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第三十一話 すれ違いの贈り物

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/19 📚 シリーズ: 野薔薇のアリス〜溺愛白うさぎと忘れられた約束〜 📝 5,797文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

〜不思議の国のアリスをモチーフにした作品です〜 白兎に導かれて“不思議の国”へ迷い込む、十四歳の少女アリス。 そこにいたのは、甘く優しい白兎の美青年ノア。 アリスを守る彼は、この国に隠された秘密を知っていた。失われた記憶を巡り物語が再び動き出す。 可憐で不穏な、童話ファンタジー。 白兎は、私を救いに来たの? それとも、もう二度と帰さないために迎えに来たの?

本文

第三十一話 すれ違いの贈り物

 その日、ノアはガルと共に外回りの仕事をしていた。

 街は昼下がりの光に満ちていた。赤い屋根、曲がった煙突、勝手に開いたり閉じたりする小さな扉。石畳の隙間からは、小さな花が顔を出し、通りを歩く者たちの靴音に合わせて、ひそひそと囁いている。

 ガルは、少し前を歩くノアの背中を見ていた。

 白い上着。白銀の髪。揺れる白兎の耳。

 見た目はいつもと変わらない。柔らかく笑い、必要な時だけ静かに指示し、厄介な相手には甘い声で毒を混ぜる。ハートの女王の側近としての白兎は、相変わらず隙がなかった。

 けれど、ガルには分かった。

 最近のノアは、ほんの少しだけ、隙間から温度がもれる瞬間がある。

 書類の隅に描かれた小さな薔薇を見て、少しだけ目を細める。街の菓子屋の前を通ると、何気なく足を緩める。以前なら見過ごしていた子ども向けの店先にも、自然と視線が向く。

 ガルは、その理由を知っていた。

 〈ルーシー〉

 そう名乗っていた、子ぶたの少女。

 その奥に隠れていた薔薇の匂い。

 おそらく、あの少女がアリスだ。

 もちろん、ノアから聞いたわけではない。

 それでも、長年そばにいたからこそ分かるものがある。

 あの少女の名が少しでも近くにある時だけ、白兎の完璧な仮面の奥で、ほんのわずかに温度が揺れる。

 微かなその変化を、ガルは見逃さなかった。

「ガル」

 前を歩いていたノアが、ふいに足を止めた。

「少し寄り道してもいい?」

「この後、城へ戻りますが」

「うん。だから少しだけ」

 ノアはすでに店の方を見ていた。

 通りの角に、小さな花屋と菓子屋が並んでいる。花屋の軒先には色とりどりの花が籠いっぱいに並び、菓子屋の窓には丸いキャンディや星形の砂糖菓子が宝石みたいに飾られていた。

 ガルは、すぐに察した。

「贈り物ですか?」

「うん」

 ノアは隠すでもなく、嬉しそうに頷いた。

 その表情を見て、ガルは小さく息を呑んだ。

 白兎が誰かのために、こんなふうに目元をやわらげる姿を、見たことがなかったからだ。

 花屋に入ると、甘い香りがふわりと漂ってきた。普通の薔薇もあれば、花びらが小さく瞬いているもの、葉の裏に露のような光を宿したもの、近づくと照れたように蕾を閉じるものもある。

