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第三十六話 初めての衝突、それでも今は離せない

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/23 📚 シリーズ: 野薔薇のアリス〜溺愛白うさぎと忘れられた約束〜 📝 6,269文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

〜不思議の国のアリスをモチーフにした作品です〜 白兎に導かれて“不思議の国”へ迷い込む、十四歳の少女アリス。 そこにいたのは、甘く優しい白兎の美青年ノア。 アリスを守る彼は、この国に隠された秘密を知っていた。失われた記憶を巡り物語が再び動き出す。 可憐で不穏な、童話ファンタジー。 白兎は、私を救いに来たの? それとも、もう二度と帰さないために迎えに来たの?

本文

第三十六話 初めての衝突、それでも今は離せない

 あとに残ったのは、重い沈黙だけだった。

 閉じた扉の向こうから、ガルの足音が遠ざかっていく。

 ひとつ。

 また、ひとつ。

 やがて完全に聞こえなくなっても、アリスは扉から目を離せなかった。

 深く頭を下げ、何も言い返さずに去っていったガルの背中が、まだ目に焼きついている。

 ガルは、ノアを心配していた。

 危険な道へ進んでほしくないと、ただそれだけを願っていた。

 それなのにノアは、その気持ちを迷惑だと言った。

 忠誠も、心配も、恩返しもいらないと。

 命令に従う部下でいればいいと。

 あまりにも冷たい言葉だった。

「ノア」

 アリスは、ようやく口を開いた。

「うん?」

 ノアはいつもの顔で振り返った。

 甘くて、柔らかくて、何を考えているのか分からない白兎の顔。

 まるで、先ほどのことなど何もなかったかのように。

 その笑顔を見た瞬間、アリスの胸の奥で、抑えていたものが一気に膨らんだ。

「あんな言い方をしなくても――」

「アリス」

 ノアの声が、静かに重なった。

 いつもの甘い声だった。

 けれど、その奥には、触れてはいけない冷たさがあった。

 アリスは言葉を止める。

 ノアは微笑んでいた。

 砂糖菓子のように柔らかく、綺麗な笑顔。

 なのに、赤い瞳だけがまったく笑っていない。

「君も分かった?」

 その一言で、図書室の空気がさらに冷えた。

「え……」

「ガルと二人きりにならないこと。必要以上に親しくしないこと。彼が優しくしても、それ以上は踏み込ませないこと」

 ノアはゆっくりと言った。

 幼い子どもへ言い聞かせるような口調だった。

 けれど、その声には優しさがなかった。

「守れるね?」

 アリスの胸が、きゅっと縮む。

 それはお願いではなかった。

 確認ですらない。

 逆らうことを許さない命令だった。

 今までなら、ノアの声が冷たくなれば、黙って言葉を飲み込んでいたかもしれない。

 けれど、そうはしたくなかった。

 ガルは、言葉に裏のない人だった。

 真面目で、素直にノアを思う気持ちを隠そうともしない。

 ノアに危険なことをしてほしくない。

 傷ついてほしくない。

 その思いが、アリスにはよく分かった。

 同じ人を大切に思っている。

 その気持ちに共感できたからこそ、ガルの前では自然に言葉を交わすことができた。

「……嫌です」

 小さな声だった。

 けれど、はっきりとした拒絶だった。

 ノアの赤い瞳が、わずかに見開かれる。

「そんな約束はできません」

 アリスは胸の前で手を握りしめた。

 怖くないわけではない。

 今のノアは、微笑んでいるのに、何を考えているのか分からない。甘い声さえ、逃げ道を塞ぐためのもののように感じられた。

 それでも、もう黙って頷くことはできなかった。

「ガルさんは、あんなにノアを大切に思ってくれていました。ノアが危険なことをしないように、本気で心配していたんです。それなのに、あんなふうに傷つけるなんて、酷すぎます」

