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第三十四話 赤い薔薇だけが、すき…

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📅 公開日: 2026/6/22 📚 シリーズ: 野薔薇のアリス〜溺愛白うさぎと忘れられた約束〜 📝 5,531文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

〜不思議の国のアリスをモチーフにした作品です〜 白兎に導かれて“不思議の国”へ迷い込む、十四歳の少女アリス。 そこにいたのは、甘く優しい白兎の美青年ノア。 アリスを守る彼は、この国に隠された秘密を知っていた。失われた記憶を巡り物語が再び動き出す。 可憐で不穏な、童話ファンタジー。 白兎は、私を救いに来たの? それとも、もう二度と帰さないために迎えに来たの?

本文

第三十四話 赤い薔薇だけが、すき…

 お茶会は、ひつじ夫人の大きなくしゃみをきっかけに、唐突に終わった。

「くしゅんっ!」

 その拍子に白い巻き毛がふわりと舞い上がり、赤薔薇の庭園を小さな綿雲のように漂っていく。

「あら、私の毛が」

「薔薇に絡まったら、明日の天気が羊毛色になるわ」

「それは困るわね」

 客人たちは口々に騒ぎ始め、なぜかそのままお茶会はお開きになった。

 理由はよく分からなかったが、アリスは心からほっとした。

 女王の前では、紅茶の味も菓子の甘さも分からないほど緊張していた。いつ笑えばよいのか、カップをどう置けばよいのか、そればかりを考えていた。

 まだ正体は暴かれていない。

 けれど、女王の赤い瞳には、変装の奥まで見透かされているような気がした。

 もしかすると、次のお茶会へ呼ぶのも、アリスの正体を確かめるためなのかもしれない。

「悪くなかったわ、ルーシー」

 アザレアは満足そうに笑った。

「ちょうどいい怯え方だったわ」

「褒めてくださっているのでしょうか」

「もちろんよ。また呼ぶわ。母様も退屈していらしたもの」

 なんとも不吉な言葉を残し、アザレアは赤紫のドレスの裾を翻して去っていった。

 アリスはしばらくその後ろ姿を見送っていたが、やがて自分の格好を思い出し、慌てて衣装部屋へ戻った。

 このまま図書室へ戻るわけにはいかない。

 今のアリスは、淡いピンク色のドレスを身につけていた。裾と袖口には小さな野薔薇と蔦が刺繍され、頬にはやわらかな色が差されている。唇にも淡い紅が乗り、綺麗に結われた灰茶色の髪と、子ぶたの耳には小さなリボンまで飾られていた。

