まだ白紙の僕らへ

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/27 📚 シリーズ: まだ白紙の僕らへ 📝 5,153文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

二十八歳、大学中退。仕事も長続きせず、恋愛もうまくいかなかった。 「このままじゃダメだ」 そう思った松澤柚葉は、二年制のデザイン系専門学校への入学を決める。 周囲は十代ばかり。自分の年齢を気にしながら始まった学生生活で出会ったのは、今回が最後の挑戦だという二十五歳の榊原遥斗と、幼い頃から数々の賞を受賞してきた、圧倒的な絵の才能を持つ十九歳の飯村ミオだった。 優しい線を描く柚葉。 丁寧な線を重ねる遥斗。 そして、感情をそのままぶつけるような線を描くミオ。 年齢も、才能も、抱えているものも違う三人。 夢を追うには遅すぎるのか。 才能がなければ諦めるしかないのか。 才能があれば幸せになれるのか。 それぞれの不安を抱えながら、三人は少しずつ互いの人生に触れ、支え合い、自分だけの「描き方」を見つけていく。 まだ何者でもない。 未来だって決まっていない。 だからこそ、何度だって描き直せる。 これは、人生の途中で立ち止まった三人が、真っ白なキャンバスにもう一度未来を描き始める、二年間の青春群像劇。 『まだ白紙の僕らへ』 ――その白紙に何を描くのかを決めるのは、いつだって自分自身だ。

