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第二十三話 愛しさが生まれる日

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/4 📚 シリーズ: 野薔薇のアリス〜溺愛白うさぎと忘れられた約束〜 📝 5,447文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

〜不思議の国のアリスをモチーフにした作品です〜 十四歳の少女アリスは、姉の結婚式の日、白兎に導かれて“不思議の国”へ迷い込む。 そこにいたのは、白兎の姿を持つ美青年ノア。 優しく甘くアリスを守る彼は、この国に隠された秘密を知っていた。 「君はこの国を選んだんだ」 失われた八年前の記憶。 薔薇の鍵。 ハートの女王。 そして、白兎の隠した小さな昨日。 守られているのか、閉じ込められているのか。 アリスは信じたい気持ちと疑う心を抱えながら、自分自身の物語を取り戻していく。 可憐で不穏な、童話ファンタジー。 白兎は、私を救いに来たの? それとも、もう二度と帰さないために迎えに来たの?

本文

第二十三話 愛しさが生まれる日

 マッドの洋館を出た時には、もう夜だった。

 帰り道も、ノアはほとんど何も話さなかった。

 ただ、手だけは離さないように強く握られていた。

 家に戻ると、部屋には小さなランプの灯りだけがともっていた。

 昼間なら明るく可愛らしい家も、今夜は少しだけ静かすぎた。

「お腹、空いたでしょう」

 ノアはそう言うと、アリスの返事を待たずにキッチンへ向かった。

 棚を開ける。鍋を出す。食器を並べる。野菜を取り出す。まな板を置く。

 カタン、カチャリ、と音が続く。

 いつもなら、ノアの台所仕事は静かで、なめらかだった。何をするにも無駄がなくて、野菜を切る音さえ心地よく聞こえる。

 けれど今夜は違う。

 皿が少し乱暴に触れ合う。鍋の蓋がかすかに跳ねる。棚の扉が閉まる音が、いつもより少しだけ大きい。

 ノアはアリスを見なかった。

 一度も。

 その白い背中を見て、アリスは分かった。

 ノアは怖がっている。

 アリスが、もう自分を信じてくれないのではないかと。

 またどこかへ行ってしまうのではないかと。

 それが怖くて、目を合わせられないのだ。

「ノア」

 アリスは静かに呼んだ。

 ノアの兎耳が、ぴくりと動く。

「うん?」

 声だけは、いつものように柔らかかった。

 けれど、振り返らない。

「まず、座ってください」

「でも、夕食を作らないと。今日は色々あったし、温かいものを食べた方が――」

「夕食はあとでいいです」

「若い子はちゃんと食べないと」

「ノア」

 アリスの声が、少しだけ強くなった。

 ノアの手が止まる。

 まな板の上には、まだ切られていないムラサキねむりかぶが置かれている。眠そうな野菜が、ふぁ、と小さくあくびをした。

 こんな時まで眠そうにしないでほしい。

 少しだけ、気が抜けそうになる。

 けれど、今は笑って逃げてはいけない。

 アリスはノアのそばへ行き、彼の手から包丁をそっと取った。

 ノアは抵抗しなかった。

 アリスは包丁をまな板の横へ置き、それからノアの手を引く。

「座って」

 ノアは困ったように笑おうとした。

 けれど、うまく笑えていなかった。

 アリスはそのまま、彼を食卓の椅子に座らせた。

 いつもは逆だった。

 ノアがアリスを座らせ、温かい食事を出し、紅茶を淹れてくれる。アリスが戸惑えば助け、怖がれば待ってくれる。

 けれど今夜だけは、アリスがノアの沈黙に手を伸ばしたかった。

 白兎が扉の向こうへ隠れてしまう前に。

 その細い鍵穴の前で、ちゃんと名前を呼んでいたかった。

 アリスはノアの正面に座った。

 丸い食卓の上には、まだ何もない。

 スープも、パンも、紅茶もない。