 ノアの笑みが、ゆっくりと薄れていく。

「……少し目を離しただけなのに」

 ぽつりと落ちた声に、アリスは眉を寄せた。

「君はアザレア様についていって、女王陛下のお茶会へ出て。僕に黙ってガルと会って、飴まで分け合っていた」

「ガルさんとのことは、危ないことではありません」

「君には、そう見えるんだろうね」

 ノアは静かにアリスへ近づいた。

 一歩。

 また一歩。

 白い影が距離を詰めるたび、図書室の空気まで狭くなっていく。

「君は、何が危険なのかをまだ知らない。誰がどんな考えで近づいてくるのかも分かっていない。それなのに、少し優しくされれば、すぐに相手を信じてしまう」

「ガルさんは、そんな人じゃ……」

「どうして、君に分かるの?」

 声は穏やかだった。

 けれど、それは問いかけではなかった。

 アリスの判断を、初めから認めるつもりなどないのだと、その赤い瞳が告げていた。

「僕が見ていないところで、君は何をするか分からない」

「私は子どもではありません」

「そうだね」

 ノアはかすかに笑った。

「だから、余計に困っているんだ」

 その言葉に、アリスの胸が大きく鳴った。

 ノアの手が伸びる。

 頬へ触れようとする白い指を見て、アリスは反射的に身を引いた。

「やっぱり、外へ出さない方がよかったのかな」

 甘く、静かな声だった。

「最初のように執務室へ鍵をかけて、家からも出さないで。僕の目の届くところにだけ置いておけば、君は危ない目に遭わずに済む」

「何を言っているんですか……?」

「必要なものは、全部僕が用意するよ」

 ノアは、アリスの戸惑いなど見えていないように続けた。

「行きたい場所があるなら、僕が連れていく。危険なものには、僕が近づけさせない。君は僕のそばにさえいればいいんだ」

 僕のそばに。

 その言葉は、アリスが密かに望んでいたものと、とてもよく似ていた。

 ノアのそばにいたい。

 帰るまでの間だけでも、できるなら一番近くにいたい。

 子どもとしてではなく、ひとりの女性として見てほしい。

 そんな願いは、確かにアリスの中にある。

 けれど、ノアが口にした「そば」は、アリスが自分で選んで立つ場所ではなかった。

 鍵をかけられ、他の人から遠ざけられ、ノアだけを見ているように求められる場所。

 それでは、そばにいるのではない。

 ただ、置かれているだけだ。

「おかしいです」

 アリスは、はっきりと言った。

 ノアの指先が止まる。

「今のノアは、おかしいです」

「君を守ろうとしているだけだよ」

「守ることと、閉じ込めることは違います」

「違わないよ」

 ノアの声が、少しだけ低くなる。

「君が安全でいられるなら、それでいい」

「よくありません」

「どうして?」

「そこに、私の気持ちがないからです」

 ノアの赤い瞳が揺れた。

 けれど、伸ばされた手は止まらない。

 今度はアリスの腕へ触れようとする。

 その指が届く直前、アリスは手を振り払った。

 パシンッ

 乾いた音が、静かな図書室に響く。

 ノアの目が、大きく見開かれた。

 アリスの手も震えていた。

 ノアの手が伸びてくれば、これまでは避けることなどできなかった。

 髪を撫でる指も、頬へ触れる掌も好きだった。

 触れられるたびに安心し、同時に胸が熱くなる自分を、アリスはずっと隠していた。

 けれど今、その手を受け入れてしまえば、自分の怒りも意志も、すべて優しさの中へ溶かされてしまう気がした。

「触らないでください」

「……アリス」

「今のノアには、触られたくありません」

 言葉にした瞬間、胸の奥が鋭く痛んだ。

 好きなのに。

 こんなふうに拒まなければならないことが、苦しかった。

 けれど、今のノアを間違っていると思う自分も、嘘ではない。

「ガルさんと話して、分かったんです」

 アリスは震える息を整えた。

「ガルさんには、言葉の裏がありません。ノアを心配している気持ちも、ただ素直にそう思っているだけだと分かります」

 ノアの顔から、残っていた笑みが消えた。

「私も、ノアに危険なことをしてほしくないから。だから、話していて気持ちがよく分かって安心したんです」

「それは、僕とは安心して話せないということ?」

 問いかける声が、かすかに掠れた。

「今のノアとは、話せません」

 赤い瞳が揺れた。

 アリスの胸も痛んだ。

 それでも、目を逸らさなかった。

「何も教えてもらえず、ただ言うことを聞けと言われても、もう黙って従うことはできません」