本文

第16話「冬、ほどけていく距離」

文化祭が終わってから数週間が過ぎた。

あれほど遅くまで明かりが残っていた実習室も今ではいつもの静けさを取り戻し、廊下に並んでいた展示物もすっかりなくなっていた。

季節は秋から冬へ向かっている。

朝の空気は冷たくなり、校庭の木々からはほとんど葉が落ちていた。制服の上にコートを羽織る生徒も増え、窓を開けたままにしていると誰かがすぐ閉めるようになった。

そんなある日の放課後。

柚葉は教室の窓から外を眺めていた。

「寒そう」

隣で鞄を整理していた遥斗が顔を上げる。

「外出る前から言わないでください」

「だって寒そうじゃん」

「冬なんだから寒いですよ」

少し離れた席ではミオがマフラーを巻いていた。

「柚葉さん去年も同じこと言ってそうですね」

「言ってないよ」

「絶対言ってます」

「なんで分かるの」

「想像できます」

柚葉が不満そうにミオを見る。

その様子を見て遥斗が笑った。

「玲奈は?」

柚葉が教室を見回す。

「さっき先生に呼ばれてましたよ」

遥斗が答える。

「じゃあ待つ?」

「私はどちらでも」

ミオはそう言いながら鞄を肩へ掛けた。

柚葉は迷うことなく椅子へ座り直す。

「待とう」

もう誰も反対しなかった。

いつの間にか四人で帰ることが当たり前になっていた。

しばらくして玲奈が教室へ戻ってきた。

「ごめん。待ってた?」

「今来たとこ」

柚葉が答える。

遥斗がすぐに言う。

「十分くらい待ってます」

「遥斗」

「何ですか」

玲奈が笑った。

「柚葉ってこういう嘘つくんだ」

「優しさだよ」

「聞かれたら普通に答えればいいじゃないですか」

ミオまで加わる。

「三対一やめて」

四人で笑いながら教室を出た。

外へ出ると予想していた以上に寒かった。

校門を出た瞬間に柚葉が首を縮める。

「寒っ」

「だから言ったじゃないですか」

遥斗が笑う。

「想像より寒い」

「それは知らないですよ」

玲奈は手をコートのポケットへ入れながら空を見上げた。

「雪降りそう」

柚葉も見る。

雲が低い。

「降るかな」

「まだ早いんじゃない?」

「でも降ったら楽しそう」

「子供ですね」

ミオが言う。

「ミオ雪嫌い?」

「嫌いではないです」

「じゃあ好き?」

「見るだけなら」

「出た」

「何ですか」

「ミオの『見るだけなら』」

玲奈が笑った。

「海もそんな感じだったよね」

「海は砂がつくので」

「雪も濡れるよ」

「だから見るだけです」

四人の笑い声が冬の道へ広がった。

文化祭が終わっても四人の関係は変わらなかった。

少なくとも表面上は。

文化祭のあと玲奈と遥斗は一度だけ二人で出かけた。

約束していたから。

それだけのはずだった。

二人で映画を見て、そのあと近くの店で食事をした。

玲奈にとっては楽しい時間だった。

遥斗も楽しそうにしていた。

けれど何度話しても玲奈には分かってしまう。

遥斗の中にはすでに誰かがいる。

その場所へ自分が入る隙間はまだない。

それでも諦めようとは思えなかった。

駅へ向かう途中、柚葉が突然立ち止まった。

「ねえ」

三人が振り返る。

「何ですか」

「もうすぐクリスマスじゃん」

遥斗が少し考える。

「まだ一か月くらいありますよ」

「すぐだよ」

「柚葉の時間感覚どうなってるの」

玲奈が笑う。

柚葉は気にせず続けた。

「四人で何かしようよ」

その言葉に玲奈が少しだけ顔を上げる。

「クリスマス?」

「うん」

「いいね」

遥斗も頷く。

「俺は大丈夫です」

柚葉は最後にミオを見る。

「ミオは?」

「また私が最後なんですね」

「だって一番断りそうだから」

「失礼ですね」

「で?」

ミオは少しだけ笑った。

「行きます」

「決まり」

柚葉は嬉しそうだった。

玲奈も笑う。

遥斗も。

その瞬間だけは本当にただの四人だった。

駅へ着くと玲奈は別のホームへ向かった。

「また明日」

「またね」

柚葉が手を振る。

玲奈も振り返して歩いていく。

その途中で一度だけ遥斗を見た。

遥斗は柚葉と何か話していた。

玲奈はすぐに前を向いた。

電車へ乗るとミオと柚葉は並んで座った。

遥斗は向かい側。

柚葉はスマートフォンを取り出してクリスマスについて調べ始める。

「どこ行こうかな」

「もう調べるんですか」

遥斗が言う。

「早い方がいいじゃん」

「珍しいですね」

「どういう意味?」

「課題もそれくらい早くやればいいのにと思って」

「関係ないでしょ」

ミオが小さく笑った。

柚葉は画面を見ながら次々に候補を出していく。

イルミネーション。

クリスマスマーケット。

映画。

食事。

どれも楽しそうだった。

