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富士学校の90式

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/7 📚 シリーズ: 終末世界90式の旅 📝 2,651文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

文明崩壊後の世界を90式戦車に乗って見に行こう

本文

年上の陸自隊員は、90式の車体番号といくつかの表示を確認しながら、手元のメモに書き込んでいた。

「……やはり富士学校の車両ですね」

その言葉に、シオナが顔を上げた。

「富士学校?」

「静岡にある陸自の学校です。戦車や装甲車両の教育・研究に関わるところですね。第7師団の実戦部隊の車両ではありません」

サヤが90式を見上げた。

「学校の戦車だったんだ」

「学校の、と言っても本物です。ただ、運用の位置づけが違う。これがどうして東京にいたかは、災害派遣絡みの移動中だった可能性が高いでしょう」

別の隊員が車体後部をのぞき込みながら言った。

「エンジン回りに消音装備があります。完全に静かになるわけではありませんが、通常より音を抑えるためのものですね」

シオナは少し驚いた。

「だから、思っていたより音が小さかったんですね」

「ええ。普通の90式が街中を動けば、もっと響きます。あなた方が都内や市街地を通ってこられたのは、速度を出さなかったことと、この消音装備のおかげもあると思います」

若い隊員が車体側面の点検口を確認し、年上の隊員へ声をかけた。

「予備弾薬庫、空です」

「了解。砲塔側は」

「こちらも空です。砲弾なし。同軸機銃にも装填なし。弾帯もありません」

その報告を聞いて、シオナは無意識に息を吐いていた。

分かっていたはずだった。

自分たちは、撃つために90式を動かしていたわけではない。砲弾もない。車載機銃もない。武装として使う状態ではない。

それでも、改めて専門の隊員の口から確認されると、胸の奥に残っていた硬いものが少しほどけた。

年上の隊員はうなずいた。

「砲塔だけでなく、車体側の予備弾薬庫も空。同軸機銃も装填なし。完全に、戦闘を想定した積載状態ではありません」

サヤが少し安心したように言った。

「よかった。いや、最初から撃てないって聞いてたけど、なんか改めて言われると」

「大事な確認です」

隊員はそう言って、今度はシオナが最初に見つけた簡易マニュアルを手に取った。

「これが、あなたが読んだというマニュアルですか」

「はい。最初はそれしかなくて」

シオナは少し恥ずかしそうに答えた。

「本当に最低限のことしか分かりませんでした。始動、計器、止め方、動かす時の注意くらいで」

隊員はページをめくり、しばらく黙って読んだ。

やがて、隣の隊員に見せる。

「これは実運用のための操縦教本じゃありませんね」

「ですよね」

「災害派遣現場で、経験のない隊員でも、車両を駐車位置から少し動かすとか、邪魔にならない場所へ移すとか、その程度のことができるように作った簡易手順です」

シオナは目を瞬かせた。

「じゃあ、私がやってたことって」

「本来は、長距離を走るためのものではありません」

隊員ははっきり言った。

けれど、その声に責める響きはなかった。

「ただ、あなたはそれを読み違えなかった。速度を出さず、無理に砲塔も動かさず、車体の反応を見ながら走らせた。だからここまで来られたんでしょう」

シオナは返事に詰まった。

サヤが横から言った。

「シオナ、ずっと怖がってましたから」

「サヤ」

「でも本当じゃん。橋も料金所も市街地も、毎回止まるくらい慎重だったし」

年上の隊員は少し笑った。

「怖がるのは悪いことではありません。こういう車両を怖がらずに動かす方が危ない」

若い隊員が、90式の砲塔付近を見上げた。

「ただ、気になるのは砲塔ですね」

シオナがそちらを見た。

「砲塔ですか」

「はい。あなた方は、ここまで一度も砲塔を動かしていないんですよね」

「はい。動かす理由がなかったので」

「それ自体は正解です。ただ、長期間動かしていないとなると、電動機や旋回リングの状態が気になります。固着していないか、確認はしたいところです」

サヤが少し身構える。

「それって、危ないんですか」

「今すぐ車体が走れなくなる話ではありません。砲塔を戦闘用に使うわけでもない。ただ、車両としての状態把握には必要です」

別の隊員が足回りを見ながら言った。

「車体側はかなりいいです。一度、神町で履帯を外して見てもらっていますね」

「はい。葛西曹長に」

シオナが答える。

「その整備は大きいです。履帯、転輪、足回りはよく見られています。秋田でも確認を受けていますし、ここまでの走り方も無理がない。車体としては、簡易診断では万全と言っていいでしょう」

「万全……」

シオナが小さく繰り返した。

自分がずっと不安を抱えて見ていた計器。

止まるたびに確かめた車体。

橋を渡る前に何度も迷った重さ。

雪道でゆっくり動かした履帯。

それらが、別の人の目で見ても「保っている」と言われた。

それだけで、少し救われた気がした。

サヤは90式の前に立って、満足そうに腕を組んだ。

「やっぱりこの子、頑張ったんだよ」

ミズホもうなずいた。

「シオナもね」

シオナは苦笑した。

「私はただ、止まらないでって思ってただけ」

年上の隊員は、90式の車体を軽く叩いた。

「車両は、雑に扱う人間には応えません。ここまで来たのは、この90式が丈夫だったからだけではありません。あなたが無理をさせなかったからです」

その言葉に、シオナは少しだけ目を伏せた。

褒められるのは、まだ慣れなかった。

若い隊員は簡易マニュアルをもう一度見て、感心したように言った。

「でも、これで東京から大湊まで来るのは、やっぱり普通じゃないですよ」

サヤがすかさず言う。

「普通だったら終末後に戦車で温泉巡りしませんから」

ミズホが訂正する。

「温泉巡りじゃなくて、生存行動」

「結果的に温泉多めだっただけ」

「そこは否定しない」

陸自隊員たちの間に、低い笑いが広がった。

格納庫の空気が、少しだけ柔らかくなる。

年上の隊員は、簡易マニュアルを閉じてシオナに返した。

「これは、あなたが持っていてください。大湊でも写しは取れますが、原本はこの車両と一緒に旅をしてきたものです」

シオナは両手で受け取った。

ミズホの記録ノートほどではない。

でも、この薄いマニュアルも、自分にとっては同じくらい重いものだった。

最初の夜、何も分からないまま開いたページ。

意味の分からない言葉を、何度も読み返した文字。

動いてくれと祈るように見た手順。

それが、今もここにある。

シオナはマニュアルを胸の前で抱えた。

「ありがとうございます」

隊員はうなずいた。

「こちらこそ。よく運んできてくれました」

格納庫の中で、90式は静かに休んでいた。

砲弾もなく、銃弾もなく、砲塔も動かされず、ただ道を進むためだけに使われた車両。

それでも、東京から大湊まで、三人を運んできた。

戦うためではなく、つなぐために。

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人とAIによる共著作品発表のため団体という形のペンネームにしました。複数の世界を、ゆっくり旅する物語を書いていきます。ChatGPTことチャティを相棒としてストーリーの概要や場面についてを対話する形で...

👥 フォロワー: 6人

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