第12話:境界域第4潜伏港
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AIに小説を書かせたら、最初の読者である私すら行き先を知らない飛行艇の旅が始まった。 一面の青い空と、雲海の向こうに広がる世界。 蒸気機関と飛行技術が発達したこの世界で、小型飛行艇の操縦士として空を飛ぶ青年ユーリは、いつものように仕事をこなしていた。 特別な力も、世界を変える使命もない。 ただ空を飛び、依頼された仕事を終えて帰る――そのはずだった。 だが、ある日の飛行中に起きた出来事を境に、ユーリの日常は大きく変わっていく。 雲海の奥で出会った少女。 父親の残した潜行貨物船。 空と雲の向こうに潜む未知の存在。 そして、壊れた飛行艇で向かう先は、まだ誰にも分からない。 これは、特別な英雄ではない一人の操縦士が、仲間たちとともに空を旅する物語。 どこへ向かうのか。 何が待っているのか。 最初の読者である私自身も、まだ知らない。 そして、この物語が何話まで続くのかも、私には分かりません。 ※本作は、人間がプロットの方向性や世界観を『ふんわり』設定し、本文はAIが執筆する形で制作しています。
本文
ガコン、と重い金属音が響き、アルゴー号の巨躯がドックの木製防舷材を押し潰すようにして停止した。
「ユーリ……? ユーリ!」
肩にズシリと重い圧力がかかった。セシリアは必死に脚を踏ん張り、意識を失ったユーリの体を抱きとめる。足元には、彼の手から落ちた古びたスパナが、静かに床へ転がっていた。
「死んじゃいねぇ! ただの限界だ、運ぶぞ!」
慌ただしく階段を駆け上がってきたバートンが、ユーリの首筋に太い指を当てて一息つくと、手際よくその巨体を引き取った。
「おい、そこの! 担架を持ってこい! それと冷水だ!」
バートンの怒号に押されるようにして、煤と油にまみれた作業員たちが操舵室へ雪崩れ込んできた。彼らはユーリを担架へ乗せ替えると、慌ただしく階下へと運んでいく。
セシリアは、誰もいなくなった操舵室でポツンと一人立ち尽くしていた。両手には、ユーリの体温と、彼の肩から滲み出た血の赤がべったりと残されている。手の震えが、今になって止まらなくなった。
「……ハッ、よくまあこんなボロで深雲を突っ切ってきたもんだぜ」
ドックの作業員の一人が、船体側面の大穴を覗き込みながら呆れたように口笛を吹いた。
「右舷の装甲板は消し飛び、第二スクリューは軸ごと曲がってやがる……。普通なら雲海の底で藻屑になってるレベルだぞ」
「見ろよ、この操舵系統……無茶苦茶な力で舵を切り続けた跡がある。正気の沙汰じゃねぇな」
口々に漏らされる感嘆と驚き。セシリアは震える手を強く握りしめると、深呼吸をひとつして、ゆっくりと船外へ続くタラップを降りて行った。
アルゴー号が引き込まれたのは、岩山の亀裂を無理やり切り開いたような、不格好な巨大ドックだった。天井からは無数の蒸気パイプが走り、あちこちで火花と白煙が上がっている。正規の港のような壮麗さはないが、生きるために鉄を叩く荒々しい活気に満ちていた。
◇
ユーリが目覚めたのは、三日後の夕刻だった。
固いベッドの上でゆっくりと瞼を開けると、視界に飛び込んできたのは、無骨な岩肌の天井と、古びたランプのほの暗い光だった。
「……う、ぐ……」
体を起こそうとした瞬間、右半身に激痛が走り、ユーリは思わず顔を顰めた。
「動いちゃダメよ。肩の傷、縫い直したばかりなんだから」
部屋の隅で小さなランプの光を浴びながら帳簿をめくっていたセシリアが、椅子を引いて立ち上がった。その顔には明らかな疲労が滲んでいたが、ユーリが目を覚ましたのを見ると、心底安堵したように胸を撫で下ろした。
「……ここ、は……」
「境界域第4潜伏港の医務室よ。バートンさんがあなたをここまで担ぎ込んだの。三日間、死んだように眠っていたわ」
「……三日、か……」
ユーリはかすれた声で呟き、自分の右手を見つめた。包帯が厳重に巻かれている。アドレナリンが切れ、アウラを限界まで痛めつけ、それでもアルゴー号をここまで運んだ代償はあまりにも重かった。
「……アウラは……どうなった」
喉の奥から絞り出すように尋ねたユーリに、セシリアは少しだけ目線を落とし、静かに語りかけた。
「……ボイラーと左エンジンは、脱出の時に雲海の底へ落ちていったわ。でも……甲板に引っかかっていた右翼と、メインフレームの一部だけは、バートンさんたちが回収してドックの資材置き場に保管してあるわ」
