第64話 日曜日の湯気
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あらすじ
1907年、ウィーン美術アカデミー受験に失敗した若きアドルフ・ヒトラーは、 絵画の才能ではなく建築的構成力に向いていると指摘される。 史実では、その助言は彼の人生を救うほどの導線にはならなかった。 しかしこの世界では、面談した学長または教授が、彼の水彩画に見える建築物の描写力、正面構成、装飾への執着を見抜き、ウィーン市内の設計事務所や建築装飾工房への紹介状を書く。 「君は画家ではない。少なくとも、人物を描く画家ではない。 だが建物を見る目はある。 絵筆ではなく、定規と図面で食う道を探しなさい」 この一言が、歴史をわずかにずらす。 ヒトラーは政治集会の演壇ではなく、製図台へ向かう。 大衆を煽る言葉ではなく、式典会場の正面構成、店舗内装、建築透視図、仮設壇上、展示空間の意匠で生計を立てていく。 やがて第一次大戦には史実同様に従軍するが、戦後に戻る場所がある。 完全な漂流者ではない。 敗戦と混乱に怒りを抱えながらも、彼は政治運動の中心にはならず、設計と意匠の仕事へ戻る。 そして1920年代、ミュンヘンに小さな事務所を構える。 Adolf Hitler Entwurfsbüro アドルフ・ヒトラー意匠事務所 ここから始まるのは、世界征服ではない。 納期と外注と広告屋と若手所員に振り回される、偏屈な意匠家の職業人生である。
本文
1941年9月の最初の日曜日、ユンゲはいつもより少し遅く起きた。
事務所の電話は鳴らない。受付机も応接室も、所長室の灰皿も、ブロンディの敷物も、今日は彼女を待っていない。窓を開けると、朝の空気にはまだ夏の名残があったが、どこか端の方に秋の匂いが混じっていた。
小さな食卓には、パン、バター、ゆで卵、薄く切った果物、そしてミュンヘンの地元紙が置かれていた。事務所で読む大手紙や経済紙とは違う。こちらは生活の紙だった。市議会の話、劇場案内、店の広告、日曜の礼拝、路面電車の一部変更、そして世界の出来事が、同じ紙面の中に少し不格好に並んでいる。
ユンゲはコーヒーを注ぎ、新聞を広げた。
一面には、英ソによるイラン進駐の記事が出ていた。
石油。鉄道。中東防衛。インドへの道。カフカス。ペルシア湾。
文面には冷静な言葉が並んでいたが、地図の上では、二つの大国が南と北からひとつの国へ手を伸ばしているように見えた。
ドイツはその戦争の中心にはいなかった。
欧州の大都市は焼かれていない。ミュンヘンの日曜の朝には、パンを切る音と、通りを走る自転車の音がある。
それでも、新聞の上では世界が動いていた。
ユンゲは紙面をめくった。
スポーツ欄には、1942年世界選手権ブラジル大会の準備が進んでいる、という記事があった。リオデジャネイロ、サンパウロ、競技場整備、欧州代表の渡航計画、大西洋航路の安定。記事は明るかった。少なくとも大西洋は、まだ選手と記者と観客の船を通す海として語られている。
同じ新聞の別面には、日本の仏印情勢、東洋艦隊増強論、ニューファンドランド8項目宣言をめぐる各国の解釈の差が載っていた。
大西洋は球を蹴るための海。
インド洋とペルシア湾は石油と鉄道の海。
太平洋は、まだ始まっていない戦争の匂いを持つ海。
ユンゲは卵を切りながら、少しだけ眉を寄せた。
新聞は遠い場所を近くする。だが、近くなったからといって、理解できるとは限らない。
今日は、マルタ・ライナーと約束していた。
