第4話 なぜ追い返さないのです
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
魔王城は三ヶ月で陥落した。 犯人は聖女だった。 魔王に一目惚れした聖女アリアは、毎日魔王城へ通い続ける。 「好きです!」 「結婚してください!」 今日も元気に告白するアリアと、 「帰れ」 と言いながら追い返せない魔王ゼノ。 気付けば門番も、侍女も、くーちゃんも、そして魔王城まで少しずつ変わっていく。 これは、 好きだから会いたい。 好きだから会いに行く。 ただそれだけを続けた聖女と、 不器用な魔王の優しい恋のお話。 🌸🏰🖤 疲れた日に少しだけほっこりできる、 花と綿毛ともふもふの異種族ラブコメです。
本文
第4話 なぜ追い返さないのです
ガルドは悩んでいた。
とても。
非常に。
深刻に。
胃が痛かった。
原因は一つ。
聖女である。
◇◇◇
執務室。
机の上には書類の山。
左にも山。
右にも山。
現実は残酷だった。
ガルドは眼鏡を押し上げる。
「ゼノ様」
「なんだ」
向かいでは魔王が書類を処理していた。
いつも通り無表情。
「少々よろしいでしょうか」
「話せ」
「アリア様についてです」
一瞬だけ。
ペンが止まった。
ガルドは見逃さなかった。
止まった。
確かに止まった。
だがゼノは何事もなかったように続きを書く。
「なんだ」
「なぜ追い返さないのです」
沈黙。
しばらく沈黙。
そして。
「追い返す理由がない」
返ってきた。
ガルドは思わず額を押さえた。
「理由しかありません」
「そうか」
「そうです」
そうなのである。
聖女。
人間。
しかも毎日来る。
普通なら大問題だ。
国際問題である。
魔王城警備会議案件である。
だが現在。
◇◇◇
「アリア様、おはようございます!」
「おはようございます!」
門番と雑談。
「アリア様、お花増えましたね」
「本当ですね!」
花壇の前で立ち止まる。
「くー!」
「あら、くーちゃん」
くーが飛び付く。
「今日はお天気ですね」
「そうですね!」
侍女と雑談。
誰も止めない。
止める空気すらない。
どうしてこうなった。
◇◇◇
その頃。
当の本人は。
庭園にいた。
「咲いてます」
嬉しそうだった。
花壇の前でしゃがんでいる。
白い花。
淡い青の花。
少しずつ増えている。
最初は小さな一角だった。
今は違う。
通る者が足を止めるくらいには。
花が増えていた。
「アリア様」
侍女が声を掛ける。
「はい?」
「お茶にしませんか?」
「いいんですか?」
「もちろんです」
「わあ」
アリアは嬉しそうに笑った。
侍女も笑う。
自然だった。
気付けば自然になっていた。
◇◇◇
執務室。
「ゼノ様」
「なんだ」
「門番がアリア様を歓迎しております」
「そうか」
「侍女がお茶を出しております」
「そうか」
「くーが飛び付いております」
「そうだろうな」
全部把握していた。
ガルドは思う。
問題はここではない。
本当の問題は。
「ゼノ様」
「なんだ」
「ゼノ様も慣れていませんか」
沈黙。
数秒。
十秒。
十五秒。
「……」
「……」
「毎日来るからな」
認めた。
ついに認めた。
ガルドは聞き逃さなかった。
「慣れたのですか」
「いるものは認識する」
「石ではありませんよ」
「分かっている」
分かっているらしい。
余計に問題だった。
◇◇◇
コンコン。
「アリアです!」
ガルドは天を仰いだ。
噂をすれば。
「入れ」
扉が開く。
今日のアリアは低めのポニーテールだった。
白と淡い青の花。
揺れるリボン。
春風みたいな笑顔。
「こんにちは!」
「こんにちは」
ガルドは挨拶を返した。
「ガルドさん」
「はい」
「見てください」
来た。
ガルドは確信する。
今日はこれから始まる。
「増えました!」
差し出されたのは花だった。
白い花。
淡い青の花。
昨日より少しだけ多い。
「増えましたね」
「増えました!」
アリアは嬉しそうだった。
まるで自分のことみたいに。
◇◇◇
その横で。
ゼノが書類を読んでいた。
いつも通り。
いつも通りなのだが。
「ゼノ様も見てください!」
花が差し出される。
ゼノは視線を向けた。
数秒。
花を見る。
そして。
アリアを見る。
「綺麗だな」
アリアが固まった。
ガルドも固まった。
今なんて言った。
ゼノ様が。
花を。
綺麗と。
「ゼノ様」
アリアの声が震えた。
「なんだ」
「褒めてくれました」
「事実だ」
「嬉しいです」
満面の笑みだった。
眩しい。
とても眩しい。
ガルドは思う。
これだ。
これなのである。
◇◇◇
アリアは何もしていない。
攻略もしていない。
駆け引きもしていない。
ただ。
会いたいから来る。
好きだから話す。
困っている人を助ける。
花を植える。
笑う。
それだけ。
それだけなのに。
気付けば。
門番が笑う。
侍女が笑う。
くーが懐く。
花壇が広がる。
魔王城が少し明るくなる。
そして。
魔王が。
「今日は早かったな」
と言うようになった。
ガルドは頭を抱えた。
そこまで把握しているのですか。
◇◇◇
帰り際。
「また明日来ますね!」
アリアが手を振る。
「好きにしろ」
ゼノが答える。
いつものやり取りだった。
扉が閉まる。
静かになる。
少しして。
ガルドが口を開いた。
「ゼノ様」
「なんだ」
「追い返さない理由が分かりました」
「そうか」
「はい」
ガルドは窓の外を見る。
白い綿毛みたいな少女が。
門番と話している。
花壇の前で立ち止まる。
くーに呼ばれる。
また笑う。
その姿を見ながら。
「もう手遅れです」
ゼノは答えなかった。
ただ。
窓の外を見ていた。
春風が吹く。
白い花が揺れる。
綿毛みたいな聖女も揺れる。
そして。
その姿を。
気付けば目で追っていた。
ガルドは見なかったことにした。
胃のために。
(第5話 闇の心がありません へ続く)🌸🖤✨