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第二十四話 お誕生日おめでとう!

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/5 📚 シリーズ: 野薔薇のアリス〜溺愛白うさぎと忘れられた約束〜 📝 7,371文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

〜不思議の国のアリスをモチーフにした作品です〜 白兎に導かれて“不思議の国”へ迷い込む、十四歳の少女アリス。 そこにいたのは、甘く優しい白兎の美青年ノア。 アリスを守る彼は、この国に隠された秘密を知っていた。失われた記憶を巡り物語が再び動き出す。 可憐で不穏な、童話ファンタジー。 白兎は、私を救いに来たの? それとも、もう二度と帰さないために迎えに来たの?

本文

第二十四話 お誕生日おめでとう!

 ワンダラーで迎える朝は、いつも少しだけ現実味が薄い。

 窓辺のレースカーテンは、夜露を含んだ光を受けて淡く透けていた。外では、青い鳥が屋根の上で逆さまに止まりながら歌っている。畑の方からは、ムラサキねむりかぶの小さなあくびが聞こえた。

 ふぁあ、と眠たげな声。

 それにつられて、アリスも小さくあくびをした。

 今日は、十五歳の誕生日だった。

 けれど、朝目覚めた瞬間、アリスはそのことを少しだけ忘れていた。

 枕元に、薄い水色の封筒が置かれていたからだ。

 アリスは目を瞬かせた。

 封筒には、見慣れた丁寧な字で名前が書かれている。

『アリスへ』

 お姉様の字だった。

 胸が、どくんと鳴った。

 アリスは慌てて身を起こす。封筒を手に取る指が震えた。

 ノアが言っていた。

 元の世界へ、手紙なら送れる、と。

 あの夜、アリスは何度も書き直して、姉へ手紙を書いた。

 自分は無事でいること。詳しい場所は言えないけれど、心配しないでほしいこと。必ず帰ること。屋敷のことをお願いしたいこと。

 泣きながら書いた手紙だった。

 その返事が届いたのだ。

 アリスは息を詰めたまま、封を開く。

 便箋には、お姉様らしい整った文字が並んでいた。

 ――アリス。あなたが無事でいてくれたこと、それだけで私は救われました。

 最初の一文を読んだだけで、視界が滲んだ。

 お姉様は怒っていなかった。

 責めてもいなかった。

 ただ、無事でいてくれてよかったと書いていた。

 屋敷では、アリスが突然姿を消したことで大きな騒ぎになったこと。けれど、時間の流れに奇妙なずれがあるのか、こちらで過ごした日々ほど、向こうでは時間が進んでいないらしいこと。

 叔父たちは相変わらずだが、お姉様は旦那様と一緒に薔薇園を守ってくれていること

 ひとつひとつの言葉が、胸の奥へ染み込んでいく。

 最後には、こう書かれていた。

 ――この手紙が、あなたの十五歳の誕生日の頃に届くことを祈っています。少し早くても、少し遅くても、どうか受け取って。お誕生日おめでとう、アリス。あなたがどこにいても、私はあなたのお姉様です。帰る場所は、ちゃんとここにあります。だから焦らず、あなたが信じる道を選びなさい。

