まだ白紙の僕らへ

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/27 📚 シリーズ: まだ白紙の僕らへ 📝 4,541文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

二十八歳、大学中退。仕事も長続きせず、恋愛もうまくいかなかった。 「このままじゃダメだ」 そう思った松澤柚葉は、二年制のデザイン系専門学校への入学を決める。 周囲は十代ばかり。自分の年齢を気にしながら始まった学生生活で出会ったのは、今回が最後の挑戦だという二十五歳の榊原遥斗と、幼い頃から数々の賞を受賞してきた、圧倒的な絵の才能を持つ十九歳の飯村ミオだった。 優しい線を描く柚葉。 丁寧な線を重ねる遥斗。 そして、感情をそのままぶつけるような線を描くミオ。 年齢も、才能も、抱えているものも違う三人。 夢を追うには遅すぎるのか。 才能がなければ諦めるしかないのか。 才能があれば幸せになれるのか。 それぞれの不安を抱えながら、三人は少しずつ互いの人生に触れ、支え合い、自分だけの「描き方」を見つけていく。 まだ何者でもない。 未来だって決まっていない。 だからこそ、何度だって描き直せる。 これは、人生の途中で立ち止まった三人が、真っ白なキャンバスにもう一度未来を描き始める、二年間の青春群像劇。 『まだ白紙の僕らへ』 ――その白紙に何を描くのかを決めるのは、いつだって自分自身だ。

