第三十八話 小さなアリスと狼の決意の表紙画像

第三十八話 小さなアリスと狼の決意

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/6/24 📚 シリーズ: 野薔薇のアリス〜溺愛白うさぎと忘れられた約束〜 📝 4,728文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

〜不思議の国のアリスをモチーフにした作品です〜 白兎に導かれて“不思議の国”へ迷い込む、十四歳の少女アリス。 そこにいたのは、甘く優しい白兎の美青年ノア。 アリスを守る彼は、この国に隠された秘密を知っていた。失われた記憶を巡り物語が再び動き出す。 可憐で不穏な、童話ファンタジー。 白兎は、私を救いに来たの? それとも、もう二度と帰さないために迎えに来たの?

本文

第三十八話 小さなアリスと狼の決意

 アザレアを探して、ガルは城の廊下を進んでいた。

 小さくなったアリスは、ガルの上着の胸ポケットに隠れている。

 ハンカチに包まれているよりも息がしやすく、外から姿を見られる心配もない。ただ、ガルが一歩進むたびに身体が大きく上下するので、アリスはポケットの縁を両手でしっかりと掴んでいた。

 普段なら気にも留めない廊下の景色が、今はすべて巨大に見える。

 赤い絨毯の模様は広い花畑のようで、壁に並ぶ肖像画は遠い空からこちらを見下ろしている。すれ違う使用人たちの足音さえ、地鳴りのように大きかった。

「……大丈夫ですか」

 ガルが周囲に聞こえないよう、小さな声で尋ねた。

「はい。少し揺れますけど」

「歩幅を狭くします」

「急がなきゃいけないのに、すみません」

「転がり落ちる方が問題です」

 真面目な声だった。

 ガルは本当に歩幅を小さくしたらしく、揺れが少しだけ穏やかになる。

「ありがとうございます」

「いえ」

 短い返事のあと、ガルは廊下ですれ違った使用人へ声をかけた。

「アザレア様を見なかったか」

「アザレア様でしたら、東の小庭にいらっしゃいます」

 使用人は丁寧に頭を下げる。

「ご令嬢方を招いて、お茶会をなさっているかと」

「……お茶会」

 ガルの声が、わずかに硬くなった。

 アリスはポケットから、そっと顔を覗かせる。

「ガルさん。お茶会、苦手なんですか?」

「苦手ではありません」

「でも、耳が伏せています」

「気のせいです」

 ガルはきっぱりと言った。

 けれど狼の耳は、やはり少しだけ伏せたままだった。

     *

 東の小庭には、丸テーブルがいくつも並べられていた。

 赤と金の椅子には、華やかなドレスをまとった令嬢たちが腰かけている。

 薔薇色の紅茶。銀の皿に盛られた焼き菓子。宝石のように透き通った果物。

 扇子が開くたび、甘い香水と薔薇の香りが空気へ広がった。

 その中央に、アザレアがいた。

 ハートの女王が纏う赤に、甘い花色を一滴混ぜたような、鮮やかなピンク色の髪。

 光が流れるたび、淡い桃色と赤紫が髪の奥で揺れている。

 今日のドレスは深い葡萄色だった。鮮やかな髪をいっそう引き立てていた。

 ガルが小庭へ足を踏み入れた瞬間、令嬢たちの視線が一斉に集まった。

「あら、ガル様!」

「まあ、珍しい!」

「こちらへいらっしゃるなんて!」

 鈴を転がしたような声が、あちらこちらから上がる。

 ガルはそれらを気にしないふりをして、アザレアへ深く礼をした。

「アザレア様。少し、お尋ねしたいことがあります」

「あら。ずいぶん急いでいるのね」

「はい。急ぎの用です」

 アザレアはティーカップを持ったまま、楽しそうに目を細めた。

「なら、まずは席へお座りなさい」

「いえ、私は――」

「座りなさい」

 笑顔のまま、もう一度告げる。

 命令だった。

 ガルは一瞬だけ黙り、やがて諦めたように頭を下げた。

「……失礼いたします」

 空いていた椅子へ腰を下ろした途端、令嬢たちが身を乗り出した。

「ガル様は、最近〈境界扉の監察〉を任されているのでしょう?」

「異常な扉が現れた時には、兵を率いて封鎖なさるとか」

「扉の向こうには、どのような世界がありますの?」

「若くして国の境界を守るお役目だなんて、素晴らしいですわ」

 次々と投げかけられる質問に、ガルはひとつずつ律儀に答えていく。

 令嬢たちが憧れの目を向けるのも無理はなかった。

 黒茶色の髪に、凛々しい青い瞳。口数は少ないけれど、誠実で責任感が強い。そのうえ、若くして国の境界に関わる重要な役目を任されている。

