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第十九話 僕だけは、絶対に忘れない…

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/1 📚 シリーズ: 野薔薇のアリス〜溺愛白うさぎと忘れられた約束〜 📝 4,365文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

〜不思議の国のアリスをモチーフにした作品です〜 十四歳の少女アリスは、姉の結婚式の日、白兎に導かれて“不思議の国”へ迷い込む。 そこにいたのは、白兎の姿を持つ美青年ノア。 優しく甘くアリスを守る彼は、この国に隠された秘密を知っていた。 「君はこの国を選んだんだ」 失われた八年前の記憶。 薔薇の鍵。 ハートの女王。 そして、白兎の隠した小さな昨日。 守られているのか、閉じ込められているのか。 アリスは信じたい気持ちと疑う心を抱えながら、自分自身の物語を取り戻していく。 可憐で不穏な、童話ファンタジー。 白兎は、私を救いに来たの? それとも、もう二度と帰さないために迎えに来たの?

本文

第十九話 僕だけは、絶対に忘れない…

 黒い霧はまだ遠くで蠢いている。

 足元は見えない。地面があるのか、それとも深い穴の上を歩いているのかも分からない。けれどノアの手があるだけで、不思議と足は前に出た。

 闇の中には、時々声が浮かんだ。

 アリスの名前を呼ぶ声。

 お母様の優しい声。

 おじい様の笑い声。

 エドワードの笑い声。

 時計の針の音。

 そして、遠くから聞こえるチェシャ猫の笑い声。

 くすくす。

 くすくす。

 どこからともなく響いてくる。

「まったく」

 ノアが低く呟いた。

「底意地が悪いね、チェシャ猫は」

「ねぇ、ノア……ここはどこなのかな?」

 アリスが呟くと、ノアは前を見たまま答えた。

「チェシャ猫のお腹の中」

「えっ」

「正確には、帰り道を忘れさせる場所だよ。怖いもの、欲しいもの、忘れたものを見せて、出られなくする」

「出られるの?」

「出る」

 即答だった。

 それは願いではなく、決定のように聞こえた。

 アリスはノアの横顔を見上げた。

 暗闇の中でも、彼の白い髪だけは淡く光っている。白銀の糸を月明かりで編んだみたいに、黒い霧の中でぼんやり浮かんでいた。

 その時、前方に白い霧が現れた。

 ノアの足が止まる。

「……白い霧」

 以前、夢と記憶の狭間で見た霧に似ていた。

 けれど、あの時とは違う。目の前の霧は柔らかく、淡いのに、底が見えないほど深い。

 まるで月明かりを溶かした霧だった。

 ノアの声が、少し低くなる。

「記憶を見せる霧……」

 アリスはノアの手を握る力を強めた。

「誰の記憶?」

 ノアは答えなかった。

 答える前に、白い霧が二人を包み込んだ。

 視界が溶ける。

 暗闇も、足元も、ノアの手の感触さえ、一瞬ぼやける。

 どこかで、古い扉の蝶番が軋む音がした。

 ぎい、と。

 長い間、誰にも開かれなかったものが、ゆっくり目を覚ますような音だった。

 アリスは息を止めた。

 そして、次に見えたのは、暗い洞窟だった。

 湿った石の匂いがする。

 壁には古い蔦のような根が這い、天井からは水滴が落ちていた。ぽたり、ぽたりと落ちる音が、洞窟の奥へ吸い込まれていく。

 その奥に、古い扉があった。

 木でできているのか、石でできているのかも分からない。縁には見たことのない文字が刻まれ、鍵穴の周りだけが、淡く白く光っている。

 扉の前に、少し幼いノアがいた。

 今よりも、どこか細くて、頼りなくて、それでも白い髪と赤い瞳だけは変わらない。

 そのノアが、立ち去ろうとする女の人の手を掴んでいた。

 長い髪の女の人だった。

 顔はよく見えない。

 けれど、その背中は泣いているみたいに震えていた。

「行かないで! お願い!」

 幼いノアの声が、洞窟に響いた。

 アリスは胸を押さえる。

 そんな声を、聞いたことがなかった。

 甘く笑う白兎ではなく、何かを失うことを怖がっている、ひとりの子どもの声だった。

 女の人は足を止めた。

 けれど、振り返らない。

「ごめんね……ノア」

 かすかな声だった。

 優しくて、苦しそうな声。

「私がここにいたら、全部が壊れてしまう」

