあ……社員寮のシャワー、ありがたさがすごい」

ミズホは自分の荷物を整理しながら答えた。

「昨日まで青森市内で病院と港だったしね。ちゃんと洗える場所があるのは助かる」

シオナは窓際に立ち、道の駅の駐車場に停まっている90式を見ていた。

灯りの中に、白く雪をかぶった車体が見える。

東京からここまで来た戦車。

その先には、大湊がある。

サヤがその横に来た。

「明日、いよいよだね」

「うん」

「本当に大湊まで来たんだね」

シオナは少しだけ黙ってから答えた。

「まだ着いてない」

「そういうとこ、シオナらしい」

ミズホが布団を整えながら言った。

「明日の朝、天気と体調を見てから。寮の人たちに道路状況も聞く」

シオナは振り返った。

「体調は大丈夫」

「今はね」

「明日も大丈夫」

「明日確認する」

サヤが笑う。

「ミズホ監督、最終日まで厳しい」

「大湊に着くまでが旅だから」

その言葉で、部屋は少し静かになった。

大湊に着く。

それは、ただ目的地に到着するだけではなかった。

青森市から切れていた線。

野辺地、横浜、大湊へ続く線。

南から北へ運んできた情報。

東京、水戸、神町、秋田、青森港のフェリー。

三人が走ってきた道が、ようやく大湊へ届く。

その夜、サヤは一番先に寝息を立てた。

ミズホはしばらくノートを確認していたが、やがて灯りを落とした。

シオナは最後まで窓の外を見ていた。

道の駅の駐車場。

90式。

雪。

そして下北の暗い夜。

それでも、この夜は完全な暗闇ではなかった。

寮の灯りがあり、食堂の灯りがあり、大湊へ続く道がある。

シオナは布団に入り、目を閉じた。

明日は、大湊へ向かう。

翌朝、横浜寮の食堂には湯気が立っていた。

炊きたての米。

味噌汁。

焼き魚の缶詰を温めたもの。

漬物。

そして、寮らしく大きなやかんに入った茶。

三人は寮の人々と一緒に朝食を取った。

サヤは味噌汁を飲んで、ほっとしたように言った。

「寮の朝ごはんって感じがする」

作業着の女性が笑った。

「普段ならもう少しちゃんとしてるんですけどね」

「十分です。というか、旅の途中だとすごく豪華です」

シオナは食事を終えると、地図の広げられたテーブルへ移った。

横浜町の行政関係者と、日本原燃の寮に宿泊していた電力関係者、それにむつ方面との連絡を担当している人が、道路状況を説明してくれた。

「下北半島縦貫道路は、ここからむつ市内まで一本で行けるわけではありません。まだ完成していない区間があります。ですから、今日は国道279号線をそのまま北上するのが基本でしょうね」

シオナは地図をなぞった。

「国道279号線を北上。むつ市内へ」

「はい。途中で県道4号線と交差しますが、そのまま進んでください。むつ年金事務所のある交差点まで行けば、そこで国道338号線へ入れます」

ミズホが確認する。

「そこから大湊基地方面へ」

「そうです」

サヤが地図を覗き込んだ。

シオナは頷いた。

「基地側には、こちらのことは伝わっていますか」

「今朝、連絡を入れてみましたが、やはり遠いのと天候のせいか繋がりませんね。野辺地経由で来た90式の三名が大湊へ向かう、と伝えれば大湊側も確認したいことが多いはずです。迎えをどこかに出してくれると思うんですが」