「お休みの日は何をなさっているの?」

「訓練と書類整理を」

「好きなお茶は?」

「特にこだわりはありません」

「では、好きな女性のタイプは?」

 最後の問いで、ガルの表情が固まった。

 アリスはポケットの中で目を瞬かせる。

 ガルの青い瞳が、ほんの一瞬だけ助けを求めるように揺れた。

「ガルさん、頑張ってください。ええと……一緒にいて落ち着く方、とか……」

 アリスは何とか助け舟を出そうと、小さな声で囁いた。

 けれど、胸ポケットの中に隠れている少女から、好きな女性の答えを教えられる状況の方が困るらしい。

 聞こえたのか、ガルの視線が胸元へ落ちる。

 そして、先ほどよりもさらに困った顔になった。

「……今は、職務に専念しております」

「まあ」

「真面目ですのね」

「そこが素敵ですわ」

 令嬢たちは嬉しそうに笑った。

 ガルの狼の耳が、また少し伏せる。

 アザレアはその様子を眺めながら、ひどく上機嫌そうに紅茶を飲んでいた。

 絶対に楽しんでいる。

 アリスはポケットの中から、アザレアを恨めしそうに見上げた。

 しばらくすると、お茶会は終わりを迎えた。

 令嬢たちはひとり、またひとりと席を立っていく。

「では、アザレア様。また次のお茶会で」

「ガル様も、またお会いしましょうね」

「はい。機会があれば」

 ガルは疲れたような声で答えた。

 最後の令嬢が去ると、ガルはすぐに立ち上がった。

「アザレア様」

「やっと本題にはいれる?」

 アザレアは頬杖をつき、愉快そうに笑った。

「ずいぶん人気なのね、ガル」

「……からかわないでください」

「からかっているのよ」

 悪びれる様子は少しもない。

 アリスは、ようやくポケットから顔を出した。

「アザレア様」

 鈴のような小さな声に、アザレアの紅茶色の瞳が輝いた。

「まあ」

 身を乗り出し、アリスを覗き込む。

「本当に小さいわね、ルーシー」

「もとの大きさに戻るクッキーをください」

 アリスはポケットの縁へ両手をかけ、必死に訴えた。

「このままでは困ります」

「そうでしょうね」

「では、早く――」

「でも、とても可愛いわ」

 アリスは固まった。

「……え?」

「もう少し、その姿でいなさい」

「困ります!」

 大きな声を出したつもりだったが、鈴のように響くだけだった。

 それがさらにアザレアを喜ばせる。

「声まで小さいのね」

「アザレア様」

 ガルが低く呼んだ。

「大きくなるクッキーは、どこですか」

「内緒」

「アザレア様」

「そんなに怖い顔をしても駄目よ。白兎ほど怖くないもの」

 アザレアは涼しい顔で紅茶を飲んだ。

「送ってくださったクッキーのおかげで、女王陛下から隠れることができました」

 アリスはできるだけ落ち着いて言った。

「そのことは、ありがとうございます。でも、どうして最初から説明してくださらなかったんですか?」

「母様が執務室へ向かっていると知ったのは、ほんの少し前だったの。長々と事情を書いている時間なんてなかったわ」

「では、元に戻るクッキーも一緒に送ってくだされば……」

「それでは、つまらないでしょう?」

「……つまらない?」

「そうよ」

 アザレアは満足そうに頷いた。

 助けてくれたことは間違いない。

 けれど、その後のことは完全に面白がっている。

「今のルーシーさんを、このままにしておくことはできません」

 ガルが言った。

「危険です」

「あなたが守ればよいでしょう」

 アザレアの口元に、意地の悪い笑みが浮かぶ。

「ちょうどいいではないの。白兎から、近づくなと言われているのでしょう?」

 ガルの表情が強張った。

 アリスも息を呑む。

「なぜ、それを……」

「母様の城には、耳も目もたくさんあるのよ」

 アザレアは椅子から立ち上がった。

 葡萄色のドレスの裾が、薔薇の影の上を滑る。

「小さいルーシー。今のうちに、普段は見えないものを見ておきなさい」

「普段は見えないもの?」

「大きい時には、見落としてしまうものよ」

 それだけ告げると、アザレアは背を向けた。

「待ってください」

「大きくなるクッキーは、まだ渡さないわ」

「まだ!?」

「少しくらい、小さな世界を楽しみなさい」

「楽しめません!」

 アザレアは肩越しに振り返り、意地悪そうに笑った。

「せいぜい花ネズミに、種と間違われないよう気をつけることね」

「冗談ですよね?」

「さあ?」

 鮮やかなピンク色の髪を揺らしながら、アザレアは薔薇の小道へ消えていった。