本文

第19話「届かなかった言葉」

二月に入ると街の空気は少しずつ変わり始めた。

駅前の店には赤や桃色の飾りが並び、どこへ行ってもバレンタインという言葉を目にするようになった。

学校でもその話題は増えていた。

誰に渡すのか。

手作りにするのか。

本命なのか義理なのか。

そんな会話が教室のあちこちから聞こえてくる。

玲奈は窓際の席でその声を聞きながら頬杖をついていた。

あと一週間。

遥斗に気持ちを伝える。

そう決めてから何度も同じことを考えている。

断られたらどうしよう。

気まずくなったらどうしよう。

四人でいられなくなったら。

考え始めれば怖いことはいくらでも出てきた。

それでも。

言わないという選択だけはもうしたくなかった。

「玲奈」

突然呼ばれて顔を上げる。

柚葉が目の前に立っていた。

「何?」

「今日うち来る?」

「急だね」

「チョコ作るんでしょ」

玲奈は少しだけ目を逸らした。

「まあ」

「一人より二人の方がいいじゃん」

「柚葉料理できるの?」

「できるよ」

少し離れた場所からミオの声がした。

「信用しない方がいいと思います」

「ミオ」

「夏に見ました」

「何を」

「色々です」

玲奈が笑う。

「じゃあミオも来て」

「何でですか」

「監督」

「嫌です」

「お願い」

玲奈が両手を合わせる。

ミオは少しだけ困った顔をした。

それから小さく息を吐く。

「……分かりました」

柚葉が笑う。

「結局来るじゃん」

「玲奈さんに頼まれたので」

「私との差すごくない?」

「日頃の行いです」

玲奈は二人を見ながら笑った。

こんな時間が好きだった。

だからこそ。

少し怖かった。

放課後。

三人は材料を買って柚葉の家へ向かった。

キッチンのテーブルに袋を広げると玲奈はスマートフォンで何度もレシピを確認する。

「そんな難しいの作るの?」

柚葉が覗き込む。

「別に難しくない」

「じゃあ何でそんな真剣なの」

「失敗したくないから」

ミオが隣から材料を見る。

「前は失敗してもいいって言ってませんでした?」

玲奈が止まる。

「覚えてたんだ」

「言った本人が忘れたんですか」

「忘れてないけど」

玲奈は少し笑った。

「やっぱり好きな人に渡すってなると失敗したくないじゃん」

柚葉は何となく嬉しそうだった。

「青春だね」

「何その言い方」

「いいじゃん」

「柚葉は作らないの?」

玲奈が聞く。

「作るよ」

玲奈の手が止まった。

ミオも柚葉を見る。

「誰に?」

「遥斗とミオと玲奈」

玲奈は少しだけ力を抜いた。

「友チョコ?」

「うん。いつも一緒にいるし」

ミオは黙って柚葉を見ていた。

自分にも。

遥斗にも。

玲奈にも。

同じ。

そのことに安心したような。

少しだけ残念なような。

自分でもよく分からなかった。

三人で作り始めると案の定、最初に失敗したのは柚葉だった。

「あ」

嫌な音がした。

玲奈とミオが同時に振り返る。

ボウルの横に粉が散らばっている。

「何してるの」

「ちょっとこぼした」

「ちょっと?」

ミオが床を見る。

「半分くらいありません?」

「盛った」

「盛ってません」

玲奈が笑いながらしゃがむ。

「だからミオ呼んで正解だった」

「私掃除係じゃないです」

そう言いながらミオも手伝う。

三人で笑った。

玲奈が緊張していたことも。

ミオが自分の気持ちに戸惑っていたことも。

その時間だけは忘れていた。

夜になる頃にはチョコが完成した。

玲奈のものは小さな箱に綺麗に並べられている。

柚葉が覗き込む。

「いいじゃん」

「ほんと?」

「絶対喜ぶよ」

玲奈は少しだけ笑った。

「喜んでくれるだけならね」

その言葉に柚葉の笑顔が少し止まる。

玲奈が欲しいのは感想ではない。

答えだ。

柚葉にもようやくそれが少しだけ分かった。

「大丈夫」

柚葉は言った。

「何が?」

「玲奈ならちゃんと言えるよ」

玲奈は柚葉を見る。

「振られるかもしれないよ」

「そのときは」

柚葉は少し考える。

「一緒に泣く」

玲奈が吹き出した。

「なんで柚葉が泣くの」

「分かんないけど」

「そこは慰めるとかでしょ」

「じゃあ慰める」

「適当」

玲奈は笑った。

でも。

その笑顔の奥が少しだけ痛んだ。

柚葉は知らない。

自分がこれから想いを伝える相手が。

柚葉を好きだということを。

二月十四日。

朝から教室はいつもより騒がしかった。

机の中を気にする生徒。

友達同士で袋を渡し合う生徒。

廊下へ誰かを呼び出す生徒。

柚葉は学校へ来るなり小さな袋を三つ取り出した。

「はい」

最初にミオ。

「ありがとうございます」

「ちゃんと食べてね」

「毒入ってませんよね」

「入ってないよ」

次に玲奈。

「はい」

「ありがとう」

玲奈は笑って受け取る。

そして。

最後に遥斗。

「遥斗も」

遥斗の動きが一瞬だけ止まった。

「俺にも?」

「もちろん」

柚葉は何でもない顔で渡した。

遥斗は袋を見る。

「ありがとうございます」

「味は保証しないけど」

「急に怖いですね」

「ミオには毒入ってないって言いましたよね」

ミオが横から言う。

「毒は入ってないよ。味の話」

四人で笑った。

玲奈も笑っていた。

でも。

遥斗が柚葉から受け取った袋を大切そうに鞄へしまう姿を。

玲奈は見ていた。

昼休み。

玲奈は何度も鞄の中を確認していた。

箱は入っている。

昨日三人で作ったチョコ。

渡すだけ。

そして言うだけ。

好き。

たった二文字なのに。

どうしてこんなに難しいのだろう。

「玲奈」

ミオが隣へ来た。

「何?」

「今日言うんですよね」

玲奈は少し驚いた。

「うん」

「頑張ってください」

玲奈が目を丸くする。

「ミオがそういうこと言うんだ」

「何ですか」

「もっと止めるかと思った」

「どうしてですか」

「四人が変わるの嫌って言ってたから」

ミオは少しだけ黙った。

「嫌です」

玲奈も黙る。

「でも玲奈さんが言わないまま後悔するのも嫌なので」

ミオは玲奈を見る。

「それに」

少しだけ笑った。

「変わっても四人でいればいいって柚葉さんが言ってたので」

玲奈はその言葉を聞いて小さく笑った。

「柚葉らしい」

「はい」

「ありがと」

玲奈は鞄を閉じた。

放課後。

玲奈は遥斗へ声をかけた。

「遥斗」

「はい?」