 アザレアに整えてもらった姿は、自分でも驚くほど綺麗だった。

 けれど、今のアリスには少し華やかすぎる。

 衣装部屋へ戻ると、急いでいつもの服に着替え、髪と子ぶたの耳につけられたリボンも外した。

 鏡の中には、見慣れたルーシーの姿が戻っていた。

 灰茶色の髪と、オリーブ色の瞳。それから、頭から覗く丸い子ぶたの耳。

 ノアがかけてくれた変装は、今日もきちんとアリスを隠してくれている。

 ただ、着替えることに気を取られ、化粧を落とすことまでは思いつかなかった。

 アリスはそれにも気づかないまま、胸元の薔薇のペンダントへそっと触れた。

「大丈夫」

 自分へ言い聞かせるように小さく呟き、図書室へ戻った。

   *

 図書室には、古い紙とインクの落ち着いた香りが満ちていた。

 高い本棚の間へ夕方の光が斜めに差し込み、空気の中を漂う埃を金色に輝かせている。女王の庭にいた時とは違う、静かで穏やかな時間が流れていた。

 アリスは少しだけ安心し、残っていた仕事へ取りかかった。

 古書を種類ごとに分け、傷んでいるものには札をつけていく。

 手を動かしているあいだも、女王の赤い髪と、扇子の向こうに浮かんでいた笑みが頭から離れなかった。

『なかなか面白い娘よのう』

 あの声が、今も耳の奥に残っている。

 女王に興味を持たれてしまった。

 それはきっと、喜んでよいことではない。

 最後の一冊へ印をつけた、その時だった。

 静かな図書室の扉が開き、白い影が入ってきた。

「アリス」

 聞き慣れた声に顔を上げる。

 そこに立っていたのは、ノアだった。

 白銀の髪は少し乱れ、長い白兎の耳も、いつもより落ち着きなく揺れている。

 外回りの仕事を終え、急いで戻ってきたのかもしれない。

 ノアの赤い瞳は、アリスの姿を見つけると、ほっとしたようにやわらいだ。

「仕事、終わりそう?」

「はい。ちょうど今、終わったところです」

 アリスは印をつけ終えた本を閉じた。

 ノアは机のそばへ歩み寄り、綺麗に分けられた古書を軽く確かめる。

「ありがとう。ずいぶん片づいたね」

「傷んでいるものには、すべて印をつけておきました。噛む本には触っていません」

「良い判断だね。あの子たちは一度噛みつくと、なかなか離してくれないから」

 いつものようなやり取りに、アリスの肩から少しだけ力が抜けた。

 やはり、ノアのそばにいると安心する。

 そう思った直後、ノアがふと何かに気づいたように、アリスの顔を見つめた。

「……アリス」

「はい?」

「少し、顔を見せて」

「顔、ですか?」

 ノアが一歩近づいてくる。

 アリスは反射的に身を引きかけたが、すぐ後ろには机があった。逃げる理由などないはずなのに、身体はその場に縫い留められたように動かなくなる。

 ノアは少し腰をかがめ、アリスの顔を覗き込んだ。

 さらりと落ちた白銀の髪が、頬に触れそうなほど近い。

 赤い瞳の中に、自分の姿が小さく映っていた。

 近い。

 あまりにも近くて、アリスの心臓が大きく跳ねた。

「ノ、ノア……?」

 小さく名前を呼んでも、ノアはすぐには離れなかった。

 アリスの頬から目元へ、それから淡い紅の乗った唇へと、その視線がゆっくりと移っていく。

「化粧してる?」

「えっ」

 言われて初めて、アリスは頬を押さえた。

 ドレスを着替えることに夢中で、化粧を落とし忘れていたのだ。

「少しだけ…」

「やっぱり。いつもと違うと思った」

 ノアは確かめるように、もう一度アリスの顔を見つめた。

 その視線がくすぐったくて、アリスの頬はますます熱くなっていく。

「変……ですか?」

「ううん」

 ノアは静かに首を振った。

「綺麗だよ」

 それは、いつものように小さな子どもを褒める明るい声ではなかった。

 どこか甘さを含んだ、ひどくやわらかな声だった。

 ノアの赤い瞳が、もう一度アリスの唇へ落ちる。

 その視線に気づいたアリスは、息を止めたままノアを見つめ返した。

 二人の視線が重なった瞬間、ノアはようやく我に返ったように目を見開いた。

 そして、自分から逃げるように身体を起こし、二人の間へ少しだけ距離を戻した。

 ーーー綺麗

 たった一言だったのに、アリスの心臓はいつまでも落ち着かなかった。