 ノアは花の前で、真剣に悩んでいた。

「水色も似合うと思うんだよね」

 ノアは小さな水色の花束を見た。

 花びらが薄く、月明かりを透かしたような色をしている。

「でも、こっちのピンクも可愛らしい」

 隣には、淡いピンクの花があった。丸みのある花びらが重なり、ふんわりと甘い香りを漂わせている。どこか少女らしく、やわらかな花だった。

 ガルはしばらく黙って見ていた。

 そして、ピンクの花を指さす。

「こちらが似合うのでは」

 言ってから、ガルははっとした。

 ノアの赤い瞳が、すっとこちらへ向く。

 柔らかい顔のまま、目だけが探るように細くなる。

 踏み込みすぎたかもしれない。

 ルーシーと顔を合わせたことを、ノアには話していない。彼女を知っているような言い方は、避けるべきだった。

 ガルは表情を変えずに続けた。

「ベリーフラワーの甘い香りは、女性に人気だと聞きます」

「そうなんだ」

 ノアの視線が、少しだけ緩んだ。

「じゃあ、これにしようかな」

 彼は店員に向き直る。

「お願いします」

 花束が包まれていく。

 淡いピンクのベリーフラワーは、薄紙に包まれるとますます可愛らしく見えた。店員がリボンを結ぶと、花から甘い果実のような香りが立ちのぼる。

 その後、ノアは隣の菓子屋へ寄った。

 窓辺には、カラフルなキャンディが瓶いっぱいに詰められている。赤、青、黄色、紫。中には、時々ぽんっと小さく跳ねるものもあった。

「これ、面白そうだね」

 ノアが手に取ったのは、丸い包み紙に入ったポップンキャンディだった。

 店員が笑って説明する。

「口の中でポンポン跳ねますよ。子どもに一番人気です」

「へえ」

 ノアはぱっと嬉しそうに笑った。

「じゃあ、これを」

 ガルは横で黙っていた。

 子どもに一番人気。

 それは、少し危ない言葉だと思った。

 けれどノアは気づいていない。

 彼はアリスを喜ばせたいだけだった。

 ただ、それだけなのだ。

 だからこそ、少し厄介なのだとガルは思った。

   *

 その日の仕事を終えて、ノアが家へ帰る頃には、空はもう薄紫に染まり始めていた。

 家の中は静かだった。

 玄関を開けると、廊下に夕方の光が細く差し込んでいた。奥のキッチンからは、ほんのり卵とバターの香りが漂ってくる。

「アリス?」

 声をかけたが、返事はない。

 ただ、二階にいる気配がした。

 ノアは花束と菓子の包みを片手に、階段を上がった。アリスの部屋の前で立ち止まり、軽くノックする。

「アリス、入ってもいい?」

 少し間があってから、扉が開いた。

 アリスはぼんやりした顔をしていた。寝起きなのか、目元が少し赤い。髪も乱れていて、頬には枕の跡がうっすら残っている。

 ノアはその様子を見て、少しだけ首を傾げた。

「寝てた?」

「……少しだけ」

 アリスは目を擦りながら答えた。

 ノアは花束を差し出した。

「これ、お土産」

「お土産……?」

「うん。君に似合うかなと思って」

 アリスは少し驚いたように花束を受け取った。

 淡いピンクのベリーフラワー。

 丸い花びらが重なり、甘い香りがふんわりと広がる。

 アリスは花に顔を近づける。

「いい香り……」

 甘くて、やわらかくて、砂糖菓子みたいな匂いがする。

 ノアが自分のために選んでくれた。

 そう思うと、嬉しいはずなのに。

 ふいに頭をよぎる。

 ーー金色の髪

 ーー綺麗な大人の女性

 あの人になら。

 もっと静かで、美しい花を贈るのだろうか。

 そんなこと、考えたくないのに。

 勝手に浮かんでしまう自分が嫌になる。

「それから、これ」

 ノアは菓子の包みを開けた。

 丸いキャンディがいくつも入っている。

「ポップンキャンディ。面白いんだって」

 そう言うと、ノアはひとつ包みを開け、何の悪気もなくアリスの口へぽんと放り込んだ。

「んっ」

 アリスが目を丸くした次の瞬間、口の中でキャンディが跳ねた。

 ポン。

 ポンッ。

 ポンッポンッ。

 小さな風船が口の中で弾むみたいに、舌の上でポン、ポン、と跳ねる。

 アリスは驚いて、思わず笑ってしまった。

「なにこれ、変……!」

「良かった!」

 ノアの顔がぱっと明るくなる。

「それ、子どもに一番人気だって店員さんに聞いてね」

 その言葉が、アリスの笑顔を止めた。

 ノアは気づかず、いつものようにアリスの頭へ手を置く。

「アリスが好きそうだと思ったんだ」

 優しい手。

 大切にしてくれているのは分かる。

 喜ばせようとしてくれたのも分かる。

 でも。

 子どもに一番人気。

 頭を撫でる手。

 全部が胸の中で繋がってしまった。

 やっぱり、ノアにとって私はいつまでもあの時の子どものままなんだわ。

 アリスは花束を握る手に力を込めた。

 嬉しいのに、悲しい。

 ありがたいのに、腹が立つ。

 自分でも扱えない感情が胸の奥で膨らんで、言葉になる前に頬が熱くなった。

「……もう寝ます」

「え?」

 ノアが瞬きをする。

「アリス?」

「眠いので」

 アリスは花束とキャンディの包みを持ったまま、扉を閉めた。

 ばたん。

 いつもより少し強い音がした。

 扉の外で、ノアがしばらく立ち尽くしている気配がある。

「アリス~?」

 柔らかい声。

「ちゃんと歯を磨かないと虫歯になるよ~」

 アリスは返事をしなかった。

「……反抗期、かな」

 静かな沈黙の中、その呟きが聞こえて、アリスはベッドの上でますますむっとした。

 反抗期じゃない!

