第5話 闇の心がありません

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/19 📚 シリーズ: 魔王様、結婚してください 📝 1,947文字 ✅ 全年齢

あらすじ

魔王城は三ヶ月で陥落した。 犯人は聖女だった。 魔王に一目惚れした聖女アリアは、毎日魔王城へ通い続ける。 「好きです!」 「結婚してください!」 今日も元気に告白するアリアと、 「帰れ」 と言いながら追い返せない魔王ゼノ。 気付けば門番も、侍女も、くーちゃんも、そして魔王城まで少しずつ変わっていく。 これは、 好きだから会いたい。 好きだから会いに行く。 ただそれだけを続けた聖女と、 不器用な魔王の優しい恋のお話。 🌸🏰🖤 疲れた日に少しだけほっこりできる、 花と綿毛ともふもふの異種族ラブコメです。

本文

第5話 闇の心がありません

魔族は闇に敏感である。

怒り。

嫉妬。

憎しみ。

欲望。

悪意。

そういう感情を感じ取る種族も少なくない。

だから。

最初。

魔王城の誰もが警戒していた。

聖女だからではない。

人間だからでもない。

何を考えているのか分からなかったからだ。

◇◇◇

神殿の支度部屋。

「少し動かないでくださいね」

「はーい」

今日のアリアはゆるい三つ編みだった。

侍女が髪を整えている。

白い小花。

春の香り。

穏やかな朝だった。

だが。

侍女は途中で手を止める。

髪の内側。

少しだけ短くなった毛先。

焦げた跡だった。

前線で負傷者を助けた時のもの。

アリアは気付いている。

けれど気にしていない。

侍女も何も言わない。

少し編み方を変える。

見えないように隠す。

それだけだった。

「できました」

「ありがとうございます!」

アリアは嬉しそうに笑った。

◇◇◇

魔王城。

「おはようございます!」

「おはようございます、アリア様」

門番が笑う。

アリアも笑う。

途中。

立ち止まった。

負傷した兵士がいた。

鎧の肩が欠けている。

包帯も巻かれていた。

「大丈夫ですか?」

「昨日やられましてね」

兵士は苦笑する。

慣れた笑い方だった。

「痛みます?」

「少しだけ」

「それはいけません」

淡い光が溢れる。

傷が塞がる。

兵士は肩を回した。

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

アリアは嬉しそうだった。

それだけだった。

戦争の話はしない。

誰も。

◇◇◇

少し歩く。

花壇の前で止まる。

白い花が咲いていた。

昨日までは蕾だった花。

「咲きましたね」

アリアが笑う。

すると門番が言った。

「アリア様」

「はい?」

「一つ聞いても?」

「どうぞ!」

「なぜそんなに楽しそうなのです?」

アリアは瞬きをした。

「楽しいからです!」

即答だった。

門番は少し困る。

そういう意味ではない。

「敵地ですよ」

「そうですね」

「怖くないのですか」

アリアは少し考えた。

そして。

「魔物だから敵、ではありませんし」

門番が瞬きをする。

「人間だから味方、でもありません」

「……」

「良い人もいます」

「悪い人もいます」

「魔物さんも同じですよね?」

門番は答えられなかった。

アリアは困ったように笑う。

「なので」

「怪我していたら治します」

「泣いていたらお話を聞きます」

「それだけです」

本当に。

それだけだった。

◇◇◇

執務室。

「ガルドさん」

「はい」

「闇って何ですか?」

ガルドは固まった。

今日も突然だった。

「なぜそんな話になるのです」

「門番さんに言われたんです」

「何をですか」

「闇がありませんねって」

ガルドは納得した。

なるほど。

その話か。

◇◇◇

「あなたは本当にないんですよ」

ガルドはため息を吐いた。

アリアは首を傾げる。

「ないとは?」

「闇です」

「ゼロなのですか」

「ゼロです」

沈黙。

自分で言ってガルドは頭を抱えた。

「ありえません」

「ありますよ?」

「ありません」

即答だった。

◇◇◇

「アリア」

「はい!」

ゼノに名前を呼ばれる。

ぱっと笑顔になる。

「怒ったことは」

「あります」

「どんな時だ」

「子供が泣いている時です」

「怪我している人を見た時です」

「悲しそうな人を見た時です」

ガルドは静かに顔を覆った。

違う。

そうじゃない。

「自分のことで怒ったことは」

その質問にアリアは少し考えてから答えた。

「ありません」

と。

「嫉妬はありますか」

ガルドは最後の希望を口にした。

「あります!」

あった。

「誰にです」

「花です」

「花」

「綺麗なので」

違った。

そういうことではなかった。

「鳥さんにも嫉妬します」

「なぜ」

「飛べるので」

「なるほど」

なるほどではなかった。

◇◇◇

アリアはソファでくーを撫でていた。

「くー」

ご機嫌だった。

穏やかな時間が流れる。

すると。

「……何だ」

ゼノが顔を上げた。

アリアがじっと見ていたからだ。

アリアは笑う。

「見ています」

「なぜだ」

少し考える。

そして。

「かっこいいので」

即答だった。

ゼノは黙った。

ガルドは天井を見た。

いつものことだった。

「あと」

アリアは続ける。

「会えたので」

「そうか」

「たくさん見ておきたいんです」

「なぜだ」

アリアは首を傾げる。

「嬉しいからです?」

なぜ疑問形なのか。

本人もよく分かっていないらしい。

「そうか」

「はい!」

満足そうだった。

◇◇◇

しばらくして。

「そろそろ戻ります」

アリアが立ち上がる。

「そうか」

「今日は治療の日なので」

「なら最初から来るな」

「嫌です」

即答だった。

「顔が見たかったので」

「そうか」

「見られました」

満足そうに頷く。

「なので頑張れます」

ゼノは何も言わない。

アリアは笑う。

「また明日来ますね」

「好きにしろ」

「来ます!」

許可されたらしい。

春風みたいに部屋を出ていく。

扉が閉まる。

静かになる。

けれど。

花の香りだけが残っていた。

ゼノは書類へ視線を戻す。

一枚。

もう一枚。

そして。

ふと。

窓の外を見る。

白い花が。

風に揺れていた。

(第6話 見てください へ続く)🌸🖤✨

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作者について

ひふみん

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忙しい日々に供給を✨ 隙間時間に供給出来る作品目指してます🔥 🔰試行錯誤中🔰 アドバイスお願いします🥺 🐈‍⬛0時12時更新予定🐈‍⬛

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