「ミオどれがいい?」

「人が少ないところ」

「クリスマスに無理じゃない?」

「じゃあ家でいいです」

「極端」

遥斗が笑う。

「柚葉さんの家でやればいいんじゃないですか」

「それいいじゃん」

柚葉の顔が明るくなる。

「また泊まる?」

ミオがすぐに答える。

「帰ります」

「まだ何も決まってないのに」

三人で笑った。

数日後。

昼休みの教室で四人はクリスマスの予定を決めていた。

結局、昼間は街へ出て夜は柚葉の家で過ごすことになった。

「プレゼント交換しようよ」

柚葉が言う。

玲奈もすぐに乗る。

「いいね」

遥斗は少し困った顔をした。

「何買えばいいんですか」

「それを考えるんでしょ」

「予算は?」

ミオが聞く。

「三千円くらい?」

「高くない?」

玲奈が言う。

「じゃあ二千円」

「急に下がった」

「細かいことはいいの」

「一番大事じゃないですか」

四人で話しているうちに昼休みが終わりそうになった。

そのとき玲奈がふと遥斗を見る。

「遥斗」

「はい?」

「放課後少し付き合って」

柚葉が反応する。

「またデート?」

「柚葉」

玲奈が睨む。

「冗談じゃん」

遥斗は少し困ったように笑った。

「どこですか」

「プレゼント見たい」

「いいですよ」

「ほんと?」

「はい」

玲奈は少し嬉しそうに笑った。

柚葉も楽しそうに二人を見ている。

ミオだけがその三人を静かに見ていた。

放課後。

柚葉とミオは二人で駅へ向かった。

玲奈と遥斗は買い物へ行った。

冬の夕方は暗くなるのが早く、まだ五時にもなっていないのに街灯がつき始めていた。

柚葉が白い息を吐く。

「玲奈頑張ってるね」

ミオが横を見る。

「何がですか」

「遥斗」

「そうですね」

「うまくいけばいいのに」

ミオは少しだけ黙った。

何度聞いても同じだった。

柚葉には本当に何もない。

遥斗が誰かと付き合っても構わない。

むしろ玲奈を応援している。

「柚葉さん」

「ん?」

「もし玲奈さんと小宮さんが付き合ったらどうしますか」

「どうするって?」

「今までみたいに四人でいられると思いますか」

柚葉は少し考えた。

「いられるでしょ」

「本当に?」

「だって二人が付き合っても友達なのは変わらないじゃん」

迷いのない声だった。

ミオは前を見る。

「……柚葉さんらしいですね」

「何それ」

「そのままです」

柚葉は少し笑った。

「ミオは嫌?」

「分かりません」

「正直」

「でも」

ミオは少しだけ空を見上げた。

「前ほど怖くはないです」

「何が?」

「変わることが」

柚葉は黙って聞いていた。

「四人になったとき最初は少し嫌でした」

「え」

「玲奈さんが嫌だったわけではないです」

「分かってる」

「三人だったものが変わるのが嫌だっただけです」

ミオは白い息を吐いた。

「でも今は四人も悪くないと思ってます」

柚葉は少しだけ笑った。

「そっか」

「はい」

「じゃあ五人になっても大丈夫?」

「誰が増えるんですか」

「例えば」

「嫌です」

「即答じゃん」

二人で笑った。

その頃。

玲奈と遥斗は駅前の雑貨店にいた。

「これどう思う?」

玲奈が小さなマグカップを手に取る。

「いいんじゃないですか」

「誰に当たるか分かんないんだよ?」

「なら誰でも使えるものがいいんじゃないですか」

「遥斗ってこういうの現実的だよね」

「悪いですか」

「悪くない」

玲奈は笑って棚へ戻した。

二人で店内を歩く。

以前二人で出かけたときより自然に話せるようになっていた。

玲奈はそれが嬉しかった。

少しずつでいい。

遥斗の中に自分の場所を作れればいい。

そう思っていた。

「遥斗」

「はい」

「柚葉のどこが好きなの?」

突然聞かれて遥斗の足が止まる。

「急ですね」

「前から気になってた」

遥斗は少し困ったように笑った。

「分かりません」

「分かんないの?」

「気づいたらって感じなので」

玲奈は棚に並んだ商品を見ながら聞く。

「いつから?」

「夏くらいだと思います」

「夏祭り?」

遥斗が少し驚いた。

「何で分かるんですか」

「なんとなく」

玲奈は笑った。

本当はミオからではなく、遥斗の視線を見て分かった。

「告白しないの?」

「今は」

「怖い?」

遥斗は少し考えた。

「怖いですね」

その答えは意外だった。

「遥斗でも怖いんだ」

「俺を何だと思ってるんですか」

「何でも平気そう」

「全然ですよ」

遥斗は少し笑った。

「柚葉さんに断られることより三人の関係が変わる方が怖いです」

玲奈の胸が少し痛んだ。

三人。

自分ではない。

分かっていたことなのに、その言葉を聞くと少しだけ遠く感じる。