 残されたアリスとガルは、しばらく何も言えなかった。

 風が吹き、赤い花びらが一枚、ガルの肩へ落ちる。

「……困りましたね」

「ええ」

 ガルも重く答える。

「非常に困りました」

「大きくなるクッキーは、ほかでは手に入らないんですか?」

「作っている菓子職人は非常に気まぐれで、城の厨房にも常備されていません。アザレア様から受け取るのが、一番早いでしょう」

「そうですか……」

 アリスは肩を落とした。

 助けたいのか、からかいたいのか、何かを試しているのか。

 おそらく、そのすべてなのだろう。

 けれど、いつまでもこのままではいられない。

「あの、ガルさん」

「はい」

「やっぱり、ノアのところへ戻ります」

 ガルの青い瞳が、アリスへ向けられた。

「なぜですか?」

「あの時、ガルさんへ助けを求めたことを、間違いだったとは思っていません」

 アリスはポケットの縁を握った。

「でも、すぐには元へ戻れないと分かった以上、このまま二人だけで動き続ければ、ガルさんの立場まで悪くしてしまいます」

 あの日のノアの冷たい声が、胸の奥に蘇る。

『僕の許可なく、彼女へ近づかないで』

 その言葉に従うつもりはない。

 けれど、元へ戻る見通しもないままガルと行動を続ければ、今度こそ彼が命令に背いたと見なされてしまう。

「ノアのところへ戻ったら、私から説明します」

「あなたが?」

 ガルは少し黙って何かを考えた後、静かに口を開いた。

「それでは、執務室まで私がお連れします。その後は、二人で事情を話しましょう」

「二人で?」

「あなたが私へ助けを求めたのなら、私は助けたことを隠しません。今回の判断が間違っていたとも思っていません」

 静かな声だった。

 けれど、そこには確かな意志があった。

 ガルもまた、ノアの言葉へただ従うのではなく、自分で選ぼうとしている。

 アリスはしばらくガルを見つめ、やがて頷いた。

「分かりました。一緒に戻りましょう」

「はい」

「ノアが怒ったら、私もきちんと話します。ガルさんだけを怒らせません」

 ガルの目元が、ほんの少しだけやわらいだ。

「心強いです」

 ガルは上着の胸ポケットを少し広げた。

「中へ入ってください」

 アリスはポケットへ戻る前に、もう一度ガルを見上げた。

「ガルさん」

「何でしょう」

「ノアがまた、あの日のようなことを言っても、すべて本心だとは思わないでください」

 ガルの青い瞳が、静かに揺れた。

「ノアは、大切なものほど遠ざけようとする人だから」

 自分で口にして、胸が少し痛んだ。

 ガルだけではない。

 アリス自身も、同じように遠ざけられているのかもしれない。

 守るために。

 失わないために。

 けれど、そんなやり方を続けていれば、いつか本当に誰もいなくなってしまう。

 アリスは言った。

「きっと、伝わるはずです」

 ガルはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。

「分かりました」

 アリスは胸ポケットの中へ戻った。

 ガルが外から布を整え、姿が見えないようにしてくれる。

「苦しくありませんか」

「大丈夫です」

 ガルは赤薔薇の小庭を後にした。

 城の廊下を進む足音が、ポケット越しに静かに響く。

 ノアの執務室へ戻る。

 今度は、隠さずに事情を話す。

 ガルと一緒に。

 ノアはきっと怒るだろう。

 それでも、逃げてはいけない。

 アリスは小さな胸へ手を置いた。

 怒ってもいい。

 怖い顔をしてもいい。

 けれど、今度こそ自分の言葉で伝えよう。

 ガルへ助けを求めたのは、自分の意志だったこと。

 ガルは何も悪くないこと。

 そして、誰かを守るために遠ざけることが、いつも正しいわけではないこと。

 きっと、伝わるはずだ。

 そう信じながら、アリスは胸ポケットの中で、そっと顔を上げた。

ジャンル・タグ

, , , , ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 5 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

ニワコ

ニワコ

ChatGPTと協力しながら物語を書いています。フォロー大歓迎! キャラクターやお話の流れは、すべてオリジナルで、AIには主に文章作成や表現の整理を手伝ってもらっています。 ずっと頭の中にあった物...

👥 フォロワー: 1人

作者ページを見る