第4話 なぜ追い返さないのです

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/18 📚 シリーズ: 魔王様、結婚してください 📝 1,903文字 ✅ 全年齢

あらすじ

魔王城は三ヶ月で陥落した。 犯人は聖女だった。 魔王に一目惚れした聖女アリアは、毎日魔王城へ通い続ける。 「好きです!」 「結婚してください!」 今日も元気に告白するアリアと、 「帰れ」 と言いながら追い返せない魔王ゼノ。 気付けば門番も、侍女も、くーちゃんも、そして魔王城まで少しずつ変わっていく。 これは、 好きだから会いたい。 好きだから会いに行く。 ただそれだけを続けた聖女と、 不器用な魔王の優しい恋のお話。 🌸🏰🖤 疲れた日に少しだけほっこりできる、 花と綿毛ともふもふの異種族ラブコメです。

本文

第4話 なぜ追い返さないのです

ガルドは悩んでいた。

とても。

非常に。

深刻に。

胃が痛かった。

原因は一つ。

聖女である。

◇◇◇

執務室。

机の上には書類の山。

左にも山。

右にも山。

現実は残酷だった。

ガルドは眼鏡を押し上げる。

「ゼノ様」

「なんだ」

向かいでは魔王が書類を処理していた。

いつも通り無表情。

「少々よろしいでしょうか」

「話せ」

「アリア様についてです」

一瞬だけ。

ペンが止まった。

ガルドは見逃さなかった。

止まった。

確かに止まった。

だがゼノは何事もなかったように続きを書く。

「なんだ」

「なぜ追い返さないのです」

沈黙。

しばらく沈黙。

そして。

「追い返す理由がない」

返ってきた。

ガルドは思わず額を押さえた。

「理由しかありません」

「そうか」

「そうです」

そうなのである。

聖女。

人間。

しかも毎日来る。

普通なら大問題だ。

国際問題である。

魔王城警備会議案件である。

だが現在。

◇◇◇

「アリア様、おはようございます!」

「おはようございます!」

門番と雑談。

「アリア様、お花増えましたね」

「本当ですね!」

花壇の前で立ち止まる。

「くー!」

「あら、くーちゃん」

くーが飛び付く。

「今日はお天気ですね」

「そうですね!」

侍女と雑談。

誰も止めない。

止める空気すらない。

どうしてこうなった。

◇◇◇

その頃。

当の本人は。

庭園にいた。

「咲いてます」

嬉しそうだった。

花壇の前でしゃがんでいる。

白い花。

淡い青の花。

少しずつ増えている。

最初は小さな一角だった。

今は違う。

通る者が足を止めるくらいには。

花が増えていた。

「アリア様」

侍女が声を掛ける。

「はい?」

「お茶にしませんか?」

「いいんですか?」

「もちろんです」

「わあ」

アリアは嬉しそうに笑った。

侍女も笑う。

自然だった。

気付けば自然になっていた。

◇◇◇

執務室。

「ゼノ様」

「なんだ」

「門番がアリア様を歓迎しております」

「そうか」

「侍女がお茶を出しております」

「そうか」

「くーが飛び付いております」

「そうだろうな」

全部把握していた。

ガルドは思う。

問題はここではない。

本当の問題は。

「ゼノ様」

「なんだ」

「ゼノ様も慣れていませんか」

沈黙。

数秒。

十秒。

十五秒。

「……」

「……」

「毎日来るからな」

認めた。

ついに認めた。

ガルドは聞き逃さなかった。

「慣れたのですか」

「いるものは認識する」

「石ではありませんよ」

「分かっている」

分かっているらしい。

余計に問題だった。

◇◇◇

コンコン。

「アリアです!」

ガルドは天を仰いだ。

噂をすれば。

「入れ」

扉が開く。

今日のアリアは低めのポニーテールだった。

白と淡い青の花。

揺れるリボン。

春風みたいな笑顔。

「こんにちは!」

「こんにちは」

ガルドは挨拶を返した。

「ガルドさん」

「はい」

「見てください」

来た。

ガルドは確信する。

今日はこれから始まる。

「増えました!」

差し出されたのは花だった。

白い花。

淡い青の花。

昨日より少しだけ多い。

「増えましたね」

「増えました!」

アリアは嬉しそうだった。

まるで自分のことみたいに。

◇◇◇

その横で。

ゼノが書類を読んでいた。

いつも通り。

いつも通りなのだが。

「ゼノ様も見てください!」

花が差し出される。

ゼノは視線を向けた。

数秒。

花を見る。

そして。

アリアを見る。

「綺麗だな」

アリアが固まった。

ガルドも固まった。

今なんて言った。

ゼノ様が。

花を。

綺麗と。

「ゼノ様」

アリアの声が震えた。

「なんだ」

「褒めてくれました」

「事実だ」

「嬉しいです」

満面の笑みだった。

眩しい。

とても眩しい。

ガルドは思う。

これだ。

これなのである。

◇◇◇

アリアは何もしていない。

攻略もしていない。

駆け引きもしていない。

ただ。

会いたいから来る。

好きだから話す。

困っている人を助ける。

花を植える。

笑う。

それだけ。

それだけなのに。

気付けば。

門番が笑う。

侍女が笑う。

くーが懐く。

花壇が広がる。

魔王城が少し明るくなる。

そして。

魔王が。

「今日は早かったな」

と言うようになった。

ガルドは頭を抱えた。

そこまで把握しているのですか。

◇◇◇

帰り際。

「また明日来ますね!」

アリアが手を振る。

「好きにしろ」

ゼノが答える。

いつものやり取りだった。

扉が閉まる。

静かになる。

少しして。

ガルドが口を開いた。

「ゼノ様」

「なんだ」

「追い返さない理由が分かりました」

「そうか」

「はい」

ガルドは窓の外を見る。

白い綿毛みたいな少女が。

門番と話している。

花壇の前で立ち止まる。

くーに呼ばれる。

また笑う。

その姿を見ながら。

「もう手遅れです」

ゼノは答えなかった。

ただ。

窓の外を見ていた。

春風が吹く。

白い花が揺れる。

綿毛みたいな聖女も揺れる。

そして。

その姿を。

気付けば目で追っていた。

ガルドは見なかったことにした。

胃のために。

(第5話 闇の心がありません へ続く)🌸🖤✨

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作者について

ひふみん

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