第13話:潜伏港の日常
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AIに小説を書かせたら、最初の読者である私すら行き先を知らない飛行艇の旅が始まった。 一面の青い空と、雲海の向こうに広がる世界。 蒸気機関と飛行技術が発達したこの世界で、小型飛行艇の操縦士として空を飛ぶ青年ユーリは、いつものように仕事をこなしていた。 特別な力も、世界を変える使命もない。 ただ空を飛び、依頼された仕事を終えて帰る――そのはずだった。 だが、ある日の飛行中に起きた出来事を境に、ユーリの日常は大きく変わっていく。 雲海の奥で出会った少女。 父親の残した潜行貨物船。 空と雲の向こうに潜む未知の存在。 そして、壊れた飛行艇で向かう先は、まだ誰にも分からない。 これは、特別な英雄ではない一人の操縦士が、仲間たちとともに空を旅する物語。 どこへ向かうのか。 何が待っているのか。 最初の読者である私自身も、まだ知らない。 そして、この物語が何話まで続くのかも、私には分かりません。 ※本作は、人間がプロットの方向性や世界観を『ふんわり』設定し、本文はAIが執筆する形で制作しています。
本文
カン、カン、カン、と、不規則で乾いた金属音がドックの岩壁に反響していた。
境界域第4潜伏港の朝は早い。雲海から差し込む薄桃色の光が、無数の蒸気パイプと無骨なクレーン群をかすかに照らし出し、港全体が重油と煤の匂いを含んだ冷気の中で静かに動き始めていた。
「……ん」
アルゴー号の仮設タラップを下りてきたユーリは、眩しそうに空を仰ぎ、大きく息を吸い込んだ。右肩から脇腹にかけて巻かれた頑丈な包帯が、体を動かすたびにわずかに突っ張る。だが、数日前のように一歩歩くごとに意識が遠のくような激痛は、もうなかった。
「おいおい、風に当たりに出てくるのは結構だが、手伝えると思ってウロウロするなよクソガキ」
声のした方に目をやると、ドックの資材置き場で大きな木箱を抱えたバートンが立っていた。上着を脱ぎ捨て、太い腕に油をべったりと付けた機関長は、足元にどさりと箱を置くと、肩をすくめて煙草を口にくわえた。
「バートンさん。……朝から威勢がいいな」
「威勢がなきゃ、このバカでかい鉄塊を直し切れんわ。見ろ、右舷のメインフレームだ。溶接火花をいくら散らしたところで、歪み自体が消えるわけじゃねぇ。無理に引っ張れば今度は左側が歪む」
「……全体をバランスよく騙しながら叩くしかねぇな」
「口で言うのは簡単だ。やってる俺の身にもなってみろ」
バートンはフッと紫煙を吐き出し、ドックの片隅……防水シートが被せられた一角へ視線を遣った。シートの隙間から、ひん曲がったアウラの右翼と、焦げついたメインフレームが覗いている。
「……あいつの残骸、邪魔ならどかしてくれていいぜ」
ユーリがぽつりと呟くと、バートンは持っていたスパナでユーリの頭を軽く小突いた。
「バカ言え。誰がそんなこと言うか。あれは俺たちが深雲を越えて生きてここにいる証拠だ。ドックの端に置いておいたって邪魔にゃならん。……それに、お嬢が毎日拭いて回ってやがる」
「……セシリアが?」
「おうよ。エプロン掛けちゃあ、雑巾片手にゴシゴシとな。油汚れを落とすんだかなんだか知らんが、手伝いとしては大助かりだ」
バートンはニッと不敵に笑うと、「ほら、噂をすればだ」と顎で船の甲板を示した。
木製のタラップを、木箱を抱えたセシリアがゆっくりと降りていくところだった。彼女は作業用に袖をまくり上げたシャツを着て、髪を後ろで一つに束ねている。頬にはかすかに黒い煤がついていたが、その表情には生き生きとした明るさがあった。
「ユーリ! 起きて大丈夫なの? まだ無理しちゃダメだって、医務室の人が言っていたでしょう」
「もうだいぶマシだよ。ベッドで天井見てる方が頭が痛くなってくる」
「もう……相変わらず聞き分けがないんだから」
セシリアは小走りで近づいてくると、抱えていた箱をバートンの脇に置いた。箱の中には、磨き上げられたボルトや継手、銅製の管が幾重にも整然と並べられている。
「バートンさん、指示された通り、三番倉庫から古い規格の継手を集めてきたわ。ハインツさんのところの作業員さんが手伝ってくれたから、かなり状態が良いものが揃ったわよ」
「おお、でかしたお嬢! 流石だな、この時代の銅管は肉厚で硬ぇんだ。最近の安物に比べりゃ、よっぽど圧に耐えられる」
バートンは満足そうに目尻を下げ、ボルトの一つを指で弾いた。
「……セシリア、お前、すっかり港の作業員になじんでんな」
ユーリが呆れ半分、感心半分で呟くと、セシリアは誇らしげに胸を張った。
