まだ白紙の僕らへ

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/27 📚 シリーズ: まだ白紙の僕らへ 📝 6,077文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

二十八歳、大学中退。仕事も長続きせず、恋愛もうまくいかなかった。 「このままじゃダメだ」 そう思った松澤柚葉は、二年制のデザイン系専門学校への入学を決める。 周囲は十代ばかり。自分の年齢を気にしながら始まった学生生活で出会ったのは、今回が最後の挑戦だという二十五歳の榊原遥斗と、幼い頃から数々の賞を受賞してきた、圧倒的な絵の才能を持つ十九歳の飯村ミオだった。 優しい線を描く柚葉。 丁寧な線を重ねる遥斗。 そして、感情をそのままぶつけるような線を描くミオ。 年齢も、才能も、抱えているものも違う三人。 夢を追うには遅すぎるのか。 才能がなければ諦めるしかないのか。 才能があれば幸せになれるのか。 それぞれの不安を抱えながら、三人は少しずつ互いの人生に触れ、支え合い、自分だけの「描き方」を見つけていく。 まだ何者でもない。 未来だって決まっていない。 だからこそ、何度だって描き直せる。 これは、人生の途中で立ち止まった三人が、真っ白なキャンバスにもう一度未来を描き始める、二年間の青春群像劇。 『まだ白紙の僕らへ』 ――その白紙に何を描くのかを決めるのは、いつだって自分自身だ。

本文

第11話「秋、ひとつ増えた色」

夏休みが終わって数週間が過ぎた頃、校舎を包んでいた空気は少しずつ秋へ変わり始めていた。

窓を開ければまだ夏の名残を感じる風が入ってくるものの、朝夕は以前よりずっと涼しくなっている。蝉の声もいつの間にか聞こえなくなり、代わりに校庭の木々が少しずつ色を変え始めていた。

柚葉は教室の窓から外を眺めながら大きく伸びをした。

「夏休み短かったなあ」

隣で課題を整理していた遥斗が顔を上げる。

「一か月以上ありましたよ」

「体感一週間」

「最後に課題で苦しんでたからじゃないですか」

「それは関係ない」

「絶対あります」

少し離れた席でスケッチブックを開いていたミオが静かに口を挟んだ。

「むしろ最後の一週間が一番長かったんじゃないですか」

「ミオまで言う?」

「事実です」

「二人とも夏休み前より冷たくなってない?」

柚葉が不満そうに言うと遥斗とミオは一瞬だけ顔を見合わせた。

そしてほとんど同時に笑った。

「ほらそういうとこ」

柚葉もつられて笑う。

夏休みが終わっても三人は変わらなかった。

昼になれば自然と集まり、授業が終われば誰からともなく一緒に帰る。休日になればグループチャットが動き、特に予定がなくても誰かが「暇」と送ればいつの間にか三人で会っていた。

以前なら偶然だったはずのことが今では当たり前になっている。

ただ一つだけ。

夏祭りの日から遥斗の中には誰にも言っていないものが増えていた。

柚葉が笑うたびに目で追ってしまう。

隣を歩けば少しだけ距離を意識してしまう。

以前なら何とも思わなかった言葉に意味を探してしまうこともある。

それでも遥斗は何も言わなかった。

言えば何かが変わる。

そう思うと今の三人でいる時間を手放す気にはなれなかった。

そしてその変化に気づいているのは今のところミオだけだった。

その日の午後。

担任が教室へ入ってくるなり黒板へ大きな文字を書いた。

『文化祭』

その二文字を見た瞬間、教室の空気が変わった。

「今年もこの時期が来ました」

担任は振り返りながら言った。

「来月末に文化祭があります。うちのクラスも展示を出すので今日から少しずつ準備を始めます」

周囲からざわめきが広がる。

美術学校の文化祭は普通の学校とは少し違う。

各クラスが出す展示だけでなく個人作品やグループ制作もあり、校舎全体がひとつの大きな展覧会のようになる。一般客も多く訪れるため学生にとっては一年の中でもかなり大きな行事だった。