 アリスは便箋を胸に抱いた。

 涙が、ぽろぽろ落ちる。

 帰る場所がある。

 その言葉は、痛いくらい温かかった。

 けれど、涙の奥で、ふと小さな違和感が揺れた。

 便箋の最後。

 そこに書かれていた署名。

 〈愛を込めてローズマリーより〉

 アリスは、指先でその名前をなぞった。

「……ローズマリー、お姉様」

 声に出した瞬間、胸の奥で何かがかちりと合った。

 そうだ…。

 お姉様の名前は、ローズマリーだった。

 優しくて、凛としていて、薔薇の香りが似合う人。

 どうして、今まで名前を忘れていたのだろう…。

 お姉様。

 そう呼ぶことはできた。

 顔も、声も、手の温かさも覚えていた。

 けれど名前だけが、薄い霧の向こうに隠れていたみたいだった。

 アリスは便箋を握りしめる。

 不安が、胸の底をそっと撫でた。

 その時、階下からボンッ、と小さな音。

 それから、甘い匂い。

 バターが溶けるまろやかな香り。蜂蜜。それから、少しだけ焦げた砂糖の匂い。

 ノアが朝食を作っている。

 にんじん柄のエプロンをつけて、きっと今日も、何でもない顔で少し不思議なことを言うのだろう。

 アリスは涙を拭い、便箋を丁寧に畳んだ。

 胸の奥に残った違和感をそっとしまい、アリスは手紙を抱えたまま、階段を駆け下りた。

「ノア!」

 キッチンへ飛び込むように入ると、ノアが振り返った。

 白銀の髪をさらりと揺らし、やっぱりにんじん柄のエプロンをつけている。いつもの砂糖菓子みたいな笑顔を浮かべていたけれど、今日はどこか落ち着きがなかった。

 白い兎耳の先が、いつもより少し忙しく揺れている。

「おはよう、アリス」

「おはようございます、ノア」

 アリスは息を弾ませながら、手紙を胸に抱いた。

「お姉様からの手紙、届いていました」

「うん」

 ノアの目元がやわらぐ。

「よかった」

「ありがとうございます」

「僕は送っただけだよ」

「それでも、ありがとうございます」

 アリスがまっすぐ言うと、ノアは少し困ったように笑った。

 その顔を見て、胸の奥がふわりと温かくなる。

 けれど同時に、さっきの違和感が小さく残っていた。

 ーお姉様の名前。

 ーーローズマリー。

 ーーーどうして、今まで。

「アリス?」

 ノアが小首を傾げた。

 アリスははっとして、首を振る。

「何でもありません」

「本当に?」

「はい」

 ノアは少しだけ目を細めた。

 けれど、追及はしなかった。

 その代わり、何事もなかったように鍋へ向き直る。

「それより、朝食にしようか。今日は、少し特別にしたんだ」

 アリスは瞬きをした。

 鍋の周りには、いつもの朝食には使わないものが並んでいた。

 蜂蜜。白いクリーム。赤い実。青い星形の果物。それから、砂糖でできた小さな白うさぎ。

 アリスは、鍋のガラス蓋の上から中を覗き込んだ。

 白いクリームが、ふわふわと泡立っている。その中に、小さな光の粒がいくつも混じっていた。金色や銀色の粒が、鍋の中でくるくる回り、時々ぱちんと弾けて小さな星の形になる。

「これ、何ですか?」

「星屑クリームだよ」

 ノアは何でもないことのように言った。

「鍋の蓋を開ける時に気をつけないと、星屑たちが逃げ出して、部屋中が流星群だらけになるからね」

「流星群だらけ……?」

「そう。前に一度、食器棚に衝突して大変だったんだ」

「それは、朝食なんですか?」

「うん、でも大丈夫。少し、空模様に近いだけだよ」

 ノアは涼しい顔で答えた。

 アリスは鍋の中で弾ける星屑を見つめた。

 ……本当に、食べても大丈夫なのだろうか。

 その時、鍋の蓋が、ぽん、と小さく跳ねた。

 中から白いクリームがふわりと膨らみ、鍋の縁から少しだけこぼれる。

 ノアの兎耳が、ぴんと立った。

「……待って。まだ逃げちゃだめ」

「逃げるんですか?」

「星屑だからね。油断すると、流れて行っちゃうんだ」

 ノアは真面目な顔で鍋の蓋を押さえた。

 アリスは、鍋とテーブルの上を見比べた。

「今日の朝食、ずいぶん準備が多いんですね」

「そうかな」

「はい。いつもの朝食より、少しだけ……パーティーみたいです」

 ノアは一瞬だけ黙った。

 それから、降参したように小さく笑う。

「……君の十五歳の朝だからね」

 胸の奥が、きゅっと温かくなる。

「覚えていてくれたんですね」

「忘れるわけがないよ」

 ノアは静かに言った。

 いつもの砂糖菓子みたいな笑顔。

 けれど、その笑顔が朝の光に溶けるようにやわらかくて、アリスは思わず息を止めた。

 胸の奥が、また小さく鳴る。

 どうしてだろう。

 あの夜から、ノアの目元が優しく細められるたび、心臓の近くがくすぐったくなって、落ち着かなくなる。

「お誕生日おめでとう」

 アリスの胸がいっぱいになる。

 元の世界で迎えるはずだった誕生日。

 寂しくない、と言ったら嘘になる。

 けれど、寂しいだけではなかった。

「……ありがとうございます、ノア」

 アリスがそう言うと、ノアは少しだけ目を細めた。

「どういたしまして」

 その声があまりに優しくて、アリスは胸元の手紙を、そっと抱きしめた。

 食卓に並んだのは、星屑クリームがたっぷりのった、ふっくらパンケーキだった。琥珀色の蜂蜜がとろりとかかっている。周りには赤い実と青い星形の果物。クリームの上では、砂糖で作られた小さな白うさぎが、ちょこんと座っていた。