ユンゲは食器を片づけ、乗馬用の服を出した。何度も使っている上着。動きやすいズボン。手袋。黒革の乗馬ブーツ。華やかではないが、よく手入れされている。ブーツには、細かな皺が入っていた。だが革はまだしっかりしていて、足にもなじんでいる。
彼女は布でブーツを軽く拭き、少しだけ磨いた。
職場へ履いていく雨雪の日の実用装備とは違う。今日は休日の装備だった。馬に乗るためのもの。馬場の土と、革と、汗と、郊外の風に向かうためのもの。
出かける前、ユンゲは新聞の広告欄にもう一度目を落とした。
乗馬用品店の小さな広告があった。
婦人用の新作乗馬手袋。明るい革色のブーツ。軽い仕立ての上着。縁取りのある帽子。刷りは二色だけだったが、絵はよくできていた。帽子の角度、袖口の白さ、ブーツの艶。見る者の目を引くように作られている。
エヴァ・ブラウンなら、こういうものに目を輝かせるかもしれない。
写真に映えるわ、と言うだろう。
店先で少し横を向くだけで、広告になるわ、と笑うだろう。
ユンゲはしばらく広告を見ていた。
悪くはなかった。
けれど、自分には少し明るすぎた。
今の服はまだ使える。ブーツも、磨けば次の日曜にも履ける。新しいものを買う理由はまだない。それに、あの明るい革色は目立つ。馬場ではともかく、市内へ戻る時、自分の足元ばかりが先に歩いているように見えそうだった。
ユンゲは広告を切り抜かなかった。
新聞を畳み、椅子から立ち上がった。
ミュンヘン郊外の乗馬場には、昼前の光が差していた。
マルタはすでに来ていた。明るい声でユンゲを呼び、手を振った。彼女は保険会社に勤めていて、普段は書類と約款に追われているが、馬の前ではどこか肩の力が抜ける。
「クララ、今日はいい天気ね」
「ええ。少し暑いくらいです」
「暑いと言えば、ブラジルはもっと暑いのでしょうね」
マルタは馬の首を撫でながら言った。
「新聞、見た?」
「世界選手権の記事なら」
「本当に行くのかしら。欧州の選手たちが、船で大西洋を渡って」
「新聞では一行ですけれど、海を渡るのは一行では済みません」
マルタは笑った。
「あなたらしい言い方」
ユンゲは手綱を確かめた。
「でも、少し安心もしました。少なくとも大西洋には、まだそういう計画が立てられるのだと思って」
「でも一面はイランでしょう?」
「ええ」
「イランって、遠すぎてよく分からないわ。石油と鉄道と書いてあったけれど」
「遠い場所ほど、新聞では短くなります」
二人はしばらく馬を歩かせた。
馬場の土は乾きすぎず、蹄の音は柔らかかった。革の軋む音、馬の息、遠くの木立を渡る風。新聞の中の地名は、ここではすぐに遠のいていく。イランも、仏印も、ニューファンドランドも、馬の背から見るとただの言葉になる。
それでも、完全には消えなかった。
ユンゲは馬を軽く走らせた。体が前へ出る。手綱を握る指に力が入る。足と膝で馬の動きを受ける。目の前には、新聞ではなく柵があった。越えるべきものは、地図上の国境ではなく、馬場の低い障害だった。
マルタがあとから追ってきた。
「やっぱりクララは、姿勢が崩れないわね」
「仕事では崩れてばかりです」
「所長さんのせい?」
「所長は、崩れたものを見つけるのが得意です」
「それは大変」
「本人は、整えているつもりです」
マルタは声を立てて笑った。
昼近くまで乗ったあと、二人は馬を戻し、道具を片づけた。ユンゲの服には馬場の埃がつき、髪にも汗がにじんでいた。革の匂いと馬の匂いが、自分の体に移っているのが分かる。
「このまま帰る?」
マルタが尋ねた。
「いいえ。いつもの通り、浴場へ」
