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大湊基地の門

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/5/31 📚 シリーズ: 終末世界90式の旅 📝 3,843文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう

本文

大湊基地の車両に前後を挟まれ、90式はゆっくりと大湊地区へ入っていった。

むつ市の中心を抜けた時とは違う空気があった。

道路の雪は払われている。

建物には明かりがある。

車両の轍も新しい。

人の姿もある。

そして何より、道の先に海が見えた。

むつ湾の奥。

冬の鈍い光を受けた水面。

その向こうに、海上自衛隊の施設が続いている。

サヤは車長席から外を見て、声を落とした。

「……本当に着いたんだ」

ミズホは記録ノートを膝に置いたまま、静かに頷いた。

「まだ門の前だけどね」

シオナは前方の誘導車両を見ながら答えた。

「ここまで来た」

その言葉は短かった。

けれど、三人の中ではそれだけで十分だった。

東京からここまで。

大洗。

水戸。

神町。

舟形。

庄内。

にかほ。

秋田。

大館。

矢立。

大鰐。

浪岡。

青森。

浅虫。

野辺地。

横浜町。

名前を一つずつ思い出すだけで、90式の履帯が踏んできた雪と泥の感触まで蘇るようだった。

基地の門の手前で、先導車が停まった。

警務隊の隊員が降り、門の警備員と短く話す。

こちらへ手が上がる。

シオナは90式を指定された位置で停めた。

すぐには門を通されなかった。

当然だった。

東京方面から来た民間人の三人。

乗っているのは90式。

しかも大湊基地側にとっては、横浜町とむつ市からの連絡で初めて全体像が見え始めた存在である。

警務隊員が再び近づいてきた。

「ここから先は、基地内の安全確認手続きに従っていただきます。車両は一度、指定の検査場所へ誘導します。三名は降車後、本人確認と健康確認、事情聴取を受けてください」

シオナは頷いた。

「分かりました」

サヤが少し緊張した声で言った。

「いきなり怒られたりしないよね」

ミズホは小声で答えた。

「怒るより確認が先だと思う」

門が開いた。

90式は大湊基地の中へ入った。

基地内は、終末後とは思えないほど秩序が残っていた。

もちろん平時そのものではない。

車両の配置には臨時の線が引かれ、天幕や仮設の受付が設けられている。倉庫前には物資の箱が並び、隊員たちは防寒着を着て動いている。建物の一部は節電で暗い。

それでも、ここには機能があった。

指示する声。

動く車両。

整備する人。

警戒する人。

記録する人。

三人がここ数週間で見てきた「残された拠点」の中でも、大湊基地は明らかに規模が違った。

サヤが小さく息を呑む。

「人が多い」

ミズホも周囲を見ていた。

「組織として動いてる」

シオナは黙っていた。

大湊に着いた実感が、じわりと遅れてきていた。

指定された広い区画に90式が誘導される。

倉庫と整備場の間にある、車両検査用のような場所だった。

シオナは車体を停め、エンジンを切った。

低い音が止まる。

その瞬間、三人の旅が一度そこで止まったように感じられた。

「降りよう」

シオナが言った。

三人は順番にハッチから出た。

シオナ。

サヤ。

ミズホ。

足元に雪がある。

でも、ここは道の途中ではない。

受け入れるために整えられた場所だった。

警務隊員のほかに、衛生科の隊員、整備の隊員、司令部要員らしい幹部が待っていた。

まずは健康確認だった。

ミズホは経緯を説明した。

「青森市民病院と周辺薬局で医薬品を確保し、青森港のフェリーへ非接触で渡しました。三人とも防護措置を取り、ホテルで洗浄し、その後一晩経過観察しています。シオナが翌朝発熱しましたが、咳、呼吸症状、意識障害はなく、緊張と冷えによる一時的な発熱と判断しました。翌日には解熱し、その後症状はありません」

衛生科の隊員は頷きながら記録した。

「念のため、体温と問診を行います。発熱歴があるので、基地内での移動範囲は最初だけ限定します」

ミズホはすぐに答えた。

「その方がいいと思います」

サヤは小声で言った。

「ミズホが同意するなら確実だね」

体温測定。

喉の確認。

呼吸状態。

問診。

三人とも異常はなかった。

衛生科の隊員は少し表情を緩めた。

「現時点で問題はありません。ただし念のため、今夜までは指定宿泊区画で過ごしてください。食事もそちらへ運びます。明朝もう一度確認します」

シオナは深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

次に、90式の確認が始まった。

整備隊員たちは、車体を見てしばらく言葉を失っていた。

雪道仕様の外部収納。

補強されたラック。

濡れ物箱。

覆いをかけられた砲口周り。

荷物の固定。

履帯の雪道処置。

神町、秋田、各地で受けた手当ての跡。

隊員の一人が、ぽつりと言った。

「よくここまで来たな……」

葛西曹長や秋田駐屯地の整備隊員が見たら、少し誇るかもしれない。

シオナは車体のそばに立った。

「途中でいろんな人に見てもらいました。神町駐屯地、秋田駐屯地、野辺地でも燃料を分けてもらいました」

整備隊員は車体を見上げた。

「砲弾は?」

「最初から積まれていませんでした。一度も撃つために使っていません」

「運用目的は移動と輸送、連絡ですね」

「はい」

その答えに、整備隊員は頷いた。

「後で詳しく確認します。まずは外観と安全確認から」

司令部要員らしい一佐か二佐の男性が、三人の前に立った。

「長旅、お疲れさまでした。ここまで来ていただいたことに、まず感謝します」

その言葉に、三人は少し戸惑った。

怒られるかもしれない。

取り上げられるかもしれない。

そういう覚悟も、どこかにあった。

けれど最初に来たのは、感謝だった。

男性は続けた。

「あなた方が南側から持ってきた情報は、こちらにとって非常に重要です。青森市、青森駐屯地、青森港のフェリー、野辺地病院、横浜町。大湊から見えていなかった線が、ようやくつながりました」