「失礼ね。私はこの船の責任者よ。バートンさんが何に困っていて、どんなパーツが必要なのかくらい、横で見ていればわかるわ。……それに、ずっと部屋で座っているだけなんて、性に合わないの」
「へいへい、大したお嬢様だ」
ユーリは苦笑しながら、ドックの壁際にある木箱の上にゆっくりと腰を下ろした。
「そういえば、ハインツさんは?」
「今朝は早くから、港の東側にあるドックの臨検に出かけているわ。この潜伏港、境界域の荒くれ者だけじゃなくて、たまに身分を隠した流しの配達屋や、訳ありの商人も立ち寄るでしょう? その調整で大忙しみたい」
「……ふん。大変なこったな」
セシリアの口から出たハインツの名前に、ユーリは特に深く追及しなかった。自分たちを安全に囲い込んでくれている理由は、セシリアの父親との古い縁だという。それ以上のことを探る必要もなければ、今の自分たちにそんな余裕もない。ただ、この荒々しい港の仕切り役として、彼が約束通り自分たちを守ってくれていることだけは確かだった。
「……ねえ、ユーリ」
セシリアはタオルで手についた油を拭きながら、アウラの残骸にかぶせられたシートへ歩み寄った。そっとシートの端をめくり、歪んだ翼の金属肌を指先でなぞる。
「アルゴー号の本格的な修理は、やっぱり時間がかかるみたい。バートンさんが言うには、当面動かせるようにするだけでも、あと一週間は必要だって」
「ああ。フレームの歪みは一朝一夕じゃ直らねぇからな」
「だからね……その間に、アルゴー号の格納庫を一度しっかりと整理しようと思っているの」
セシリアは振り返り、ユーリを直視した。
「前に話したけれど……あの船の奥の格納庫には、父が集めていた昔の機体パーツや、試作段階のエンジンが手つかずのまま残されているわ。当時は何に使うのかさっぱり分からなかったけれど……」
セシリアはアウラの残骸に視線を戻し、静かな声で続けた。
「……単に既製品の中古を買って済ませるなんて、私は絶対にしたくないわ。アルゴー号の格納庫にあるものを使って、あなたの気に入る『何か』ができるかもしれないでしょう?」
「……お嬢様」
ユーリは言葉に詰まり、自分の右手のひらを見つめた。
アウラを失った喪失感は、今でも胸の奥に冷たく残っている。
だが、セシリアがそこまで言ってくれるとは思っていなかった。
「……焦る必要はねぇさ。アルゴー号が直るまでは、どこへも行けねぇんだからな」
「ええ。だから今は、しっかり休んで、できることから少しずつ進めましょう」
セシリアが微笑むと、ドックの奥から「おい!お嬢ちゃんたち!」と叫ぶ声が響いた。
作業服を着た大柄な男が、熱気のこもった大きなスープ鍋を両手に抱えて歩いてくる。ハインツの配下の作業員だ。
「ハインツの親父さんから差し入れだ! 潜伏港名物、雲海魚と根菜の煮込みスープだぞ! 温かいうちに食ってくれ!」
「まあ! ありがとうございます!」
セシリアは嬉しそうに駆け寄り、木製の器を人数分受け取った。湯気とともに、香辛料と塩気の強い独特の香りがドック全体に広がる。
「おい、バートンさんも! 手を止めて休んでください!」
「おう! 今行く!」
バートンは腰の工具袋を外すと、ガシガシと頭を掻きながらやってきた。ユーリも木箱から立ち上がり、渡された器を受け取る。
「……うわ、なんだこの魚。見た目はグロテスクだな」
「贅沢言うんじゃないわよ、ユーリ。この港じゃこれが一番のごちそうなのよ」
「へいへい。いただきますよ」
ユーリが熱々のスープを口に運ぶと、濃厚なダシとピリッとした香辛料の効いた荒々しい辛味が口いっぱいに広がった。思わず顔を顰めたユーリを見て、セシリアとバートンが同時に吹き出す。
「ハハハ!顔に出すぎだクソガキ!」
「ほら、栄養はあるんだから残さず食べてね」
カラン、と遠くで鉄パイプが落ちる音が聞こえ、溶接の臭いとスープの匂いが混ざり合う。
激しい逃走劇も、命を賭けた深雲越えも、今は遠い出来事のようだった。ボロボロになったアルゴー号の傍らで、三人は温かいスープを啜りながら、他愛もない会話を交わす。
これから自分たちがどこへ向かい、どんな境遇に巻き込まれていくのか、それはまだ誰も知らない。
けれど、この過酷で温かい潜伏港で過ごす時間が、確実に彼らの傷を癒やし、次なる旅路への力を蓄えさせていた。
「よし……食ったら、午後は三番甲板の溶接補強だ!」
「私も手伝うわ、バートンさん!」
「俺も……まあ、ネジ回しくらいなら手伝ってやるよ」
雲海からの風が吹き抜け、ドックの作業用シートを小さく揺らした。
境界域第4潜伏港の1日は、ゆっくりと、しかし着実に過ぎていく。
第13話はここまで!