「そう言うと思った」
二人は市内へ戻った。
路面電車の中では、日曜の服を着た人々が座っていた。親子連れ、年配の婦人、帽子をかぶった男、花を持つ女。誰もが新聞を読んでいるわけではないが、誰かの膝には新聞があり、誰かの会話にはイランという言葉が混じった。
ミュンヘンはまだ平穏だった。
建物は建っている。窓は割れていない。店は開き、日曜の人出がある。
だが、その平穏は、何も起きていないからではなく、まだここには届いていないから、という種類のものにも思えた。
浴場の建物は、通りの角で重たく、装飾的に立っていた。
入口の上には丸みのある飾りがあり、壁面には古い都市の誇りのような意匠が残っている。市民のための浴場。家に十分な浴室や給湯設備を持たない人々にとって、ここは贅沢というより、生活に必要な場所だった。プールもあり、個別の浴槽もあり、発汗浴もある。建物全体に、湯と石鹸と濡れたタイルの匂いがあった。
受付で料金を払い、番号札を受け取る。係員の女性が、慣れた声で区画と時間を案内した。
「混んでいますか?」
マルタが聞くと、係員は肩をすくめた。
「日曜ですから。けれど、少し待てば空きます」
中へ進むと、音が変わった。
外の通りの音は厚い壁に遮られ、代わりに水音、足音、声、どこかで響く金属の音が聞こえる。天井は高く、壁にはタイルが張られ、ところどころに装飾的な曲線があった。清潔で、少し古めかしく、そして湿っている。
脱衣室には木製のロッカーとベンチが並んでいた。番号札を引っ掛け、服を畳む。乗馬服は汗と埃を吸っていた。ユンゲはそれを丁寧に畳み、ブーツを揃えた。
マルタが隣で言った。
「新しい乗馬用品の広告、見た?」
ユンゲは少し驚いた。
「見ました」
「あの明るいブーツ、少し綺麗だったわね」
「綺麗でした」
「買わないの?」
「まだ今のものが使えます」
「それだけ?」
ユンゲは少し考えた。
「少し目立ちすぎます」
マルタは笑った。
「あなたならそう言うと思った」
「ブラウンさんなら似合うと思います」
「あなたの事務所に出入りしているホフマン写真館の?」
「ええ。ああいう明るさを、自分のものにできる人です」
「あなたは?」
「私は、磨けば済むものを磨きます」
マルタはそれ以上言わず、ただ穏やかに笑った。
浴場では、まず体の埃と汗を落とした。
シャワーの水は最初少し冷たく、それから温かくなった。乗馬の後の肌には、湯がよく染みた。馬場の土、革の匂い、汗、朝の新聞のインク。それらが湯と石鹸で少しずつ流れていく。
周囲では、女たちがそれぞれの時間を過ごしていた。
個別の浴槽へ向かう者。
シャワーだけで済ませる者。
発汗浴の方へ行く者。
プールへ向かう若い女性たち。
子どもの手を引く母親。
濡れた床を拭く係員。
浴場は、裸になる場所であると同時に、都市が自分を洗い直す場所だった。人々は服と肩書きと外の埃を脱ぎ、番号札と石鹸とタオルだけになる。だが、話題までは脱げない。
湯気の向こうで、年配の婦人が言った。
「イランって、石油のところでしょう」
別の声が答えた。
「鉄道も大事だと新聞にありましたよ」
「イギリスとソ連が同じ国へ入るなんて、気味が悪いわ」
「でもブラジルではサッカーの大会ですって」
「海は静かなのか騒がしいのか、どちらなのかしらね」
誰かが小さく笑った。
「新聞の中では、どちらも同じ大きさよ」
ユンゲは湯を肩にかけながら、その言葉を聞いていた。
新聞の中では、どちらも同じ大きさ。