「僕は、君のために――」

「私のためなら、私の気持ちを無視しないでください」

 アリスはノアをまっすぐに見上げた。

「ガルは何も知らない」

 ノアが低い声で言った。

「知らないからって、あんなふうに傷つけていい理由にはなりません」

「知らないまま、君に近づかれる方が困るんだ」

 ノアの声に、初めて苛立ちが滲んだ。

「何も知らずに君へ優しくして、君のそばへ入り込んでくる。君もそれを受け入れる。もし、このままガルと――」

 ノアは一度、言葉を止めた。

 けれど、抑えきれなかったものが、次の瞬間には口からこぼれていた。

「君がガルと、どうにかなったら?」

 図書室の空気が、ぴたりと止まった。

 アリスは息を呑む。

 ノア自身も、口にしたあとで気づいたらしい。

 赤い瞳がわずかに揺れ、白い兎耳がぴんと強張った。

「……どうして、そんな話になるんですか」

 アリスの声も、知らず知らず強くなる。

「ガルさんとは、ただお話をしただけです」

「分かっているよ」

「分かっていません」

「分かっているから、今のうちに言っているんだ」

「何をですか? 私が誰と親しくなるかまで、ノアが決めるんですか?」

「そうじゃない」

「じゃあ、どうしてそんなに怒っているんですか?」

 ノアは答えなかった。

 ただ、アリスを見つめていた。

 その沈黙に、アリスの胸が大きく揺れる。

 ほんの少しだけ、期待してしまう。

 自分がガルと親しくすることを、ノアは嫌だと思っているのだろうか。

 その感情には、守るという役目だけではない何かがあるのだろうか。

 けれど、その期待が浮かんだ瞬間、銀色の写真立てが頭をよぎった。

 金色の髪をした、美しい女性。

 彼女の隣で、アリスには一度も見せたことのない、自然で穏やかな笑顔を浮かべていたノア。

 胸の奥に残っていた細い棘が、一気に深く刺さった。

「ノアだって……」

 気づいた時には、声がこぼれていた。

「ノアだって、いるじゃないですか」

 ノアの眉が、わずかに動く。

「何が?」

「あの写真の人です」

 言ってしまった。

 アリスは口を閉じようとした。

 けれど、一度溢れた感情は止まらなかった。

「金色の髪の女の人です」

 ノアの表情が、はっきりと揺れた。

 赤い瞳が見開かれ、呼吸が一瞬止まる。

 ほんのわずかな変化だった。

 けれど、アリスには十分だった。

 やっぱり。

 あの人は、ノアにとって特別な人なのだ。

「写真を見たんだね」

 ノアの声が低くなる。

 先ほどまでの冷たさも、甘さもなかった。

 遠い場所へ触れられた人の声だった。

「……はい」

「そっか」

 それだけだった。

 誰なのかも。

 どんな関係なのかも。

 何ひとつ話してくれない。

 その沈黙が、何よりも答えのように思えた。

「……あの人は、ノアの大切な人なんでしょう?」

「それは――」

「だったら、私がガルさんと話したくらいで怒らないでください」

 声が震えた。

 こんなことを言いたかったわけではない。

 写真の女性に嫉妬していることなど、知られたくなかった。

 子ども扱いされている自分が、大人の女性と張り合っているようで、ひどく惨めだった。

「私のことは、いつまでも子ども扱いするのに」

「違う」

「何が違うんですか」

「彼女は――」

 ノアが言いかけた、その時だった。

 かちり。

 小さな音がした。

 ノアの白い襟元から、赤い光が漏れる。

 細い蔦のような紋様が首筋へ浮かび、紅い錠がゆっくりと締まっていった。

「ノア……?」

 ノアは咄嗟に首元を押さえた。

 呼吸が途切れ、続けようとした言葉が喉の奥で押し潰される。

「……っ」

 アリスの胸が締めつけられた。

 これ以上、自分が何かを言えば、またノアの錠を閉めてしまうかもしれない。

 知りたいと迫る自分が、急にひどく子どもっぽく、わがままなものに思えた。

 自分の言葉がノアを苦しめている。

 そう思うと、悲しくて、恥ずかしくて、胸の中が息もできないほど苦しくなった。

 それでも、ここにいれば、また何か余計なことを言ってしまいそうだった。

 何も話してくれないノアを責めて、錠が閉まると分かっているのに、答えを求めてしまいそうだった。

「……もう、いいです」

 アリスは唇を噛んだ。

 目の奥が熱くなる。

 ここで泣きたくなかった。

 涙を見られれば、ノアはきっと、また子どもを慰めるように優しくする。