 そう言い返したかった。

 でも言い返したら、自分が何に怒っているのか説明しなければならない。

 それができなくて、アリスは枕に顔を埋めた。

 ノアは階段を下りキッチンへ向かうと、食卓に皿が置かれていることに気づいた。

 白い皿の上に、不器用な形のオムライス。

 卵は少し破れていて、端の方が焦げている。上には、ケチャップで何かを書きかけた跡があった。

 アリスが作ったのだ。

 ノアは皿の前で足を止めた。

 しばらく、ただ見つめていた。

 それから、ふっと微笑む。

 胸の奥がじんわり温かくなる。

「……ありがとう」

 小さく呟く。

 オムライスはまだ少し温かかった。

 椅子に座り、スプーンを入れる。

 中のご飯は少し味が薄かった。けれど卵は柔らかく、ところどころ焦げた部分も、不思議とおいしかった。

 アリスが台所で一生懸命作った姿を思い浮かべると、ノアの目元が自然と緩む。

 さっき怒らせてしまった理由は、まだ分からない。

 けれど、オムライスは置いてある。

 それだけで、少し救われた。

 食後、ノアは自室の方からいつもより騒がしい声がすることに気づいた。

 しかも、よく知っている声だ。

 ノアは眉を上げた。

「……今日はずいぶん騒がしいね」

 扉を開けると、棚の上の瓶ががたがた震えていた。

「狭い!」

「窮屈!」

「もっと広い瓶を要求するわ!」

「種の人権を!」

「種権よ!」

 瓶の中の種たちが、口々に文句を言っている。

 ノアが近づくと、声がぴたりと止まった。

 そして、ひとつの種がぼそっと言った。

「……腹黒うさぎ」

 他の種たちが一斉に黙る。

 ノアはにっこり笑った。

「みんな、元気そうで何より」

「元気なものですか!」

「大変だったのよ!」

「今日、花ネズミが部屋に忍び込んで!」

 ノアの表情が消えた。

「花ネズミ?」

 声の温度が少し下がる。

 種たちもそれに気づいたらしく、少しだけ声を潜めた。

「ええ」

「瓶を落とされて、種が散らばって」

「私たち、頬袋に詰め込まれたのよ!」

「屈辱!」

「でもアリスが助けてくれたわ」

 ノアの目が動いた。

「アリスが?」

「そうよ」

「部屋中走り回って、花ネズミを捕まえて」

「私たちを瓶に戻してくれたの」

「なかなか勇敢だったわ」

「少し鈍かったけど」

「そこは言わなくていいでしょう!」

 ノアはしばらく黙っていた。

 アリスが、この部屋に入った。

 花ネズミを追って。

 部屋中を動き回った。

 ノアはゆっくり本棚へ向かった。

 棚の奥の本を少しどかす。

 そこには、小さな扉があった。

 深い紺色の扉。

 銀の蔦模様。

 小さな南京錠。

 ノアは膝をつき、錠を確認した。

 しっかりとかかっている。

 傷もない。

 開けられた形跡はなかった。

 ノアは、深く息を吐いた。

 心臓の奥で、冷たいものがほどけていく。

「……よかった」

 小さく呟く。

 次に、机の方へ目をやる。

 銀色の枠の写真立てが、ほんの少しだけ位置を変えていた。

 ノアはそれに気づき、そっと写真立てに触れた。

 指先が、銀色の枠をなぞる。

 そこに写るものを確かめるように、ノアはしばらく、写真立てを見つめていた。

 その表情は、懐かしむようでもあり、痛むようでもあった。

 種たちが瓶の中で、ひそひそ騒ぎ始める。

「あら、その美女だれ?」

「ずいぶん綺麗な人じゃない」

「隣の殿方も素敵ね。私、ああいう落ち着いた人がタイプだわ」

「種の身でタイプも何もないでしょう」

「心の潤いよ!」

 ノアは苦笑した。

「君たちは本当に好き勝手言うね」

「花は美しいものに敏感なのよ!」

「それに、アリスだってずいぶん見入ってたわよ!」