「あの、ノア」

「うん?」

「このお化粧は……アザレア様にしていただいたんです」

「アザレア様に?」

 ノアの表情に、わずかな警戒が浮かんだ。

「はい。それで今日、アザレア様に連れられて、お茶会へ行きました」

 その瞬間、ノアの表情がぴたりと止まった。

 つい先ほどまで二人の間にあった、やわらかな熱が静かに消えていく。

「お茶会?」

「はい」

「誰の?」

 ノアの声は静かだった。

 けれど、いつもの穏やかな静けさとは少し違う。底に冷たいものを隠しているようで、アリスは無意識に唇を湿らせた。

「ハートの女王陛下の…です…」

 ノアは一瞬、言葉を失った。

 甘い笑顔が消え、赤い瞳がわずかに見開かれる。

 アリスは不安になり、慌てて言葉を続けた。

「でも、まだ正体を知られたわけではないと思います。私はルーシーとして紹介されました。アザレア様の友達だと……」

「そっか」

 ノアはそれだけ答えると、ゆっくりと息を吐いた。

 そのまま長い沈黙が落ちた。

 危ないことをしたと叱られるかもしれない。

 アリスはそう思い、知らず知らず身体を固くした。

 けれど、ノアが最初に尋ねたのは、アリスが想像していたこととは違っていた。

「アリス、君は大丈夫だった?」

「え?」

「怖いことはされなかった? 何か変なものを飲まされたり、契約に触れたり、身体におかしなところが出たりしていない?」

 心配そうに問いかけるノアを見て、アリスは目を瞬かせた。

「い、いえ。私は特に何もありませんでした」

「何かに名前を書いたり、約束をさせられたりは?」

「ありません」

 ノアはようやく、心から安堵したように目を閉じた。

「それならよかった」

 その声を聞くと、アリスの胸の中に、ほのかな温かさが広がった。

 女王に会ったことを責めるよりも先に、ノアはアリスの無事を確かめてくれた。

 大切にされている。

 そのことは嬉しい。

 それなのに、胸の奥では別の感情も小さく疼いていて、素直に喜ぶことができなかった。

「でも……これから、どうすればいいのでしょう」

 アリスは不安を抑えきれずに尋ねた。

「女王陛下は、私を面白い娘だとおっしゃっていました。アザレア様も、またお茶会に呼ぶつもりのようで……」

 ノアは片手を口元へ添え、しばらく考え込んだ。

「いつかは、女王陛下の目に入ると思っていたんだ。アザレア様が君に興味を持った時点で、避け続けるのは難しかったからね」

「では、やはり……」

「でも、君がまだルーシーとして扱われているなら、打つ手はある」

 ノアは顔を上げると、アリスを安心させるように微笑んだ。

「いい案があるよ」

 その言葉に、アリスは思わず身構えた。

 ノアの言う「いい案」は、時々とんでもない方向へ転がっていく。

「いい案、ですか?」

「うん。君は、アザレア様に言われた通り、これからもお茶会へ行くんだ」

「行くんですか!?」

 驚きのあまり、声が大きくなった。

 ノアは落ち着いて頷く。

「女王陛下を避け続ける方が、かえって怪しまれる。アザレア様の友人として自然にお茶会へ出ていれば、君はルーシーのままでいられるからね」

「でも……」

「大丈夫。女王陛下から怪しまれない程度に、好意を向けられたルーシーとして振る舞えばいい」

 それでも怖いことには変わりなかった。

 アリスの不安に気づいたのか、ノアの声が少し低くなる。

「そのために、アリスには絶対に守ってほしいことがあるんだ」

「守ってほしいこと?」

「女王陛下の前で、ある言葉だけは絶対に口にしないでほしい」

 ノアの真剣な表情に、アリスは息を呑んだ。

「ある言葉とは、何ですか?」

 ノアは少し間を置いてから、静かに告げた。

「白が美しい、という言葉」

「白が、美しい……?」

「そう」

 アリスは不思議に思いながら、首を傾げた。

 白。

 ノアの家にも、城の中庭にも、白いものはたくさんある。清らかで静かで、アリスにとっては心の落ち着く色だった。

「女王陛下は、白が嫌いなんだ」

「嫌い……」

 そう聞いた瞬間、アリスは目の前のノアを見つめた。

 白銀の髪に、長い白い兎耳。身につけている上着も白い。

 白兎。

 女王が嫌っている白には、ノア自身も含まれているのだろうか。