柚葉の顔が明るくなる。

「楽しそう」

「絶対そう言うと思いました」

遥斗が笑う。

「だって文化祭だよ?」

「去年もありましたよ」

「今年は今年じゃん」

柚葉はすでに楽しそうだった。

その横でミオは黒板を見ている。

「ミオは?」

柚葉が聞く。

「何ですか」

「文化祭」

「去年もありました」

「遥斗と同じこと言わないで」

「事実なので」

柚葉は頬を膨らませた。

「二人ともテンション低い」

「柚葉さんが高すぎるんです」

遥斗が言う。

「でも三人で何か作れたら楽しそうじゃない?」

その言葉に遥斗が少し考える。

ミオも黒板から柚葉へ視線を移した。

「三人で?」

「うん。せっかくだし」

柚葉は楽しそうに続ける。

「夏に三人で色々描いたじゃん。文化祭でも何かできたらいいなって」

湖。

夜の公園。

柚葉の家。

夏祭り。

ミオの頭にいくつもの景色が浮かんだ。

以前なら誰かと作品を作るという発想そのものがなかった。

自分の絵は自分だけで完成させるものだと思っていた。

けれど今は少し違う。

「……悪くないと思います」

ミオが答える。

柚葉はすぐに笑った。

「じゃあ決まり」

「まだ何も決まってませんよ」

遥斗が言う。

「三人でやることは決まった」

「先生に確認してからですよ」

「大丈夫でしょ」

そんな話をしていると教室の前の扉が開いた。

担任が顔を上げる。

「ちょうどいいところに来ましたね」

その言葉に何人かの生徒が入口を見る。

柚葉も何となく振り返った。

そこに一人の女子生徒が立っていた。

長い髪を肩の後ろへ流し、制服を綺麗に着こなしている。姿勢が良く教室中から視線を向けられているにもかかわらず特に緊張している様子はない。

どこか堂々としていた。

担任がその生徒を教室の中へ招く。

「今日からこのクラスに入ることになった転入生です」

教室が少しざわついた。

こんな時期に転入してくる生徒は珍しい。

女子生徒は黒板の前まで歩くとチョークを受け取り、自分の名前を書いた。

『錦 玲奈』

振り返る。

「錦玲奈です」

よく通る声だった。

「前の学校でも美術を勉強していました。よろしくお願いします」

短い挨拶だった。

愛想が悪いわけではない。

けれど必要以上に自分を飾ろうともしていない。

担任が空いている席を探しながら教室を見回す。

「錦さんは……あそこですね」

指さした先を見て柚葉は少しだけ目を見開いた。

三人のすぐ近くだった。

玲奈は荷物を持って歩いてくる。

その途中で柚葉と一瞬目が合った。

柚葉は反射的に笑った。

玲奈もほんの少しだけ笑い返す。

そして席へ座った。

「近いね」

柚葉が小声で言う。

遥斗が前を向いたまま答える。

「話しかける気ですね」

「何で分かったの」

「分かりますよ」

「まだ何も言ってないじゃん」

ミオも小さく息を吐いた。

「柚葉さんなら絶対行きます」

「二人とも私のこと分かってきたね」

「分かりたくなくても分かります」

「それ酷くない?」

三人が小声で話していると玲奈が少しだけこちらを見た。

柚葉はすぐに笑う。

玲奈は何も言わず前へ向き直った。

その横顔を見ながら柚葉は思った。

少し話してみたい。

それだけだった。

昼休みになると柚葉は本当に玲奈の席へ向かった。

「ねえ」

遥斗が止める間もなかった。

ミオは最初から止めるつもりもなかったらしく自分の弁当を開いている。

玲奈は鞄から昼食を出していた。

「錦さんだよね」

「そうだけど」

「私、柚葉」

玲奈は少しだけ目を細めた。

「知ってる」

「え?」

「さっき先生に呼ばれてたから」

「ああ」

柚葉は納得する。

「玲奈って呼んでもいい?」

遥斗が少し離れたところで吹き出しそうになった。

初対面でそこまで行くのか。

玲奈も少し驚いたようだったがすぐに笑った。

「いいけど」

「じゃあ玲奈」

「本当にすぐ呼ぶんだ」

「駄目だった?」

「別に」

玲奈は柚葉を見る。

「じゃあ私も柚葉でいい?」

「もちろん」

話はあっという間に決まった。

柚葉は玲奈の机の隣へ椅子を持ってくる。

「一緒に食べよ」

「いいけど」

玲奈が答えたあと柚葉は振り返った。

「遥斗、ミオもこっち来て」

「やっぱりそうなるんですね」

遥斗が苦笑しながら立ち上がる。

ミオも弁当を持って移動した。

「この二人は遥斗とミオ」

柚葉が紹介する。

遥斗が軽く頭を下げる。

「小宮遥斗です。よろしく」

玲奈も頷いた。

「よろしく」

そしてミオを見る。

その瞬間。

玲奈の視線が少しだけ止まった。

「……あなた」

ミオが顔を上げる。