イランも、ブラジルも、仏印も、ミュンヘンの浴場の広告も、紙面の幅に合わせて切られる。だが、湯気の中で口にされると、遠い場所は少し違った形になる。地図の上ではなく、人の不安や期待の中に入ってくる。
マルタが隣で髪をまとめ直しながら言った。
「こうしていると、遠い話に思えるわね」
「ええ」
「でも新聞を読むと、近い」
「近くなったように見えるだけかもしれません」
「それでも、知らないよりはいい?」
ユンゲは少し間を置いた。
「知らないでいられる時代では、なくなっているのだと思います」
マルタは黙った。
浴場の天井近くに、湯気が薄く溜まっていた。光がそこを通ると、白くぼやける。人の声も、水音も、少し丸くなる。外の新聞見出しはここまで入ってきても、角が取れていた。
けれど、消えたわけではない。
入浴を終えると、ユンゲは髪を整え、清潔な服に着替えた。乗馬服は袋にしまった。黒革のブーツは泥を落としていたが、あとで家でもう一度磨く必要がある。
浴場を出ると、夕方の空気が涼しく感じられた。
二人は近くの喫茶店に入った。
小さな丸テーブル。白いカップ。少し乾いた菓子。壁際には新聞が置かれていた。マルタがスポーツ欄を開く。
「ほら、ブラジル大会」
ユンゲも覗いた。
記事には、開催準備、競技場、欧州からの渡航計画、南米での関心の高まりが書かれていた。紙面は明るく、言葉も前向きだった。海は渡るもの、世界は集まるもの、と書いてあるようだった。
その裏面には、仏印と日本の続報が載っていた。
マルタは少し顔をしかめた。
「同じ新聞なのに、落ち着かないわね」
「新聞は、世界の悪い見本だと所長なら言うかもしれません」
「どういう意味?」
「すべてを同じ紙に載せるからです」
マルタは笑った。
「でも、だから読むのでしょう?」
ユンゲはカップを持ち上げた。
「私もそう思います」
喫茶店の窓の外を、日曜の人々が通り過ぎていく。荷物を持つ婦人、帽子の男、子ども。店の中ではブラジル大会の記事を読む人がいて、別の席ではイランの話をしている。ヨーロッパはまだ日曜日を持っていた。浴場も、喫茶店も、乗馬場も、新聞も、予定表もあった。
一応の平穏。
ユンゲはその言葉を思った。
平穏、と言い切るには紙面が騒がしい。
戦争、と言うには通りが静かすぎる。
帰宅した時には、外は少し暗くなっていた。
ユンゲは乗馬服を掛け、ブーツの泥を丁寧に落とした。布で拭き、革に薄く艶を戻す。今日の広告の明るいブーツを思い出した。新しい革。目立つ縁取り。軽い線。
彼女は自分のブーツを見た。
皺はある。
だが、まだ使える。
それで十分だった。
髪を乾かし、浴場の石鹸の匂いが少しだけ残るまま、食卓に新聞を広げた。仕事の記録帳ではない。個人的なスクラップブックを出す。商社にいた頃から、気になる記事を貼る癖があった。旅行、乗馬、映画、スポーツ、国際情勢、店の広告。どれも仕事ではないが、あとで見返すと、その時の空気が少し戻る。
ブラジル大会の記事を切り抜いた。
紙面の中では明るい記事だった。世界がまだ集まれるという前提で書かれている。その明るさが、今は少し貴重に思えた。
イラン進駐の記事は、切り抜くか迷った。
大きすぎる。重すぎる。けれど、浴場で聞いた声が耳に残っていた。
「石油のところでしょう」
「鉄道も大事だと新聞にありましたよ」
「海は静かなのか騒がしいのか、どちらなのかしらね」
ユンゲは、見出しと地図の小さな部分だけを切った。余白に日付を書く。
仏印の記事も、小さく切った。
ニューファンドランド8項目宣言の続報は、大きく貼らず、要点だけをスクラップブックの端に写した。
領土。