「今は四人だけどね」

玲奈が笑って言った。

遥斗が少しだけ目を見開く。

「あ」

「忘れてた?」

「そういう意味じゃ」

「分かってる」

玲奈は笑った。

でも。

少しだけ。

本当に少しだけ。

寂しかった。

店を出る頃には外はすっかり暗くなっていた。

駅前にはイルミネーションが灯っている。

玲奈は足を止めた。

「綺麗」

遥斗も見る。

「もうクリスマスですね」

「まだ一か月あるって言ってなかった?」

「柚葉さんに影響されました」

玲奈が笑った。

その横顔を見ながら遥斗も少し笑う。

「遥斗」

「はい?」

「私さ」

玲奈はイルミネーションを見たまま言った。

「結構しつこいよ」

遥斗は意味が分からず玲奈を見る。

玲奈は笑っていた。

「何の話ですか」

「別に」

「最近みんなそれ使いますね」

「便利だから」

ミオと同じ答え。

二人で笑った。

玲奈はそれ以上何も言わなかった。

まだ伝えない。

今言えば遥斗を困らせるだけだと分かっている。

それでも諦めるつもりもなかった。

クリスマスの日。

四人は昼過ぎに駅前で待ち合わせた。

柚葉が一番最後だった。

「ごめん!」

走ってくる。

遥斗が呆れたように笑う。

「また走ってる」

「間に合ったでしょ」

「三分遅刻です」

「誤差」

ミオが小さく息を吐く。

「柚葉さんらしいですね」

玲奈も笑った。

「行こ」

四人は街へ歩き出した。

昼間は買い物をして映画を見た。

夕方になると街のイルミネーションが一斉に灯った。

大通りの木々が光に包まれ、広場には大きなクリスマスツリーが立っている。

「すご」

柚葉が見上げる。

遥斗もその横で足を止めた。

玲奈は少し離れた場所から二人を見る。

そしてミオも。

夏祭りと同じだった。

光を見る柚葉。

その柚葉を見る遥斗。

でも。

今は一つだけ違う。

玲奈も遥斗を見ている。

ミオはその三人を見ながら小さく息を吐いた。

「ミオ?」

柚葉が振り返る。

「早く」

手を伸ばしてくる。

ミオは少しだけその手を見る。

そして掴んだ。

「子供じゃないんですから」

「はぐれるでしょ」

「そんなに人いません」

「いいから」

柚葉はそのままミオを引っ張る。

玲奈も遥斗も後ろからついてくる。

四人で光の中を歩いた。

夜は柚葉の家へ向かった。

テーブルには買ってきた料理やケーキが並び、四人で乾杯した。

「メリークリスマス」

柚葉が言う。

「メリークリスマス」

玲奈が続く。

遥斗とミオもグラスを合わせた。

くだらない話をして。

映画の感想を言い合って。

ケーキを食べて。

柚葉がクリームを落としてミオに呆れられて。

玲奈が笑って。

遥斗がティッシュを渡した。

何でもない時間だった。

それでも。

四人にとっては大切な時間になっていた。

最後にプレゼント交換をした。

音楽を流しながら適当に回して止まったところで受け取る。

柚葉にはミオのプレゼント。

遥斗には柚葉。

ミオには玲奈。

そして。

玲奈には遥斗のプレゼントが渡った。

「え」

玲奈が少し驚く。

「偶然ですね」

遥斗が笑う。

玲奈は包みを開けた。

中に入っていたのは小さなスケッチブックだった。

表紙には何も描かれていない。

「これ」

「玲奈さん人物よく描いてるので」

遥斗は何でもないことのように言った。

「使うかなと思って」

玲奈はしばらくスケッチブックを見ていた。

「……使う」

声が少し小さくなった。

「絶対使う」

「ならよかったです」

柚葉はその二人を見ながら嬉しそうに笑っていた。

ミオも静かに見ていた。

その夜。

玲奈が家へ帰ったあと自分の部屋でプレゼントを開き直した。

遥斗からもらったスケッチブック。

一ページ目を開く。

真っ白だった。

玲奈は鉛筆を持つ。

何を描こうか少し迷った。

そして。

最初に描いたのは。

遥斗ではなかった。

四人だった。

柚葉。

ミオ。

遥斗。

自分。

描き終えたあと玲奈は少しだけ笑った。

遥斗が好きだ。

その気持ちはもう否定できない。

でも。

それと同じくらい。

この四人でいる時間も好きになっていた。

だからこそ。

少し怖かった。

恋を選べば。

この居場所を壊すかもしれない。

居場所を選べば。

自分の気持ちを諦めることになるかもしれない。

玲奈は描いた四人を見つめた。

窓の外では。

今年最初の雪が。

静かに降り始めていた。

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黎明の星

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