 ただ、二人の間に、八年分の沈黙が置かれていた。

「話して」

 アリスは、ノアの目をまっすぐ見た。

「私、知りたいです。忘れてしまったことも、……私が、どうしてここにいるのかも」

 ノアの赤い瞳が揺れた。

 逃げ道を探すように、一度だけ視線が横へ逸れる。

 アリスは黙って待った。

 どうか、また笑って遠くへ逃げないで。

 声に出せば泣いてしまいそうで、アリスはただノアを見つめた。

 ノアも、やがてこちらを見返した。

 二人の間に、言葉にならない沈黙が落ちる。

 それは冷たい沈黙ではなかった。

 痛いほど切実な、逃げ場のない沈黙だった。

 ノアは小さく息を吐いた。

 そして、ようやく口を開いた。

「君が初めてワンダラーへ来たのは、六歳の頃だった」

 アリスは黙って聞いていた。

 思い出せない。

 けれど、完全に知らない話にも聞こえなかった。

 白兎。

 薔薇園。

 小さな手。

 追いかけた背中。

 霧の奥に沈んだ記憶の欠片が、胸の奥でかすかに揺れる。

「君は、僕を追いかけてこの不思議の世界へ来てしまった」

 ノアは、少しだけ目を伏せた。

「本来なら、君はこちらへ来る予定ではなかった。だけど、あの日、扉のほつれに君が触れてしまった。そしてワンダラーへ入り込んでしまった」

「それで……?」

「ここで、君はとても価値のある存在だと分かった」

 ノアの声は静かだった。

 けれど、ひとつひとつの言葉が重い。

「この世界の均衡を守る鍵。ワンダラーの歪みを正すための、特別な役目を持つ子だと」

「私が……?」

 アリスは思わず、自分の胸元に手を当てた。

 そんな大きなものが、自分の中にあるとは思えなかった。

 世界の均衡を守る鍵。

 あまりに大きすぎて、現実味がない。

 けれどノアの顔は真剣だった。

 冗談でも、甘い嘘でもない。

「でも、君はまだ幼かった」

 ノアは続けた。

「六歳の子どもに背負わせていいものじゃなかった。だから、僕たちは約束をした」

「約束……」

「十六歳の誕生日に、君を迎えに行くと」

 十六歳。

 その言葉が、部屋の中に静かに落ちた。

 アリスの胸が、ぎゅっと縮む。

「十六歳の誕生日に、一体何が起きるの……?」

 ノアの顔が強張った。

 それまで何とか言葉を選んでいた彼の表情が、そこで初めてはっきり崩れた。

「それは……」

 ノアの喉が動く。

「君は……くっ……!」

 次の瞬間だった。

 ノアの首元で、紅の光が走った。

 アリスは息を呑む。

 首の錠。

 白い霧の記憶で見た、ハートの女王にかけられた錠。

 普段は見えないそれが、今、ノアの白い首に浮かび上がっていた。

 赤い蔦のような鎖が、首筋に絡みついている。

 薔薇の茎にも似たそれは、細いのにひどく冷たく、棘を持っていた。蔦はノアの喉元を締めあげるように巻きつき、胸元には紅い錠が脈打つように光っている。

 まるで、心臓の代わりにそこだけが血を流しているみたいだった。

「ノア!」

 ノアは苦しそうに喉元を押さえた。

 それでも、口を開こうとする。

「アリス、君は……十六に、なったら……」

 言葉が途切れる。

 錠が強く締まった。

 赤い蔦が首に食い込む。棘が白い肌を掠め、血が滲む。

 ノアの顔が苦痛に歪む。

 それでも、話そうとしていた。

 契約で話せないことを、無理に破ろうとしている。

 それがアリスにも分かった。

 赤い蔦がさらに締めあげる。棘が食い込み、一筋、血が首筋を流れる。

「やめて!」

 アリスは椅子を蹴るように立ち上がった。

 ノアのそばへ駆け寄り、彼の身体を抱き寄せる。

「もういいです。話さないで」

「そんなわけには……」

「いいの!」

 アリスは、ノアの頭を胸に抱くようにして強く言った。

 ノアの身体が震えている。

 いつもなら、怖いものからアリスを遠ざける人だった。