シオナは少しだけ息を呑んだ。

「青森駐屯地とは、やはり連絡が取れていなかったんですか」

「安定した連絡は取れていませんでした。下北半島内の通信は維持していますが、青森市側とは途切れていました。フェリーの存在も、こちらでは把握していません」

ミズホは記録ノートを差し出した。

「ここに、これまでの経路と通信内容、フェリーへの医薬品受け渡し、野辺地病院への引き渡し記録をまとめています」

司令部要員は慎重に受け取った。

「確認します。後ほど、詳しく聞かせてください」

サヤが少し緊張しながら言った。

「あの……青森港のフェリー、駐屯地と連絡はつながりました。薬も渡せました」

男性は頷いた。

「聞いています。あなた方がつないだ線です。こちらからも、大湊側の通信状況を整理したうえで、青森方面との連絡回復を試みます」

シオナはその言葉を聞いて、初めて肩の力を少し抜いた。

つながった。

本当に。

南から持ってきたものが、ここで受け取られた。

その後、三人は簡単な事情聴取を受けた。

東京で90式を見つけた経緯。

なぜ北へ向かったのか。

途中の各拠点の状況。

神町駐屯地の人員規模。

秋田駐屯地の状況。

にかほ、にしめ、能代、大館、矢立、大鰐、浪岡、浅虫、野辺地。

医療物資の移動。

燃料の補給。

90式の整備履歴。

話すことは多すぎた。

すべてを一度に話すのは無理だったため、その日は概要にとどめることになった。

「詳細は明日以降で構いません。今日は休んでください」

司令部要員はそう言った。

指定宿泊区画へ移動する前、三人はもう一度90式を見た。

大湊基地の整備員たちが、車体の周囲で確認作業を始めている。

無理に解体するような扱いではない。

旅をしてきた車両として、慎重に見ている。

サヤは小さく言った。

「預けるって感じだね」

ミズホは頷いた。

「ちゃんと見てもらえる」

シオナは何も言わなかった。

ただ、車体に軽く手を置いた。

冷たい装甲。

何度も触れた感触。

「着いたよ」

誰に言うでもなく、そう呟いた。

宿泊区画は、基地内の隊員用施設の一部だった。

三人には一室が割り当てられた。感染対策のため、最初の一晩は移動を控えるよう言われる。

部屋には暖房があり、寝具があり、電気があった。

サヤはベッドに座るなり、力が抜けたように倒れ込んだ。

「基地だ……」

ミズホは荷物を置き、記録ノートの確認した。

「まだ終わってないけど、一つ終わったね」

シオナは窓の外を見た。

基地の灯り。

動く人。

停まっている車両。

遠くに海。

フェリーが見た明かりは、これだったのかもしれない。

いや、これだけではない。

この地域全体が、まだ灯っていた。

サヤが布団に顔を埋めたまま言った。

「今日、泣いてもいい?」

ミズホは少し驚いて、それから柔らかく答えた。

「いいんじゃない」

シオナは窓から目を離さずに言った。

「私も、少し泣くかも」

サヤが顔を上げた。

「珍しい」

「珍しくない」

「珍しいよ」

ミズホは二人を見て、小さく笑った。

その夜、三人は大湊基地で夕食を取った。

食堂ではなく、宿泊区画へ運ばれてきた食事だった。

白米。

温かい汁物。

缶詰ではない魚。

野菜の煮物。

サヤは箸を持ったまま、しばらく黙っていた。

「普通のごはんだ」

ミズホが頷いた。

「普通って、すごいね」

シオナは一口食べた。

温かかった。

その温かさで、胸の奥に張っていたものが少し崩れた。

東京から大湊まで。

砲弾を積まない90式で、三人は走ってきた。

誰かと出会い、情報を渡し、物資を運び、燃料をもらい、また進んだ。

終末の中で、道は途切れていなかった。

途切れていたのは、線だった。

そして今日、その線の一つがつながった。

夕食の後、三人はそれぞれ黙って布団に入った。

疲れは深かった。

安心も深かった。

外では、大湊基地の灯りが静かに夜を照らしている。

シオナは目を閉じる前に、最後に一度だけ呟いた。

「大湊に着いた」

サヤが隣で小さく返した。

「うん」

ミズホも静かに言った。

「着いたね」

その夜、三人は久しぶりに、目的地へたどり着いた者の眠りについた。

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財団法人はるな会

人とAIによる共著作品発表のため団体という形のペンネームにしました。複数の世界を、ゆっくり旅する物語を書いていきます。ChatGPTことチャティを相棒としてストーリーの概要や場面についてを対話する形で...

👥 フォロワー: 6人

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