 ノアの指が、写真立ての縁で止まった。

「……アリスも?」

「ええ!」

「そりゃ、もう難しそうな顔で!」

「花ネズミを追っていた時より真剣だったわ!」

「そんなに?」

「じーっと見ていたわ!」

「そうそう! まばたきするのも忘れてるんじゃないかってくらいね!」

 ノアは返事をしなかった。

 写真の中では、あの二人が昔のまま、静かに微笑んでいた。

 アリスは、この写真を見て何を思ったんだろう。

 何か感じるものがあったのか。

 もしかすると、胸の奥に沈んでいた記憶が、ほんの少しだけ揺れたのかもしれない。

 そう考えて、ノアは小さく息を吐いた。

 花を選んでいる時も、菓子を選んでいる時も、ノアの頭にあったのは、アリスが笑ってくれる顔ばかりだった。

 淡いピンクの花を渡したら、どんな顔をするだろう。

 口の中で跳ねるキャンディに驚いて、笑ってくれるだろうか。

 そんなことばかり考えていた。

 肝心なことは、まだ何ひとつ伝えられていないのに。

 ノアは、わずかに眉を寄せた。

 胸の奥に浮かんだ甘いものを、自分で噛み砕いて飲み込むような顔だった。

 記憶が戻れば、アリスはきっと傷つくだろう。

 その時、あの子の瞳から今のやわらかな光が消えてしまうことが怖かった。

 だから、せめて今だけは、アリスに少しでも穏やかな気持ちでいてほしかった。

 怖いことも、悲しいことも知らないまま。

 ただ、甘い花の香りや、弾ける菓子の音に、笑っていてほしかった。

 そう思っていた。

 けれど本当は、それだけではなかったのだと思う。

 アリスを喜ばさせたい。

 その気持ちに嘘はない。

 けれど、彼女がそばにいて、笑ってくれる時間を、自分が手放したくなかった。

 ノアは写真立てに触れていた指をそっと離し、種たちの瓶へ視線を向けた。

「アリスには、礼を言っておくよ」

「言い方を間違えないことね!」

「また子ども扱いしたら怒られるわよ!」

「そうなの?」

 ノアが首を傾げると、瓶の中が一斉にざわめいた。

「そこから!?」

「重症!」

「白兎、乙女心を勉強しなさい!」

 ノアは困ったように笑った。

「……難しいね」

       *

 その頃、夜のハート城では、小さな黒い影が廊下を走っていた。

 花ネズミだった。

 ノアの部屋から逃げた花ネズミは、いつの間にか城へ紛れ込んでいたらしい。赤い絨毯の端を駆け、黒い石柱の陰をすり抜け、誰もいない中庭へ出る。

 鼻をひくひくさせながら、種を探している。

 しかし頬袋はもう空だった。

 花ネズミは少し困ったように辺りを見回した。

 そして、中庭の隅でぴたりと止まる。

 プリッ

 小さな糞をした。

 その中から、ひと粒の種が転がり出た。

「ここはどこ~!?」

 小さな叫び声。

 花ネズミは振り返りもせず、後ろ足で土をかけた。

「ちょっと! 雑! もっと丁寧に埋めなさいよ!」

 種は叫んだが、花ネズミは興味を失ったように走り去っていった。

 夜のハート城の中庭。

 薔薇の根元。

 誰にも気づかれない土の中で、その種はぷるぷる震えながら呟いた。

「……最悪。でも、土は悪くないわね」

 そして、ほんの少しだけ芽を出した。

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作者について

ニワコ

ニワコ

ChatGPTと協力しながら物語を書いています。フォロー大歓迎! キャラクターやお話の流れは、すべてオリジナルで、AIには主に文章作成や表現の整理を手伝ってもらっています。 ずっと頭の中にあった物...

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