海。
通商。
自決。
軍備。
解釈に差。
乗馬用品の広告には、もう一度目が行った。
明るい革色のブーツ。新作の手袋。軽やかな上着。
エヴァなら、きっと切り抜くだろう。あるいは、店へ行くかもしれない。写真に映えると言って。
ユンゲは指先で広告の端を押さえた。
少しだけ迷い、それから切り抜かなかった。
これは、自分のものではない。
広告欄はそのまま残した。
この面なら、明日ブロンディのおもちゃにしてもいいかもしれない。世界情勢の重い記事ではなく、乗馬用品と菓子店と劇場案内の面なら、犬がくわえて走っても構わない。
もっとも、ブロンディにとっては、イランもブラジルも乗馬用品も同じ紙だろう。
ユンゲは小さく笑った。
事務所では、畳んだ新聞を床に置けない。ブロンディがすぐに姿勢を正してしまう。所長が古新聞を棒のように畳んで投げる遊びを覚えさせてから、新聞は紙であるだけでなく、犬の期待になった。
ユンゲは、ブロンディ用にしてもよさそうな広告欄を別に畳んだ。
ただし、今日切り抜いた紙面はスクラップブックに貼った。
ブラジル大会。イラン進駐。仏印。八項目宣言の余波。
日曜日の湯気の中で聞いた世界。
それらは犬に投げるには、まだ少し重かった。
翌朝、ユンゲは小さく畳んだ古新聞を鞄に入れて事務所へ向かった。
月曜の事務所は、すでに動いていた。
エルゼは経理机に座り、フランツは製図机で紙を広げている。クレープスは図面を高い位置に避難させる癖がつき始めていた。カイテルは応接への導線を確認し、ヨードルは工程表に線を引いていた。
所長室の扉の前で、ブロンディが顔を上げた。
ユンゲは鞄から、広告欄だけの古新聞を取り出した。
「今日はこれだけです」
ヒトラーが所長室から出てきた。
「何だ」
「広告欄です。世界情勢は入っていません」
ブロンディはすでに姿勢を正していた。
ヒトラーは新聞を受け取り、紙面を見た。乗馬用品の広告、菓子店の広告、劇場案内。
「よろしい。犬に与える紙にも秩序が必要だ」
エルゼが顔を上げた。
「所長が言うと、また規則になりそうです」
「規則ではない。区別だ」
フランツが笑った。
「ブロンディには、どちらも同じかもしれません」
ヒトラーは新聞を細く畳んだ。
「だから人間が区別する」
ブロンディの耳が立った。
ヒトラーは軽く振ってから、通路の空いた方へ投げた。
「行け」
ブロンディが駆け出した。
広告欄は床を滑り、机の脚の手前で止まった。ブロンディはそれをくわえ、得意げに戻ってくる。明るい革色のブーツも、菓子店の安売りも、劇場の案内も、犬の口元で少し皺になっていた。
ヒトラーはそれを受け取り、紙面を見た。
「乗馬用品か」
ユンゲは少しだけ目をそらした。
「新作だそうです」
「買うのか」
「いいえ。まだ手持ちのものが使えます」
ヒトラーは短くうなずいた。
「よろしい。使えるものを、広告の都合で捨てるな」
エルゼが言った。
「所長が珍しくまともなことを」
「私は常にまともだ」
誰も返事をしなかった。
ブロンディだけが、もう一度投げてもらえると思って姿勢を正していた。
ユンゲは受付机に座り、鞄を足元に置いた。昨日の湯気、馬場の土、新聞のインク、喫茶店の窓、スクラップブックの糊の匂いが、少しずつ遠のいていく。
事務所の新聞は、今日も机の上に広げられていた。
ブラジル大会。
イラン進駐。
仏印。
東洋艦隊。
大西洋航路。
同じ紙面に、遠い海が並んでいる。
ヨーロッパは、まだ日曜日の湯気を持っていた。
だが、その湯気の向こうで、世界はもう別の熱を帯び始めていた。