 危ないものを先に見つけて、痛いものを先に受け止めて、何でもない顔で笑ってくれる人だった。

 その人が今、アリスの腕の中で苦しそうに息をしている。

 守られるばかりだった自分の手が、こんなにも頼りなく思えたことはなかった。

 それでも、離したくなかった。

「私、知りたいです。でも、こんなふうに苦しむノアを見るくらいなら、今は知らなくていい」

 ノアの手が、アリスの袖を掴んだ。

 弱い力だった。

「ごめん……」

「謝らないでください」

「また、肝心なところで言えない」

 ノアの声は、かすれていた。

「言えないままだと、君はきっと、僕のそばからいなくなる」

 アリスは息を呑んだ。

 ノアは目を伏せたまま、苦しそうに続ける。

「当然だよ。僕は君に隠し事ばかりして、記憶まで奪って、それでも信じてほしいなんて……そんなの、都合がよすぎる」

「ノア……」

 その言葉は、あまりにも正直だった。

 いつもの甘い笑顔も、軽い言い訳もない。

 ただ、失うことを怖がっている。

 白兎が、初めてその弱さを隠さなかった。

 アリスは、彼の白い髪に頬を寄せる。

 白い髪は、夜のランプの灯りを受けて、月明かりをほどいた糸みたいに淡く光っていた。けれど、その下で震えている身体は、作り物でも、物語の案内役でもない。

 傷つくことを知っている、ひとりの人だった。

「じゃあ、言えるところから聞きます」

 ノアが、わずかに目を見開いた。

「言えないことまで、無理に言わなくていいです。私は、ノアを苦しめたいわけじゃないから」

 アリスはノアの首元に目を落とした。

 赤い蔦は、少しずつ光を弱めている。

 けれど棘の痕は残っていた。白い肌に薄く刻まれた赤が、ランプの灯りの下で痛々しく浮かんでいる。

 胸の奥が、ぎゅっと痛んだ。

 知らないままでいるのは怖い。

 でも、知らされるためにノアが傷つくのは、もっと嫌だった。

 アリスは袖を握りしめる。

 泣きたいのを堪えるみたいに、一度だけ唇を結んだ。

「でも、嘘は嫌です」

 アリスは静かに言った。

「話せないなら、話せないって言ってください。隠すなら、せめて……理由をちゃんと教えてください」

 ノアは何も言えなかった。

 アリスは、袖を掴む彼の手に、自分の指をそっと重ねる。

「私は、あなたと一緒にいます」

 ノアの呼吸が止まった。

 アリスは続ける。

「十六歳の契約が、ノアを縛っているものなら、私もちゃんと向き合います。逃げません」

「アリス……」

「ノアを解放したいんです」

 ノアが、ゆっくり顔を上げた。

 赤い瞳が揺れていた。

「僕を……?」

「はい」

 アリスは涙を堪えながら微笑んだ。

「ノアは、ずっと私を守ろうとしてくれたんでしょう。なら今度は、私もノアを助けたい」

 けれど、そこでアリスは少しだけ目を伏せた。

「でも」

 ノアの指が、ぴくりと動く。

「ノアを解放できたら、その時は……私は、元の世界に帰ります」

 部屋の空気が、静かに止まった。

 ノアは何も言わなかった。

 笑わなかった。

 ただ、アリスを見つめていた。

 その瞳に浮かんだものが痛くて、アリスは胸が苦しくなる。

「お姉様がいます。帰らなきゃいけない場所があるんです」

「……うん」

 ノアは小さく頷いた。

 とても静かな声だった。

「分かってる」

 分かっている人の声だった。

 けれど、平気な人の声ではなかった。

 アリスは唇を噛む。

「だから、それまでは」

 アリスはそっと、小指を差し出した。

 ノアが不思議そうに瞬きをする。

「約束です」

「約束?」

「はい。ノアは、話せることをちゃんと話す。私は、ひとりで勝手に逃げたりしない。」

 ノアは差し出された小指を見つめた。

 まるで、小さな鍵でも渡されたみたいに。

「……いいの?」

 アリスは頷いた。

「それで、ノアを解放するまで、一緒にいます」

 アリスの声は震えていた。