 胸の奥に浮かんだ疑問を、ノアはすぐに察したらしい。ほんの少しだけ、苦い笑みを浮かべた。

「それだけじゃない。女王陛下は、誰かの忠誠を試したい時に、こう尋ねることがあるんだ」

「何をですか?」

「赤い薔薇と白い薔薇、どちらが美しいと思うか」

 ノアの声が、わずかに低くなった。

「もし尋ねられたら、迷わず答えて。必ず、こう言うんだ」

 アリスは背筋を伸ばし、次の言葉を待った。

「白い薔薇は好きではありません。私は赤い薔薇だけが好きです」

 アリスは思わず息を止めた。

 ただの花の好みを告げる言葉のはずなのに、ひどく冷たく聞こえた。

「いい?」

「……はい」

「女王陛下の前で、白を褒めてはいけない。白い薔薇を美しいと言うのも駄目だよ」

「分かりました」

「それから、答える時に『誓います』や『永遠に』とは、絶対につけないで」

「どうしてですか?」

 アリスが尋ねると、ノアは少しだけ表情を曇らせた。

「ここでは、強すぎる言葉が契約になることがあるから。女王陛下の前では、特にね」

 ノアは言い聞かせるように、ゆっくりと続ける。

「ただ答えるだけでいい。約束も、誓いもしてはいけないよ」

「……はい」

 アリスは頷いたものの、胸は少し重くなっていた。

 ― ―白い薔薇は好きではありません。

 ― ―私は赤い薔薇だけが好きです。

 それはまるで、目の前にいる白兎を否定する言葉のようだった。

 口に出してもいないのに、胸が痛む。

 けれど、言わなければならないのだろう。

 自分の正体が暴かれないために。そして、ノアの首の錠が、再び彼を苦しめないように。

「アリス」

 静かに名前を呼ばれ、アリスは顔を上げた。

「これは、僕を嫌うための言葉じゃないよ」

 ノアは少し困ったように微笑んでいた。

 アリスの頬が、また少し熱くなる。

 ノアは、そんなアリスを安心させるように、やわらかな声で続けた。

「女王陛下の前では、言葉は武器にも盾にもなる。君が赤い薔薇だけを好きだと言うなら、それは君を守るための盾になるんだ」

「盾……」

「本心でなくてもいい。必要な時は、言葉を盾にして自分を守って」

 アリスは胸元のペンダントへ触れた。

 元の世界では、言葉は気持ちを伝えたり、礼儀を示したりするものだった。

 けれどワンダラーでは、言葉はもっと危うい。

 契約にも、鍵にも、時には命をつなぐ綱にもなる。

「分かりました」

 今度は、しっかりと頷いた。

「白い薔薇は好きではありません。私は赤い薔薇だけが好きです」

 教えられた通りに口にしてみる。

 やはり、胸の奥が少しだけ痛んだ。

 けれど言える。

 それがノアと自分を守るために必要なのなら。

 ノアはほっとしたように目元をやわらげた。

「上手」

 その言い方は、とても優しかった。

 けれどアリスには、また小さな子どもを褒める声のように聞こえてしまった。

 アリスは何も言わず、そっと視線を伏せた。

 ノアもすぐに、その小さな変化へ気づいたらしい。

「あ……いや」

 何かを言いかけたものの、続く言葉は出てこなかった。

 白い兎耳が、困ったようにわずかに揺れる。

 アリスも顔を上げられないまま、胸元のペンダントを握っていた。

 二人の間へ、言葉にできない沈黙がそっと降り積もっていく。

 ほんの少し前までは、触れられそうなほど近くにいたはずなのに。

 今はまた、目に見えない細い線が、二人の間に引かれてしまったようだった。

 図書室の窓の外には、いつの間にか夜が近づいていた。

 ハートの城の黒い石壁が、夕暮れの光を受け、深い赤へと染まっている。空に浮かぶ白い雲さえも、少しずつ薔薇色へ塗り替えられていくようだった。

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作者について

ニワコ

ニワコ

ChatGPTと協力しながら物語を書いています。フォロー大歓迎! キャラクターやお話の流れは、すべてオリジナルで、AIには主に文章作成や表現の整理を手伝ってもらっています。 ずっと頭の中にあった物...

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