「少し時間ある?」

遥斗は玲奈の表情を見た。

いつもと少し違う。

「ありますよ」

「じゃあ来て」

玲奈は教室を出た。

遥斗も後を追う。

柚葉はその背中を見ながら嬉しそうにミオを見る。

「行ったね」

「そうですね」

「うまくいくかな」

ミオは答えなかった。

「ミオ?」

「分かりません」

「応援しようよ」

「してます」

でも。

結果を知っているような気がした。

遥斗の気持ちはまだ柚葉にある。

それが変わっていないことを。

ミオは知っている。

玲奈が遥斗を連れてきたのは校舎の裏だった。

冬の夕方。

人の気配はほとんどない。

冷たい風が二人の間を通り抜ける。

玲奈は立ち止まった。

遥斗も少し離れた場所で止まる。

「どうしました?」

いつもと同じ声。

玲奈は鞄を開けた。

小さな箱を取り出す。

手が震えている。

こんなに緊張するとは思わなかった。

「これ」

遥斗を見る。

「バレンタイン」

差し出す。

遥斗は少し驚きながら受け取った。

「ありがとうございます」

「手作り」

「そうなんですか」

「昨日作った」

「嬉しいです」

遥斗が笑う。

その笑顔を見た瞬間。

言わなくてもいいんじゃないかと思った。

これだけで。

渡せただけで。

今まで通りで。

でも。

玲奈は思い出す。

言わないまま終わる方が嫌だ。

自分で言った言葉。

「遥斗」

「はい」

玲奈は一度だけ目を閉じた。

そして。

「好き」

言った。

声は思っていたより震えなかった。

遥斗の表情が止まる。

玲奈は続ける。

「友達としてじゃなくて」

逃げなかった。

「遥斗が好き」

静かな冬の空気の中。

その言葉だけが残った。

遥斗は何も言わなかった。

数秒。

それだけのはずなのに。

玲奈には長く感じた。

やがて遥斗が小さく息を吐く。

「玲奈さん」

その声で。

玲奈には分かってしまった。

答えを聞く前に。

「ごめんなさい」

遥斗は頭を下げた。

玲奈は笑おうとした。

「うん」

思ったより声が出なかった。

「好きな人がいるので」

知っている。

そんなこと。

ずっと前から知っていた。

「柚葉でしょ」

遥斗が顔を上げる。

玲奈は少しだけ笑った。

「知ってる」

「……いつから」

「結構前」

玲奈は空を見る。

泣かない。

そう決めていた。

「だから断られるのも分かってた」

「玲奈さん」

「でも言いたかった」

遥斗は何も言えなかった。

「言わないまま友達でいるのは嫌だったから」

玲奈は遥斗を見る。

「だから謝らないで」

少しだけ笑う。

「私が勝手に好きになっただけだから」

「それでも」

「いいの」

玲奈は首を横に振った。

「聞いてくれてありがとう」

遥斗は手の中にある箱を見る。

「これ」

「食べて」

玲奈が言う。

「捨てたら怒るから」

遥斗は少しだけ笑った。

「食べます」

「絶対?」

「絶対」

「ならいい」

玲奈も笑った。

それで終わるはずだった。

でも。

「遥斗」

玲奈がもう一度呼ぶ。

「はい」

「柚葉に言わないの?」

遥斗は少しだけ黙った。

「今は」

「またそれ?」

玲奈は少しだけ笑う。

「ずるいね」

遥斗が目を伏せる。

「分かってます」

「私は言ったよ」

その言葉に遥斗は何も返せなかった。

「怖かったけど言った」

玲奈は遥斗を見る。

「だから遥斗もいつか言いなよ」

「……はい」

「じゃないと」

少しだけ声が震えた。

「私が振られた意味なくなるじゃん」

冗談のように言った。

でも最後だけ。

少しだけ笑えなかった。

玲奈は遥斗より先にその場を離れた。

校舎へ戻る途中。

誰もいない廊下を歩く。

一歩。

また一歩。

泣かない。

そう決めていた。

ちゃんと言えた。

逃げなかった。

後悔していない。

だから。

大丈夫。

階段を上がる。

教室まであと少し。

そのとき。

「玲奈」

声がした。

顔を上げる。

廊下の向こうに柚葉がいた。

一人だった。

きっと待っていたのだろう。

柚葉は玲奈の顔を見る。

そして。

何も聞かなかった。

ただ近づいてきた。

「柚葉」

玲奈は笑おうとした。

「振られた」

言えた。

ちゃんと言えた。

「そっか」

柚葉はそれだけ答えた。

その瞬間。

玲奈の目から涙が落ちた。

「あれ」

玲奈は自分の頬へ触れる。

「泣かないつもりだったのに」

柚葉は何も言わなかった。

「分かってたんだよ」

玲奈は笑いながら泣いた。

「遥斗が私を好きじゃないこと」

涙を拭く。

「最初から知ってた」

「うん」

「それでも好きだった」

「うん」

「馬鹿だよね」

「馬鹿じゃないよ」

柚葉はすぐに答えた。

そして玲奈を抱きしめた。

玲奈の体が止まる。

「ちゃんと言えたんでしょ」

柚葉の声が近くで聞こえる。

「それってすごいよ」

玲奈は何も言えなくなった。

「私だったら多分できない」

その言葉を聞いて。

玲奈は柚葉の制服を掴んだ。

涙が止まらなかった。

遥斗が好きだった。

今も好きだ。

そして。

遥斗が好きな人に。

今こうして抱きしめられている。

苦しい。

悔しい。

それでも。

柚葉を嫌いにはなれなかった。

「柚葉」

「ん?」

「ずるい」

「何が?」

「そういうとこ」

柚葉には意味が分からなかった。

それでも。

玲奈が泣き止むまで離れなかった。

少し離れた階段の影で。

ミオは二人を見ていた。

声をかけるつもりだった。

でもできなかった。

玲奈を抱きしめる柚葉。

柚葉の肩で泣く玲奈。

その光景を見て。

胸の奥が少しだけ痛んだ。

玲奈が振られたからではない。

柚葉が玲奈を抱きしめているから。

そう気づいた瞬間。

ミオは自分の感情が怖くなった。

静かにその場を離れる。

誰にも見つからないように。

廊下を歩きながら。

胸へ手を当てる。

どうして。

どうしてこんなに。

嫌だったのだろう。

答えは。

もう。

すぐそこまで来ていた。

けれどミオはまだ。

その名前を呼ぶことができなかった。

ジャンル・タグ

タグなし

作品統計

👁️ 閲覧数: 2 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

黎明の星

初めてですがよろしくお願いします。

👥 フォロワー: 1人

作者ページを見る