「壊れたっていい!」

 ノアが首を振る。

「僕がなんとかする。だから、行かないで。お願いだから……!」

 女の人の肩が震えた。

 その時だった。

 洞窟の奥から、別の声がした。

「その扉を開けるな」

 男の声だった。

 低く、美しく、けれど凍りつくほど暗い声。

 アリスは、思わず息を呑んだ。

 声だけなのに、空気が変わった。

 洞窟そのものが、その男を恐れているみたいだった。

「どこにも行かせない。彼女は、僕のものだ」

 男の姿が、霧の向こうに浮かび上がる。

 黒い影のようだった。

 顔は見えない。

 けれど、その人が一歩近づくたび、洞窟の床に黒い染みが広がっていく。

 ノアが女の人の前に立った。

「やめてください!」

 幼い身体で、必死に腕を広げる。

 女の人を背に庇うように。

「お願いです、グレイ様……!」

 男は答えなかった。

 ただ、ゆっくりと片手を上げる。

 ノアの赤い瞳が見開かれた。

「やめて!」

 その声が届く前に、男の手が振り下ろされた。

 黒い渦が広がる。

 洞窟の床から、壁から、古い扉の隙間から、黒い霧が噴き出した。渦は音もなく膨れ上がり、ノアも、女の人も、扉も、全部を飲み込もうとする。

 幼いノアが女の人の腕にしがみつく。

 けれど、黒い渦は容赦なく二人を引き裂いた。

「ノア!」

 女の人の声が聞こえた。

 その声も、すぐに闇に呑まれた。

 景色が裂けた。

 白い霧が渦を巻き、洞窟の輪郭がほどけていく。

―――――――

 水滴の音が、鎖の音に変わった。

 かしゃん。

 かしゃん。

 白い霧の中で、赤い光が一筋走る。

 次の瞬間、場面が変わった。

 今度は、ハートの女王の城だった。

 白い大理石の床。

 赤い絨毯。

 大きな玉座。

 そこに、ハートの女王がいた。

 豊かな赤い髪。

 妖艶な微笑み。

 けれど、その顔は怒りに歪んでいた。

 ノアは床に倒れている。

 女王の足が、ノアの肩を踏みつけていた。

 見ていたアリスは息を呑む。

 声が出なかった。

「お前のせいだ!」

 女王の声が、広間に響く。

「すべて、お前のせいじゃ! 責任を取るのじゃ!」

 ノアは抵抗しなかった。

 床に片手をつき、苦しそうに息をしている。それでも顔を上げ、女王を見る。

「……責任なら、取ります」

 女王の目が細くなった。

「よかろう。ならば白兎、その首にわらわの錠を受けよ」

 女王が扇子を振る。

 赤い光が走った。

 次の瞬間、ノアの首に錠がかけられた。

 血のような赤の錠。

 そのまま鎖は首筋の脈と共に沈んで消えていく。

 ノアの白い耳が、わずかに震えた。

 アリスの胸が締めつけられる。

 鎖。

 ガルが言っていた。

 白兎は、この国で最も自由に見えて、最も重い鎖を持つ存在。

 それは比喩ではなかったのかもしれない。

 ノアは、ずっと縛られていたのだ。

 女王の声が響く。

「白兎よ。お前は門を開ける者。ならば、閉じる責も負え」

 ノアは目を伏せた。

「……はい」

 その返事は、今まで聞いたどの「はい」よりも重かった。

 赤い光が、白い霧の中で細く震えた。

 かしゃん、と音がする。

 次の瞬間、その光は霧の中で一本の道になった。

―――――――

 アリスが瞬きをした時、もうそこは城の入り口だった。

 まだ少し幼いガルがいた。

 今よりずっと背が低く、狼の耳も小さい。黒茶色の髪は乱れ、青い瞳には警戒と怯えが混じっていた。

 その手を引いているのは、ノアだった。

 ノアは、幼いガルを城へ連れてきた。

「この子を、置いてください」

 ノアが言う。

 声は穏やかだが、芯があった。

 玉座の前で、ハートの女王が激怒している。

「また拾ってきたのか、白兎!」

 女王の赤い髪が揺れる。

「城は迷い子の巣ではない!」

「分かっています」

「ならば捨ててこい」

 幼いガルの手が、びくりと震えた。

 ノアはその手を離さなかった。

「できません」

 女王の目が細くなる。

「お前は本当に、面倒なものばかり拾う」

 ノアは、いつものように少し笑った。

 けれどその笑顔は、今のアリスが知る砂糖菓子の笑顔より、ずっと苦かった。

「困りましたね。見つけるのは得意なのに、手放し方だけはどうにも覚えられなくて」