シオナが地図を覗き込みながらつぶやく。

「大湊に近づいたら車載無線機でこちらからも連絡を入れてみます」

ミズホがシオナを見た。

「その前に体調は?」

「問題なし」

「体温」

シオナは何も言わずに体温計を受け取った。

平熱だった。

ミズホは記録してから、ようやく頷いた。

「行ける」

サヤが両手を軽く合わせた。

「ついに許可が出た」

「だから許可制じゃない」

「ほぼ許可制だよ」

食堂にいた人たちが少し笑った。

出発前、寮の人々は90式のところまで見送りに来た。

雪は降っている。

だが、吹雪ではない。

視界はある。風も強くない。

道の駅よこはまの駐車場で、三人は90式の除雪と点検を行った。

シオナは視界装置と操縦席周り。

サヤは外部ラックと濡れ物箱。

ミズホは履帯と荷物の固定。

横浜町の人々は、少し離れたところからその作業を見守っていた。

「大湊に着いたら、南側のことを伝えてください」

行政関係者が言った。

「野辺地、青森、フェリー、青森駐屯地。こちらからも無線を試してもう一度送りますが、直接行った人の話は大きい」

シオナは車体の上から頷いた。

「伝えます」

サヤが続けた。

「横浜町のことも」

ミズホも静かに言った。

「野辺地病院のことも、フェリーのことも、全部」

90式のエンジンが始動した。

低い音が、道の駅の駐車場に響く。

三人はそれぞれの位置についた。

シオナは操縦席。

サヤは車長席。

ミズホは砲手席側。

ハッチを確認し、通信を確認し、進路を確認する。

シオナは静かに言った。

「出発する」

90式は国道279号線へ出た。

雪の降る下北の道を、ゆっくり北上する。

道路には除雪の跡があり、通行は可能だった。

家々の前にも雪かきの跡がある。完全に孤立した地域ではない。電気が生き、水が生き、人が暮らしている。

サヤは外を見ながら言った。

「下北って、ほんとに生きてるんだね」

ミズホは地図を見たまま答えた。

「終末ウィルスが大きく入っていないのが大きい。電力もある。問題は、外との線が切れてたこと」

シオナは前を見た。

「今日、その線がつながる」

国道279号線は、むつ市へ向かって続いていた。

雪は降っているが、視界は保たれている。

海風の影響か、場所によって雪の流れ方が変わる。シオナは無理に速度を上げず、いつものように慎重に進んだ。

やがて、県道4号線と交差する地点を横切る。

サヤが地図を確認した。

「県道4号、通過」

ミズホが続ける。

「次はむつ市内。年金事務所のある交差点で338号線」

「了解」

むつ市に入ると、町の気配はさらに強くなった。

青森市の沈黙とも、野辺地の慎重な生活とも違う。

ここには、まだ行政や拠点がまとまって動いている気配があった。

電気のついた建物。

除雪された駐車場。

動いたばかりの車の轍。

そして、遠くに見える巡回車両らしき影。

サヤが声を上げた。

「前方、車両」

シオナは速度を落とした。

四輪駆動の巡回車両が、道路脇で停まっていた。車体には市の関係車両であることを示す表示がある。中から防寒着姿の人が降り、こちらに向けて手を上げた。

車両を止め、距離を取り、相手に分かるように立つ。

それだけで十分だった。

シオナは90式をゆっくり停めた。

巡回車両の人が近づいてくる。

「むつ市の見回りパトロールです。どちらから来たんですか?」

シオナはハッチから答えた。

「はい。東京から北上してきました。首都圏から福島、山形、秋田を通って青森市内に入り野辺地経由で昨日、横浜町まで到着しました。最終的に大湊基地を目的にしています」

「まずは広い駐車場へ案内します。そこで大湊基地へ取次ぎます。こちらの車について来てください」

「分かりました」

巡回車両が先導し、90式はゆっくり後に続いた。

むつ年金事務所のある交差点で、国道338号線へ入る。

そこから大湊方面へ。

市街地の中を進むため、シオナはさらに慎重になった。交差点、雪で狭まった路肩、放置車両ではないが停まっている車。どれも90式には注意が必要だった。

やがて中央町の交差点沿いに、大きなロードサイド店の駐車場が見えてきた。

巡回車両が先に入り、90式を広い場所へ誘導する。

シオナは出入口を塞がない位置に車体を停めた。

エンジンを落とす。

巡回車両の人物は無線機を使いどこかへ連絡を入れている。

静けさの中でしばらく待っていると、遠くから別の車両音が近づいてきた。

大湊基地からの迎えだった。

数両の車両が駐車場に入ってくる。

先頭には警務隊らしい車両。後ろに連絡要員を乗せた車、整備か警戒のための車両が続く。

降りてきた隊員たちは、明らかに警戒していた。

それでも敵を見る警戒ではない。信じがたいものを確認しに来た者たちの慎重さだった。

警務隊の隊員が前へ出た。

「大湊基地警務隊です。むつ市から連絡を受けています。東京方面から90式で来た三名で間違いありませんか」

シオナはハッチから降り、両手を見える位置にした。

「はい。シオナです。こちらがサヤ、ミズホ。東京から90式で北上してきました。青森市、青森港、野辺地、横浜町の情報を持っています」

ミズホが記録ノートを持って降りる。

「青森港のフェリー、青森駐屯地、野辺地病院との経緯も記録しています」

警務隊員はそのノートを見て、少しだけ表情を引き締めた。

「事情を確認します。ここで簡単に聞き取りを行った後、基地へ誘導します。よろしいですか」

シオナは頷いた。

「お願いします」

聞き取りは駐車場の一角で行われた。

東京で90式を見つけたこと。

大洗、水戸、神町、秋田、青森を経由してきたこと。

青森港のフェリーに医薬品を届けたこと。

青森駐屯地が大湊と連絡を取れていなかったこと。

野辺地病院で医薬品を渡し、燃料補給を受けたこと。

横浜町で大湊方面の情報を得たこと。

警務隊員と基地側の連絡要員は、時折互いに確認しながら話を聞いた。

やがて、基地側の隊員が無線で何かを伝えた。

しばらくして、警務隊員がシオナたちに向き直る。

「基地へご案内します。90式は我々の車両で前後を挟んで誘導します。速度は低速で構いません。指示に従ってください」

シオナは短く答えた。

「了解しました」

サヤは小さく息を吐いた。

「ついに基地だ」

ミズホは静かに頷いた。

「ここまで来たね」

シオナは90式を見上げた。

雪と泥と補修の跡をまとった車体。

砲弾を積まず、砲塔上の機銃もない、撃たない戦車。

それでも東京からここまで、三人を運んできた。

大湊基地の車両が先導に入る。

90式がゆっくり動き出した。

むつ市の道路を抜け、大湊へ向かう。

そこには、明かりがあった。

人がいた。

そして、三人の旅路を受け止める場所があった。

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財団法人はるな会

人とAIによる共著作品発表のため団体という形のペンネームにしました。複数の世界を、ゆっくり旅する物語を書いていきます。ChatGPTことチャティを相棒としてストーリーの概要や場面についてを対話する形で...

👥 フォロワー: 6人

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