「何ですか」

玲奈は少し考えるようにミオの顔を見る。

「どこかで見たことある気がする」

柚葉と遥斗がミオを見る。

「知り合い?」

柚葉が聞く。

ミオは首を横に振った。

「知りません」

「私も直接会ったことはないと思う」

玲奈はそう言いながらもまだミオを見ている。

「名前は?」

「ミオです」

「名字は?」

一瞬。

ミオの表情が止まった。

ほんの僅かな変化だった。

柚葉は気づかなかった。

遥斗も気づいていない。

けれど玲奈だけはその一瞬を見逃さなかった。

「……ミオでいいです」

静かな声だった。

玲奈は何か言いかけた。

けれど。

「そっか」

それ以上は聞かなかった。

柚葉が空気を変えるように口を開く。

「玲奈ってどんな絵描くの?」

「人物が多いかな」

「見たい」

「いきなり?」

「駄目?」

「別にいいけど」

玲奈は鞄からスケッチブックを取り出した。

柚葉が身を乗り出す。

遥斗も少し覗き込んだ。

ページを開いた瞬間、柚葉の表情が変わった。

「……上手」

人物画だった。

駅のホームに立つ女性。

ベンチに座る老人。

カフェで本を読む男性。

どれも写真のように正確というわけではない。

けれど人物の表情や仕草に不思議な存在感があった。

そこにいる人間が何を考えているのか想像したくなるような絵だった。

「すごいね」

柚葉は何枚もページを見る。

「こういうの好き」

玲奈は少し笑った。

「ありがとう」

遥斗も感心したように見る。

「人物描くの上手いですね」

「人を見るのが好きだから」

玲奈が答える。

「絵って結局その人が何を見てるか出ると思うんだよね」

その言葉にミオの手が止まった。

玲奈は気づいていない。

スケッチブックを閉じながら続ける。

「上手い下手より何を見て何を残したかったのか。その方が私は気になる」

柚葉は何度か頷いた。

「分かる気がする」

ミオは黙っていた。

夏に柚葉から言われた言葉を思い出す。

上手かったからじゃなくて、あの日楽しかったなって思ったから好き。

似ていた。

玲奈と柚葉。

言い方は違うのに絵を見る場所がどこか似ている。

「ミオは?」

玲奈が突然聞いた。

「え?」

「どんな絵描くの?」

柚葉が答えようとしたがミオが先に口を開いた。

「色々です」

「見てもいい?」

「嫌です」

即答だった。

玲奈が目を丸くする。

遥斗が少し笑った。

「俺たちも最初そんな感じでした」

「今もです」

ミオが訂正する。

「最近は見せてくれるじゃん」

柚葉が言う。

「たまにです」

玲奈は三人を見た。

何となく分かった。

自分が知らない時間がこの三人にはある。

三人だけに分かる会話や距離感がある。

「仲いいんだね」

玲奈が言った。

柚葉はすぐに答えた。

「うん」

遥斗も少し笑う。

ミオだけは何も言わなかったが否定もしなかった。

その様子を見て玲奈も少しだけ笑った。

放課後。

三人は文化祭で何を作るか話すため実習室に残っていた。

正確には三人のはずだった。

「何してるの?」

声がして柚葉が振り返る。

入口に玲奈が立っていた。

「文化祭の相談」

「三人で?」

「うん」

玲奈は少し興味を持ったように近づいてくる。

机の上には何枚かの紙が広がっていた。

柚葉が描いた案。

遥斗がまとめた構成。

ミオが考えた色。

「へえ」

玲奈は紙を見る。

「面白そう」

柚葉が顔を上げる。

「玲奈もやる?」

遥斗とミオが同時に柚葉を見る。

玲奈も少し驚いた。

「いいの?」

「もちろん」

「柚葉さん」

遥斗が口を挟む。

「先生に三人でって言ったばっかりですよ」

「四人に変えればいいじゃん」

「そういう問題ですか」

「人数多い方ができること増えるし」

柚葉はミオを見る。

「いいよね?」

ミオは玲奈を見る。

玲奈もミオを見ていた。

何か引っかかる。

玲奈の視線には昼休みからずっと少しだけ違和感がある。

それでも。

柚葉が楽しそうにしている。

「……私は構いません」

「遥斗は?」

「俺も別に」

柚葉は満足そうに笑った。

「じゃあ決まり」

玲奈は少し迷ったあと椅子を引いた。

「じゃあ入れてもらおうかな」

四人目の椅子が机のそばへ並ぶ。

夏の間ずっと三人だった場所に初めて別の誰かが座った。

話し合いは思っていた以上に盛り上がった。

玲奈は発想が早く、柚葉が思いついたことをすぐに形へ変えていく。

遥斗は全体を整理し、ミオは色や構図を考える。

「ここもっと暗くした方がよくない?」

玲奈が言う。

ミオは少し考える。