 幼いガルが、ノアを見上げる。

 その青い瞳に、初めて小さな光が灯った。

 アリスは胸が熱くなるのを感じた。

 ガルは、ノアに拾われたのだ。

 だからガルは、ノアを疑いながらも、離れなかったのかもしれない。

 危うい人だと知っていても、きっと彼なりに、ノアを守ろうとしていた。

 白い霧がまた濃くなる。

―――――――

 今度は、かすかに、レースのカーテンが揺れる音がする。

 暗い部屋。

 小さなベッド。

 そこに、足に鎖をつけられた幼いアリスがいた。

 思わずアリスは息を呑んだ。

 以前、夢と記憶の狭間で見た、あの恐怖を思い出す。

 冷たいノア。

 鎖に繋がれ、怯える幼い自分。

 けれど、あの時見たものとは何かが違っていた。

 頬を涙で濡らし、必死にノアの服を掴んでいる。

「いや!」

 幼いアリスが泣いていた。

「行かないで、ノア!」

 ノアはその前に膝をついている。

 今と同じ顔。

 けれど、涙を流していた。

 アリスは、息が止まった。

 ノアが泣いている。

 あのノアが。

 いつも笑って、すべてを誤魔化して、どこか掴めない白兎が。

 幼いアリスの前で、静かに涙を落としていた。

「ごめんね」

 ノアが言う。

 声が震えていた。

「アリス、ごめん」

「いや、忘れたくない」

 幼いアリスは首を振る。

「ノアのこと、忘れたくない!」

 ノアの顔が歪む。

 その苦しそうな表情に、今のアリスの胸まで裂かれるようだった。

「忘れないと、君は帰れない」

「帰らない!」

「帰らなきゃだめだ」

「いや!」

 幼いアリスは泣きながら、ノアに縋った。

 ノアはその小さな身体を抱きしめる。

 きつく。

 けれど、壊さないように。

 まるで自分の一部を引き剥がされる人のように。

「その時が来たら」

 ノアの声がかすれる。

「僕が迎えに行く」

「ほんと?」

「ほんと」

「絶対?」

「絶対」

 幼いアリスが、小指を差し出した。

 ノアは一瞬だけ固まる。

 それから、涙の残る顔で小さく笑い、自分の小指を絡めた。

「約束」

 幼いアリスが言う。

 ノアは目を閉じた。

「約束」

 その言葉の直後、ノアは小瓶を取り出した。

 淡い青色の液体。

 アリスが霧の中で見た、あの小瓶。

 幼いアリスは泣き疲れて、ノアの腕の中でうとうとしている。

 ノアは震える手で、瓶の蓋を開けた。

「ごめん」

 もう一度、そう言った。

 その声は、ほとんど祈りだった。

「君が生きて帰るために」

 青い香りが、部屋に広がる。

 幼いアリスの瞳が、ゆっくり閉じていく。

 それでも最後に、彼女は小さく呟いた。

「ノア……忘れないで……」

 ノアの涙が、幼いアリスの頬に落ちた。

「忘れないよ」

 彼は答えた。

「僕だけは、絶対に忘れない」

 白い霧が、すべてを包み込んだ。

 アリスは立ち尽くしていた。

 胸の奥が痛い。

 息をするのが苦しい。

 ノアは、記憶を奪った。

 それは間違いない。

 けれど、そこにあったのは冷たい悪意ではなかった。

 泣きながら、それでもそうするしかなかった人の手だった。

 守るため。

 隠すため。

 どちらでもあった。

 どちらか一つではなかった。

 アリスは、白い霧の中で小さく震えた。

 ノアの手が、今のアリスの手を強く握っていることに気づく。

 隣にノアがいる。

 彼は何も言わなかった。

 赤い瞳の奥で、長い年月をひとりで抱えてきた痛みだけが、声にならないまま揺れていた。

 アリスは初めて思った。

 自分だけが忘れていたのではない。

 ノアだけが、ずっと覚えていたのだ。

 八年前の約束も。

 泣いて縋った幼いアリスの声も。

 忘れないで、という最後の願いも。

 全部。

 白兎だけが、抱え続けていた。

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作者について

ニワコ

ニワコ

ChatGPTと協力しながら物語を書いています。フォロー大歓迎! キャラクターやお話の流れは、すべてオリジナルで、AIには主に文章作成や表現の整理を手伝ってもらっています。 ずっと頭の中にあった物...

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