 アリスは椅子に座り、もう一度その皿を見つめる。

 上に乗った白うさぎと目が合う。

「かわいい……」

「逃げなかった砂糖うさぎだよ」

「逃げなかった、という紹介なんですね」

「そこは大事だからね」

 ノアは真面目な顔で言った。

 アリスは思わず笑ってしまった。

「本当はケーキを焼こうと思ったんだけど」

 ノアは紅茶を注ぎながら、少しだけ真面目な顔をした。

「台所が三回ほど大変なことになってね」

「三回?」

「一回目は、生地が風船みたいに膨らんで飛んでいって」

「……え?」

「二回目は、フルーツたちの機嫌が悪くてね…暴れて大惨事」

「機嫌……?」

「三回目は、クリームがハートの形になったあと、爆発した」

「……ノア、何を入れたんですか?」

「材料は普通だったよ」

 ノアは少しだけ目を逸らした。

 それから、アリスには聞こえないほど小さな声で呟く。

「……たぶん、僕の気持ちが多すぎたせい」

 アリスは首を傾げた。

「何か言いました?」

「いいや。ケーキは気難しい、という話」

「……違った気がします」

「気のせいだよ」

 ノアはいつものように甘く笑った。

 けれど兎耳の先だけが、ほんの少し揺れていた。

「だから、パンケーキにしたよ」

「賢明な判断ですね」

「褒められた」

「褒めました」

 二人で笑い合う。

 フォークを入れると、パンケーキはふわふわだった。蜂蜜の甘さと、星屑クリームのひんやりした甘さが重なる。口に入れた瞬間、小さな星屑がぱちぱちと弾けた。

「……!」

 アリスは目を丸くした。

 舌の上で、金色の小さな星が弾けるみたいだった。甘くて、冷たくて、少しくすぐったい。

「ノア、これ……!」

「うん?」

「ぱちぱちします」

「星屑だからね」

「星屑って、ぱちぱちするものなんですか?」

「ワンダラーの星屑は、機嫌がいいと弾けるよ」

「機嫌が悪いと?」

「歯に挟まる」

「……それは嫌です」

 アリスが真剣に言うと、ノアはとうとう小さく吹き出した。

 その笑い方が、いつもより少し幼く見えて、アリスまでつられて笑ってしまう。

 もう一口食べる。

 また、ぱちぱち。

 今度はアリスの舌先で、小さな星が三つほど弾けた。

「楽しくて、美味しくて、最高です!」

 アリスがそう言うと、ノアは一瞬だけ目を丸くした。

 それから、心底ほっとしたように笑った。

「それはよかった」

 声が、いつもより少しだけ弾んでいた。

「星屑クリームも、今日は機嫌がいいみたいだ」

「ノアがちゃんと蓋を押さえていたからですか?」

「それもあるね」

 ノアはアリスの皿の上を見て、少しだけ得意げに片方の口の端を上げた。

「でも、きっと君の誕生日だからだよ」

 アリスはフォークを持ったまま、少しだけ頬を赤くした。

「星屑も、祝ってくれているんですか?」

「もちろん」

 ノアは砂糖菓子みたいに甘く笑った。

「今日は、そういう日にしたかったから」

 その言葉に、アリスはまた胸がきゅっとした。

 ノアは無自覚に甘い言葉を言う。

 だからアリスは、何でもない顔で受け取る方法が分からなくなる。

 甘い蜂蜜と、ぱちぱち弾ける星屑と、向かい側で笑う白兎。

 それらが全部混ざって、十五歳の朝を、少しだけ特別なものに変えていく。

 アリスはもう一口、星屑蜂蜜パンケーキを食べた。

 ぱちぱち、と小さな星が弾ける。

 ノアがそれを見て、また嬉しそうに笑った。

 その時間は、あまりにも穏やかだった。

 テーブルの上の甘い香りと、朝の光。お姉様の手紙と、ノアの笑顔が世界のすべてみたいだった。

   *

 食事のあと、ノアは小さな箱を差し出した。

 淡いピンクのリボンがかかっている。

「これは?」

「誕生日の贈り物」

「そんな、もう十分もらっています」

「いいから」

 ノアは少しだけ目を逸らした。

「受け取ってほしい」

 アリスはそっと箱を開けた。

 中には、小さなペンダントが入っていた。

 銀色の細い鎖に、薔薇の形をした小さな飾りがついている。その中心には、透き通った宝石が嵌め込まれていた。

 色は、ほとんどない。

 けれど光を受けるたび、朝露に空を一滴だけ溶かしたような、淡い青が奥でゆらめく。硝子よりも澄んでいて、氷よりもやわらかい。小さな石の中に、まだ開かれていない扉の気配が眠っているようだった。