 けれど、逃げなかった。

「約束します」

 ノアはしばらく動かなかった。

 やがて、ゆっくりと自分の小指を絡める。

 白い指が、アリスの小指にそっと触れた。

 壊れ物に触れるみたいに。

「……約束」

 ノアの声は、ひどく小さかった。

 アリスは小指をきゅっと絡める。

「約束です」

 その瞬間、ノアの瞳に、言葉にならない感情が浮かんだ。

 愛おしそうで。

 苦しそうで。

 触れてはいけない光に触れてしまった人のような目だった。

 長い沈黙が落ちる。

 二人は、すぐ近くで見つめ合っていた。

 アリスは初めて、ノアの瞳の奥にある孤独をはっきり見た気がした。

 白兎は、ずっと扉を開ける側だった。

 誰かを送り出し、誰かを迎え、誰かのために道を作る。

 けれど、彼自身を迎えに来る人は、誰もいなかったのかもしれない。

 そう思った瞬間、胸の奥に小さな火が灯った。

 それは同情ではなかった。

 恩返しだけでもなかった。

 もっと柔らかくて、もっと苦しいもの。

 名前をつけるには、まだ早い。

 けれど確かに、そこに生まれ始めていた。

 ノアも、それに気づいたのかもしれない。

 彼の瞳が、ふっと大きく揺れた。

 そして次の瞬間、はっと我に返ったように俯いた。

「……駄目だね」

「え?」

「僕はまた、君に背負わせようとしている」

「違うわ。私が選んだの」

「君はまだ子どもだ」

「ノアはすぐそれを言いますね」

「言わないと、忘れそうになるから」

 その言葉に、アリスの胸が小さく跳ねた。

 ノアは苦しそうに笑った。

「……忘れたら、だめなんだ」

 いつものノアが少しだけ戻ったようで。

 けれど、戻りきれない痛みもそこにあって。

 アリスは何も言えなかった。

 ノアはしばらく黙っていた。

 けれど、ふいに顔を上げる。

「……手紙なら出せる」

「えっ?」

「元の世界のお姉さん宛に。君が無事だって、手紙なら送れる」

 アリスは目を見開いた。

「本当に?」

「うん。扉を直接開くのは危険だけど、手紙だけなら通せる。時間のずれもあるから、届き方には少し工夫がいるけど……できる」

 その瞬間、胸の中に詰まっていたものがほどけた。

 お姉様。

 結婚式の日に突然いなくなった妹を、きっと心配している大切な姉。

 自分が生きていると伝えられる。

 無事だと、知らせられる。

「ありがとう!」

 アリスは思わずノアに抱きついた。

 ノアの身体が、びくりと固まる。

 けれどすぐに、彼の手がアリスの背中へ回った。

 遠慮がちに。

 壊れ物を抱くように。

「どういたしまして」

 ノアの声は、少しだけ震えていた。

 アリスはその胸元で目を閉じた。

 帰る道は、まだ見えない。

 十六歳の契約をして、ノアを助ける。

 それが今のアリスに見えた、たったひとつの目標だった。

 アリスはやっと少しだけ息ができた気がした。

 元の世界には、大切な人がいる。

 帰りたい場所がある。

 でもこの世界にも、守りたい人ができてしまった。

 その事実は、温かくて、少しだけ泣きたくなるほど綺麗だった。

 愛しさが生まれる日は、きっと音もなくやってくる。

 花が咲くみたいに派手ではなく、雷が落ちるみたいに激しくもなく。

 ただ、誰かの震える手を、離したくないと思った瞬間に。

 胸の奥で、小さく灯るのだ。

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作者について

ニワコ

ニワコ

ChatGPTと協力しながら物語を書いています。フォロー大歓迎! キャラクターやお話の流れは、すべてオリジナルで、AIには主に文章作成や表現の整理を手伝ってもらっています。 ずっと頭の中にあった物...

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