第5話 闇の心がありません
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
魔王城は三ヶ月で陥落した。 犯人は聖女だった。 魔王に一目惚れした聖女アリアは、毎日魔王城へ通い続ける。 「好きです!」 「結婚してください!」 今日も元気に告白するアリアと、 「帰れ」 と言いながら追い返せない魔王ゼノ。 気付けば門番も、侍女も、くーちゃんも、そして魔王城まで少しずつ変わっていく。 これは、 好きだから会いたい。 好きだから会いに行く。 ただそれだけを続けた聖女と、 不器用な魔王の優しい恋のお話。 🌸🏰🖤 疲れた日に少しだけほっこりできる、 花と綿毛ともふもふの異種族ラブコメです。
本文
第5話 闇の心がありません
魔族は闇に敏感である。
怒り。
嫉妬。
憎しみ。
欲望。
悪意。
そういう感情を感じ取る種族も少なくない。
だから。
最初。
魔王城の誰もが警戒していた。
聖女だからではない。
人間だからでもない。
何を考えているのか分からなかったからだ。
◇◇◇
神殿の支度部屋。
「少し動かないでくださいね」
「はーい」
今日のアリアはゆるい三つ編みだった。
侍女が髪を整えている。
白い小花。
春の香り。
穏やかな朝だった。
だが。
侍女は途中で手を止める。
髪の内側。
少しだけ短くなった毛先。
焦げた跡だった。
前線で負傷者を助けた時のもの。
アリアは気付いている。
けれど気にしていない。
侍女も何も言わない。
少し編み方を変える。
見えないように隠す。
それだけだった。
「できました」
「ありがとうございます!」
アリアは嬉しそうに笑った。
◇◇◇
魔王城。
「おはようございます!」
「おはようございます、アリア様」
門番が笑う。
アリアも笑う。
途中。
立ち止まった。
負傷した兵士がいた。
鎧の肩が欠けている。
包帯も巻かれていた。
「大丈夫ですか?」
「昨日やられましてね」
兵士は苦笑する。
慣れた笑い方だった。
「痛みます?」
「少しだけ」
「それはいけません」
淡い光が溢れる。
傷が塞がる。
兵士は肩を回した。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
アリアは嬉しそうだった。
それだけだった。
戦争の話はしない。
誰も。
◇◇◇
少し歩く。
花壇の前で止まる。
白い花が咲いていた。
昨日までは蕾だった花。
「咲きましたね」
アリアが笑う。
すると門番が言った。
「アリア様」
「はい?」
「一つ聞いても?」
「どうぞ!」
「なぜそんなに楽しそうなのです?」
アリアは瞬きをした。
「楽しいからです!」
即答だった。
門番は少し困る。
そういう意味ではない。
「敵地ですよ」
「そうですね」
「怖くないのですか」
アリアは少し考えた。
そして。
「魔物だから敵、ではありませんし」
門番が瞬きをする。
「人間だから味方、でもありません」
「……」
「良い人もいます」
「悪い人もいます」
「魔物さんも同じですよね?」
門番は答えられなかった。
アリアは困ったように笑う。
「なので」
「怪我していたら治します」
「泣いていたらお話を聞きます」
「それだけです」
本当に。
それだけだった。
◇◇◇
執務室。
「ガルドさん」
「はい」
「闇って何ですか?」
ガルドは固まった。
今日も突然だった。
「なぜそんな話になるのです」
「門番さんに言われたんです」
「何をですか」
「闇がありませんねって」
ガルドは納得した。
なるほど。
その話か。
◇◇◇
「あなたは本当にないんですよ」
ガルドはため息を吐いた。
アリアは首を傾げる。
「ないとは?」
「闇です」
「ゼロなのですか」
「ゼロです」
沈黙。
自分で言ってガルドは頭を抱えた。
「ありえません」
「ありますよ?」
「ありません」
即答だった。
◇◇◇
「アリア」
「はい!」
ゼノに名前を呼ばれる。
ぱっと笑顔になる。
「怒ったことは」
「あります」
「どんな時だ」
「子供が泣いている時です」
「怪我している人を見た時です」
「悲しそうな人を見た時です」
ガルドは静かに顔を覆った。
違う。
そうじゃない。
「自分のことで怒ったことは」
その質問にアリアは少し考えてから答えた。
「ありません」
と。
「嫉妬はありますか」
ガルドは最後の希望を口にした。
「あります!」
あった。
「誰にです」
「花です」
「花」
「綺麗なので」
違った。
そういうことではなかった。
「鳥さんにも嫉妬します」
「なぜ」
「飛べるので」
「なるほど」
なるほどではなかった。
◇◇◇
アリアはソファでくーを撫でていた。
「くー」
ご機嫌だった。
穏やかな時間が流れる。
すると。
「……何だ」
ゼノが顔を上げた。
アリアがじっと見ていたからだ。
アリアは笑う。
「見ています」
「なぜだ」
少し考える。
そして。
「かっこいいので」
即答だった。
ゼノは黙った。
ガルドは天井を見た。
いつものことだった。
「あと」
アリアは続ける。
「会えたので」
「そうか」
「たくさん見ておきたいんです」
「なぜだ」
アリアは首を傾げる。
「嬉しいからです?」
なぜ疑問形なのか。
本人もよく分かっていないらしい。
「そうか」
「はい!」
満足そうだった。
◇◇◇
しばらくして。
「そろそろ戻ります」
アリアが立ち上がる。
「そうか」
「今日は治療の日なので」
「なら最初から来るな」
「嫌です」
即答だった。
「顔が見たかったので」
「そうか」
「見られました」
満足そうに頷く。
「なので頑張れます」
ゼノは何も言わない。
アリアは笑う。
「また明日来ますね」
「好きにしろ」
「来ます!」
許可されたらしい。
春風みたいに部屋を出ていく。
扉が閉まる。
静かになる。
けれど。
花の香りだけが残っていた。
ゼノは書類へ視線を戻す。
一枚。
もう一枚。
そして。
ふと。
窓の外を見る。
白い花が。
風に揺れていた。
(第6話 見てください へ続く)🌸🖤✨