「暗くするなら中心は明るくした方がいいです」

「確かに。その方が目が行く」

「じゃあこうする?」

柚葉が紙へ線を足す。

遥斗が全体を見る。

「これならまとまりそうですね」

四人の言葉が一枚の紙へ集まっていく。

柚葉は楽しそうだった。

遥斗も。

玲奈も。

そしてミオも。

最初は少しだけ警戒していた。

けれど作品について話している玲奈は思っていたよりずっと話しやすかった。

何より。

絵が好きなのだと分かる。

それはミオにとって少し眩しかった。

好きだと言える人。

描きたいと言える人。

自分には長い間できなかったことを玲奈は当たり前のようにやっている。

気づけば外は夕暮れになっていた。

窓から差し込む光が実習室を橙色に染めている。

机の上には四人で作った最初の案が置かれていた。

「今日はこのくらいかな」

遥斗が言う。

「結構進んだね」

柚葉が紙を見る。

玲奈も満足そうだった。

「思ってたより楽しかった」

「でしょ?」

「柚葉が一番何もしてなかったけど」

「してたよ!」

「何を?」

「盛り上げた」

「それ仕事?」

「大事な仕事」

遥斗が笑う。

ミオも小さく笑った。

その笑顔を玲奈が見る。

ほんの一瞬。

玲奈の表情から笑みが消えた。

やっぱり。

どこかで見たことがある。

ミオという名前。

この絵の描き方。

そして横顔。

記憶の奥に何かが引っかかっている。

けれど思い出せない。

帰る頃には空がすっかり暗くなっていた。

校門を出る。

いつもなら三人で歩く道を今日は四人で歩いている。

柚葉と玲奈が前。

少し後ろに遥斗とミオ。

柚葉の笑い声が聞こえる。

玲奈も楽しそうに話していた。

遥斗は二人を見ながら言う。

「もう仲良くなってますね」

「柚葉さんなので」

ミオが答える。

「確かに」

少し歩く。

ミオは前を歩く二人を見ていた。

夏の間ずっと。

柚葉の隣には自分か遥斗がいた。

今はそこに玲奈がいる。

嫌ではない。

玲奈のことも嫌いではない。

むしろ話してみれば面白い人だった。

それなのに。

少しだけ。

変な感じがした。

「どうしました?」

遥斗が聞く。

「何でもないです」

「そうですか」

遥斗はそれ以上聞かなかった。

ミオもまた前を見る。

柚葉が振り返った。

「二人遅いよ!」

遥斗が答える。

「柚葉さんたちが早いんですよ」

「早く!」

柚葉が手を振る。

ミオは小さく息を吐きながら歩く速度を上げた。

駅前で玲奈とは別の路線だった。

「じゃあまた明日」

玲奈が言う。

柚葉も手を振る。

「またね」

遥斗も軽く頭を下げる。

ミオも小さく手を上げた。

玲奈は改札へ向かいかけて一度だけ振り返った。

その視線の先にいたのはミオだった。

けれどミオは気づいていない。

玲奈は少しだけ眉を寄せる。

あと少し。

何かを思い出せそうな気がした。

三人になった帰り道。

柚葉が楽しそうに言った。

「玲奈いい子だったね」

「そうですね」

遥斗が答える。

ミオも頷いた。

「悪い人ではないと思います」

「何その言い方」

「まだ今日会ったばかりなので」

「でも四人で文化祭楽しみじゃない?」

柚葉は二人を見る。

遥斗が笑う。

「まあ楽しそうですね」

ミオも少しだけ笑った。

「そうですね」

夏の間。

三人だけだった景色に。

秋になって新しい色がひとつ加わった。

それがどんな色になるのか。

まだ誰にも分からなかった。

その夜。

玲奈は自分の部屋で机に向かっていた。

文化祭の案を考えながらスケッチブックへ線を引いていく。

けれど集中できない。

頭の中には何度も同じ顔が浮かんでいた。

ミオ。

「どこで見たんだろ……」

呟く。

スマートフォンを手に取る。

何となく昔の写真を遡る。

中学。

展覧会。

コンクール。

美術教室。

いくつもの写真を流していく。

そして。

指が止まった。

数年前の展覧会で撮った一枚。

そこには受賞作品が並んでいた。

玲奈は画面を拡大する。

一枚の絵。

その下に小さく作者名が書かれている。

玲奈の目が止まる。

「……まさか」

もう一度名前を見る。

そして今日のミオの顔を思い出した。

玲奈はしばらく画面を見つめていた。

秋は。

三人に新しい誰かを連れてきた。

その出会いが。

これから何を変えるのか。

まだ誰も知らなかった。

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黎明の星

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