第7話 会いたかったんです
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
魔王城は三ヶ月で陥落した。 犯人は聖女だった。 魔王に一目惚れした聖女アリアは、毎日魔王城へ通い続ける。 「好きです!」 「結婚してください!」 今日も元気に告白するアリアと、 「帰れ」 と言いながら追い返せない魔王ゼノ。 気付けば門番も、侍女も、くーちゃんも、そして魔王城まで少しずつ変わっていく。 これは、 好きだから会いたい。 好きだから会いに行く。 ただそれだけを続けた聖女と、 不器用な魔王の優しい恋のお話。 🌸🏰🖤 疲れた日に少しだけほっこりできる、 花と綿毛ともふもふの異種族ラブコメです。
本文
第7話 会いたかったんです
九十三日目。
今日のアリアは上品なお団子だった。
柔らかくまとめられた髪。
白い花。
淡い青の花。
耳元で揺れる小さな飾り。
いつもより少し大人っぽい。
それでもやっぱりアリアだった。
「アリア様」
「はい?」
神殿の侍女が最後の花を挿す。
「今日も行かれるんですよね」
「行きます!」
即答だった。
もはや聞く必要もなかった。
最近の神殿では。
『今日のアリア様の髪型』
が小さな話題になっていた。
「今日は綺麗系ですね」
「少しお姉さんっぽいです」
「魔王様は何て言うでしょう」
すると。
アリアが胸を張る。
「褒めます!」
また断言だった。
侍女達が笑う。
「すごい自信ですね」
「だって優しいですから!」
アリアは嬉しそうだった。
その評価。
やはり人間界では聞かない。
侍女はそっと髪を整える。
短くなった毛先を隠す。
傷んだ部分を目立たなくする。
前線の名残だった。
アリアは気付いている。
でも気にしない。
侍女も何も言わない。
代わりに。
少しだけ綺麗に結う。
それだけだった。
◇◇◇
魔王城。
「こんにちは!」
「こんにちは、アリア様」
門番達が笑う。
最近は自然だった。
最初の警戒はもうない。
「アリア様」
「はい?」
門番が少し首を傾げる。
「前から気になっていたのですが」
「どうしました?」
「ここまでどうやって来ているのです?」
アリアは瞬きをする。
「普通にです」
普通とは。
門番は続きを待った。
「魔王領の入り口からもかなり距離がありますが」
「あっ」
アリアが思い出したように声を上げる。
「精霊さんです!」
「精霊?」
「運んでもらってます!」
門番が固まった。
「運ぶのですか」
「はい!」
アリアは嬉しそうに笑う。
「びゅーんって!」
両手を広げた。
びゅーん。
だった。
「……」
「……」
門番達は顔を見合わせた。
よく分からなかった。
「便利ですよ!」
アリアだけが満足そうだった。
◇◇◇
執務室。
コンコン。
「アリアです!」
「入れ」
扉が開く。
花の香りが流れ込む。
そして。
春が入ってきた。
「ゼノ様!」
今日も元気だった。
ゼノは書類から顔を上げる。
そして。
一瞬だけ止まった。
今日も髪型が違う。
最近は毎日違う。
だが。
それを見ただけで分かる自分にも気付いていた。
「見てください!」
来た。
予想通りだった。
アリアは机の前まで来る。
くるりと一回転する。
花が揺れる。
飾りが揺れる。
ふわりと香りが広がる。
「どうですか?」
ゼノは見る。
少しだけ。
本当に少しだけ。
考える。
そして。
「似合っている」
アリアが固まる。
「え」
「似合っている」
「え」
「……」
「えっ?」
なぜ三回聞く。
数秒後。
アリアの顔が真っ赤になった。
「ゼノ様」
「なんだ」
「今日は返事が早いです」
そうかもしれない。
最近。
毎日見ている。
毎日来る。
毎日違う花。
毎日違う髪型。
だから。
考える必要もなかった。
「ありがとうございます……」
アリアは少し照れながら笑う。
本当に嬉しそうだった。
ソファへ移動する。
すると。
「くー!」
黒い毛玉が飛んできた。
「くー」
「こんにちは」
抱き上げる。
ふわふわだった。
思わず頬を埋めたくなるくらい。
くーは満足そうだった。
最近では完全に日課である。
アリアはくーを撫でながら窓の外を見る。
庭園。
白い花。
少しずつ増えている花壇。
最初に植えた場所は。
もう小さな花畑になっていた。
「増えましたね」
ぽつりと呟く。
「何がだ」
ゼノが聞く。
「お花です」
アリアは笑う。
「最初は少しだけだったのに」
「そうだな」
窓の外。
風が吹く。
花が揺れる。
「嬉しいです」
アリアは本当に嬉しそうだった。
ゼノも窓の外を見る。
最初は何もなかった場所だった。
今は違う。
白い花が揺れている。
◇◇◇
「ゼノ様」
「なんだ」
アリアは少しだけ照れたように笑う。
そして。
静かに言った。
「会いたかったんです」
いつもの告白とは違った。
好きです。
結婚してください。
ではない。
ただ。
会いたかった。
それだけ。
だからこそ。
まっすぐだった。
ゼノは返事をしない。
いつも通りだ。
だが。
追い返さない。
否定もしない。
黙ってそこにいる。
アリアはそれだけで十分だった。
「今日も会えました」
嬉しそうに笑う。
「そうか」
「はい!」
満足そうだった。
しばらくして。
アリアは立ち上がる。
「そろそろ戻ります」
「そうか」
「今日は少し忙しいので」
「なら最初から来るな」
「嫌です」
即答だった。
「会いたかったので」
「そうか」
「会えました」
満足そうに頷く。
「なので頑張れます」
ゼノは何も言わない。
アリアは少し笑う。
そして。
扉の前で振り返った。
「ゼノ様」
「なんだ」
アリアは少しだけ照れる。
それから。
静かに言った。
「好きな人には」
「会いたくなるものですよ」
ゼノは何も言わない。
アリアは笑う。
「私はそうです」
春風みたいな笑顔だった。
「また明日来ますね」
「好きにしろ」
「来ます!」
許可されたらしい。
春風みたいに部屋を出ていった。
扉が閉まる。
静かになる。
けれど。
花の香りだけが残っていた。
ゼノは書類へ視線を戻す。
一枚。
もう一枚。
そして。
ふと。
閉じた扉を見る。
会いたかったんです。
その言葉だけが残っていた。
なぜか。
今日は少しだけ。
長く。
(第8話 今までで一番好きです へ続く)🌸🖤✨