「きれい……」

「守り石だよ」

 ノアが静かに言った。

「強い力はない。でも、君が迷子になった時、少しだけ帰り道を教えてくれる」

 アリスはペンダントを見つめた。

「帰り道……」

「僕のところへ、じゃない」

 ノアは少し急ぐように付け足した。

「君が帰りたい場所へ。君自身が選ぶ場所へ」

 アリスは顔を上げた。

 ノアは微笑んでいる。

 けれど、その笑顔には少しだけ痛みが混じっていた。

 アリスがいつか元の世界へ帰ることを、彼は分かっている。

 分かっていて、それでも帰り道を示すものをくれた。

 アリスの胸がきゅっとなる。

「つけても、いいですか?」

「もちろん」

 ノアはペンダントを手に取り、アリスの後ろへ回った。

 すぐ背後に、ノアの気配が立つ。

 それだけで、アリスの背筋が少しだけ固まった。

 白い指が、アリスの髪に触れる。

 そっと横へ寄せられた髪が、肩から滑り落ちた。

 冷たい鎖が首に触れる。

 ひやりとした感触に、アリスは小さく息を止めた。

 けれど、本当に気になったのは、鎖の冷たさではなかった。

 すぐ後ろにいるノアの呼吸。

 髪に触れる指先。

 首元に落ちる、ほんのわずかな影。

 いつもなら平気なはずの距離が、今日はどうしてか、ひどく近く感じる。

 心臓が、胸の中で小さく跳ねた。

「痛くない?」

 耳元に落ちた声に、アリスはさらにどきりとする。

「……はい」

 返事が、少しだけ遅れた。

 ノアの指先が、首の後ろで留め具を留める。

 触れ方は相変わらず丁寧だった。

 壊れ物を扱うみたいに優しくて、だから余計に、落ち着かない。

「きつくない?」

「大丈夫、です」

「よかった」

 留め具が、小さく鳴った。

 胸元に、薔薇のペンダントが落ちる。

 ノアの手が離れた瞬間、アリスはようやく息をした。

 自分でも気づかないうちに、息を止めていたらしい。

 アリスは胸元の薔薇を手で包んだ。

 石はほんのり温かい。

 けれど、その温かさがペンダントのものなのか、自分の胸の奥から来ているのか、よく分からなかった。

「とっても綺麗……」

 アリスは胸元の薔薇を見つめたまま、小さく呟いた。

「…大切にします」

 ノアはそれを聞いて、目を細めた。

「うん」

 その顔を見た瞬間、また胸が少しだけ鳴った。

 アリスは慌ててペンダントへ視線を落とす。

 見られてしまったら、この音まで聞こえてしまいそうだった。

 食事のあとの部屋は、少し静かだった。

 アリスは窓辺近くのテーブルに座り、胸元のペンダントを指で包んだ。

 手紙は、テーブルの上に大切に置いてある。

 帰る場所は、ちゃんとある。

 それは嬉しい。

 痛いくらい、嬉しい。

 けれど、ノアが作ってくれた朝食の甘い香りも、星屑が弾けた感触も、ペンダントをつけてくれた時の指先の温度も、もうアリスの中に残ってしまっていた。

 元の世界に帰りたい。

 それは変わらない。

 でも、この家の窓辺近くのテーブルに座っている時間も、少しずつ大切になっている。

 そのことが少し怖くて、でも、嫌ではなかった。

「アリス」

 ノアの声がした。

 振り返ると、ノアが少し離れた場所に立っていた。

 白い髪に、窓から入る光が淡くかかっている。

「疲れた?」

「いいえ」

 アリスは首を振った。

「少し、考えていました」

「何を?」

 アリスは胸元の薔薇を握る。

「十五歳になったんだなって」

「うん」

「十六歳まで、あと一年なんですね」

 ノアの赤い瞳が、少しだけ揺れた。

「……うん」