「……そうか。骨組みだけでも……残ってくれたか」
ユーリは力なく笑い、天井を仰いだ。
ボイラーを失い、もう二度と空を飛ぶことはできない無残な姿。それでも、長年風をともに切ってきた相棒は、最後の最後に自分たちの命をアルゴー号の甲板へと繋ぎ止めてくれていたのだ。
「……言ったはずよ」
セシリアが静かに、しかし力強い声で言った。
「アウラは……私が絶対に弁償するわ。私があなたをこの無茶な旅に巻き込んだんだから。お金ならいくらでも出す」
「……お嬢様」
ユーリは苦笑混じりにセシリアを見た。
「言ったろ。金がありゃ良い艇が買えるわけじゃねぇ。俺の身体に馴染む『飛べる機体』じゃなきゃ意味がねぇんだ」
「わかっているわ」
セシリアは毅然とした態度で頷いた。
「だから……単に既製品の中古を買うつもりはないわ。アルゴー号の修理が終わったら、格納庫を整理するつもりよ。……父が昔集めていた旧時代の機体パーツや、試作段階のエンジンが山ほど眠っているの。……もしかしたら、アウラの残ったフレームと組み合わせて、あなたの気に入る『何か』ができるかもしれない」
「……父親の遺品、か」
ユーリが呟くと、セシリアはフッと微笑んだ。
「ええ。……それに、この潜伏港の仕切り役のハインツさんという人も、昔父と知り合いだったみたい。事情を話したら、私たちがここにいる間、安全を保証してくれるって言ってくれたわ」
◇
「……父が昔、どんな人間だったのか……私にはまだ分からないことばかりだけど」
医務室の窓から差し込む夕闇を見つめながら、セシリアはぽつりと呟いた。
「この船も、この港の縁も、全部父が残してくれたもの。……だから私は、立ち止まらずに進みたいの」
セシリアの言葉には、第2話で出会った頃の「追われるだけのお嬢様」の面影はなかった。亡き父の残した縁に守られながらも、自らの足で立ち上がろうとする強さが宿っていた。
ユーリはしばらく黙ってセシリアの顔を見つめていたが、やがてフッと小さく息を吐いた。
「……まあ、焦っても仕ねぇな。翼を取り戻すまでは、俺も大人しくしてるさ」
「……ええ、ゆっくり休んで。バートンさんが怒鳴り込んでくるわよ、『手伝いもしないで寝てろ』ってね」
セシリアが少しだけ口元を緩めると、ユーリも笑った。
◇
それからさらに数日が過ぎた。
ユーリの傷もようやく癒えはじめ、自力で歩けるようになった頃、彼は久々にアルゴー号のドックへと足を運んだ。
ドック内には、甲高い金属音と溶接の火花が飛び交っていた。その片隅、防水シートがかけられた一角に、歪んだ右翼と煤けたメインフレームが静かに鎮座している。ユーリはそこに近寄り、荒々しく焦げついた金属の肌にそっと触れた。
(……ありがとな、アウラ。よく持ちこたえてくれた)
胸の中で静かに相棒へ感謝を告げていると、後ろから怒号が飛んできた。
「おい! そこ、圧力をかけすぎるな! バルブが吹っ飛ぶぞ!」
上着を脱ぎ捨て、汗と脂にまみれて作業員を仕切っているのはバートンだった。ユーリが足音を立てて振り向くと、バートンはチラリと視線を向け、鼻を鳴らした。
「ハン、やっと起き出してきたかクソガキが。死んだかと思ったぞ」
「悪ぃな、バートンさん。しぶとく生きてて」
ユーリは修理中のアルゴー号を見上げた。右舷の痛々しい破断面には、新しく切り出された不揃いな鉄板が溶接され始めていた。
「……どれくらいかかりそうだ?」
「当面、飛ばすだけなら一週間ってところだ。だが……深雲の圧力を受けてフレーム自体が歪んでやがる。元の出力の半分も出せねぇよ」
バートンは煙草に火をつけ、紫煙を吐き出した。
「まあ、急ぐ旅でもねぇだろ。ここなら身を隠すにはちょうどいい」
「……そうだな」
ユーリはアルゴー号の傷跡と、シートの下の残骸を交互に見つめた。
アウラは翼を折られ、アルゴー号も満身創痍だ。自分たちの旅は、ここで一度立ち止まることを余儀なくされた。
だが、敗北感はなかった。
「ユーリ!」
甲板の上から、セシリアが手を振っていた。作業用のエプロンを身につけ、彼女なりに物資の整理を手伝っているらしい。頬にうっすらと黒い煤がついている。
「下でハインツさんが、今日の夕食に珍しい肉を出してくれるそうよ!早く上がってきなさい!」
「……へいへい、すぐ行くよ」
ユーリは苦笑しながら答えた。
雲海を渡り、命がけで辿り着いた境界域第4潜伏港。
冷たい金属と蒸気の匂いに包まれたこの荒々しい港街で、彼らの新しい日常と、次なる飛翔への準備が、静かに始まろうとしていた。
第12話はここまで!