 そんな優しさに縋りたくなかった。

「帰ります」

 アリスはノアへ背を向けた。

「待っ……て……」

 掠れた声が追いかけてくる。

 けれど、振り返ることはできなかった。

「ひとりにしてください」

 図書室の扉へ向かう。

 ノアの気持ちも、写真の女性のことも、何ひとつ分からない。

 ガルへの態度は許せないのに、ノアを嫌いにもなれなかった。

 信じたいのに、笑顔の奥にはいつも何かが隠されている。

 ノアが怖い。

 それでも、錠から解放したい。そばにいたい。好きだと思う。

 矛盾した感情が絡まり、何ひとつ整理できなかった。

 ただ、これ以上ここにはいられない。

 扉へ手を伸ばした、その瞬間だった。

 後ろから、強い力で引き寄せられた。

「……っ」

 白い腕が、アリスの身体へ回される。

 背中が、ノアの胸へぶつかった。

 ノアは後ろからアリスを抱きしめると、逃がすまいとするように腕へ力を込めた。

「ノア……?」

 白銀の髪が、アリスの頬に触れる。

 首の錠は、まだ赤く光っていた。

 かちり。

 さらに錠が締まる。

 ノアの呼吸が、苦しげに途切れた。

「ノア……やめて、錠が……」

 アリスはノアの腕へ手をかけた。

 けれど、ノアは離さなかった。

 むしろ、腕の力を強める。

「……行かないで」

 耳元へ落ちた声は掠れていた。

 命令ではなかった。

 けれど、願いと呼ぶには、あまりにも必死だった。

「なんで……こんなこと……」

「……分からない」

「錠が、閉まっているのに……」

「それでも、今は離せない」

 ノアの鼓動が、背中越しに伝わってくる。

 速い。

 ひどく乱れている。

 いつも冷静で、何があっても笑っているノアのものとは思えないほどに。

 この鼓動が何を意味しているのか、アリスには分からなかった。

 もしかすると、ノア自身も分かっていないのかもしれない。

 ただ、離したくない。

 その感情だけが、腕の力と鼓動を通して伝わってくる。

「抱きしめても、何も分からないよ」

 アリスは震える声で言った。

「ノアが何を思っているのか……」

「……うん」

「私を、どうしたいのかも」

 ノアは答えなかった。

 首元の錠が、また小さく音を立てる。

 カチリ

 その時だった。

「契約違反~」

 楽しそうな声が、頭上から降ってきた。

 アリスとノアが同時に顔を上げる。

 本棚の上に、半月形の大きな口が浮かんでいた。

 次に、ぎょろりとした目。

 茶色い毛。

 ぎざぎざの歯。

 チェシャ猫が本棚の端へ寝そべり、長い尻尾を愉快そうに揺らしている。

「だーめだよ、白兎」

 チェシャ猫は、にんまりと笑った。

「そんなふうに抱きしめたら」

 ノアの赤い瞳が、鋭く細められる。

「消えろ」

「こわ~い」

 チェシャ猫は大げさに身体を震わせた。

 けれど、笑みは深くなるばかりだった。

「守るため?」

 長い尻尾が、ゆらりと揺れる。

「それとも、取られたくないから?」

 ノアの腕が、アリスを抱く力を強めた。

 アリスは息を呑む。

「どっちかなあ?」

 チェシャ猫は楽しそうに首を傾げる。

 ノアは何も答えなかった。

 首の錠が赤く光り、細い蔦の紋様がさらに浮かび上がる。

「役割? 執着?」

 チェシャ猫が、ぎざぎざの歯を見せる。

「それとも、本気?」

「黙れ」

 ノアの声が、低く落ちた。

「おやおや。図星かにゃ~」

 アリスが再び本棚の上を見た時、チェシャ猫はいつの間にか消えていた。

 あとには、からかうような笑い声の余韻だけが残っている。

 ノアの鼓動は、まだ速いままだった。

 けれど、その速さが何を意味するのかは分からない。

 恋なのか。

 恐怖なのか。

 執着なのか。

 あるいは、そのすべてが混ざっているのか。

 分からないまま、ノアはアリスを離さなかった。

 そしてアリスも、今すぐその腕を振りほどくことができなかった。

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作者について

ニワコ

ニワコ

ChatGPTと協力しながら物語を書いています。フォロー大歓迎! キャラクターやお話の流れは、すべてオリジナルで、AIには主に文章作成や表現の整理を手伝ってもらっています。 ずっと頭の中にあった物...

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