 その声を聞いて、アリスは小さく息を吸った。

「実は……ちょっと怖いです」

 言葉は、思っていたより静かにこぼれた。

「何が起きるのか、まだ全部は分からないから」

 ノアは何も言わなかった。

 ただ、逃げずにアリスを見ていた。

 アリスは続ける。

「でも、お姉様が、手紙に書いてくれました。焦らず、自分が信じる道を選びなさいって」

 胸元のペンダントが、ほんのり温かい。

「だから、あと残りの一年、この奇妙でおかしな不思議の国を楽しもうと思います」

 ノアが、少し驚いたように瞬きをする。

「楽しむ?」

「はい」

 アリスは頷いた。

「怖がってばかりいたら、きっと見落としてしまうものがあると思うんです。街のことも、花たちのことも、扉のことも」

 そこで、声が少しだけ小さくなる。

「ノアのことも、もっと知りたいです。……少しずつでいいので」

 ノアの赤い瞳が揺れた。

「僕のことも?」

「はい」

 アリスは頷いた。

 言ってから、少しだけ頬が熱くなる。

「だって、ノアはいつも、私のことばかり知っているみたいだから」

 ノアはしばらく何も言わなかった。

 窓から入る光が、彼の横顔をやわらかく照らしている。

「十五歳になった君は、強いね」

「昨日までと一日しか変わりません」

「その一日で、人は変わることがあるよ」

 ノアは静かに言った。

「僕は知ってる」

 アリスは、ノアの横顔を見つめた。

 もしかしたら、ノアにもそんな一日があったのかもしれない。

 たった一日で、何かが変わってしまった日。

 それまでと同じ場所には、もう戻れなくなってしまった日。

 何かを失ったのか。

 何かを選んだのか。

 誰かと一緒だったのか。

 それとも、ひとりだったのか。

 聞きたいのに、今はまだ聞けない。

 白い髪が、窓から入る風に揺れる。赤い瞳は、アリスを見ているはずなのに、どこかもっと遠い場所を見ているようだった。

 ノアが笑うと、嬉しい。

 ノアが目を伏せると、苦しい。

 ノアが隠し事をすると、知りたいと思う。

 疑いたいからではない。

 離れたいからでもない。

 もっと近くで、この人の本当の顔を見たいと思ってしまうからだ。

 その気持ちはまだ、言葉にした途端に壊れてしまいそうなほど、繊細だった。

 朝露をすくった薄い硝子みたいに、少し触れただけで形を変えてしまいそうなのに、胸の奥で確かに淡く光っている。

 アリスは小さく息を吸った。

「ノア」

「うん?」

「来年の誕生日も、祝ってくれますか?」

 言ってから、アリスは少しだけ恥ずかしくなった。

 でも取り消さなかった。

 ノアは目を見開いた。

 それから、今にも壊れそうなほどやわらかく笑った。

「もちろん」

 その声は、少し震えていた。

「君が望むなら、よろこんで」

 窓辺に差し込む光が、アリスの胸元の薔薇を淡く照らした。

 十五歳の一年が、静かに始まった。

 それはきっと、子どもでいられる最後の一年。

 そして、アリスが自分の運命を、自分の手で選び始める一年だった。

*〜〜第一章 完〜〜*

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作者について

ニワコ

ニワコ

ChatGPTと協力しながら物語を書いています。フォロー大歓迎! キャラクターやお話の流れは、すべてオリジナルで、AIには主に文章作成や表現の整理を手伝ってもらっています。 ずっと頭の中にあった物...

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