第14話:開かずの区画と、古びた真鍮
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AIに小説を書かせたら、最初の読者である私すら行き先を知らない飛行艇の旅が始まった。 一面の青い空と、雲海の向こうに広がる世界。 蒸気機関と飛行技術が発達したこの世界で、小型飛行艇の操縦士として空を飛ぶ青年ユーリは、いつものように仕事をこなしていた。 特別な力も、世界を変える使命もない。 ただ空を飛び、依頼された仕事を終えて帰る――そのはずだった。 だが、ある日の飛行中に起きた出来事を境に、ユーリの日常は大きく変わっていく。 雲海の奥で出会った少女。 父親の残した潜行貨物船。 空と雲の向こうに潜む未知の存在。 そして、壊れた飛行艇で向かう先は、まだ誰にも分からない。 これは、特別な英雄ではない一人の操縦士が、仲間たちとともに空を旅する物語。 どこへ向かうのか。 何が待っているのか。 最初の読者である私自身も、まだ知らない。 そして、この物語が何話まで続くのかも、私には分かりません。 ※本作は、人間がプロットの方向性や世界観を『ふんわり』設定し、本文はAIが執筆する形で制作しています。
本文
境界域第4潜伏港に朝の光――といっても、重厚な岩盤の隙間から差し込む薄もやの混じった灰色の光だが――が差し込む頃、アルゴー号のデッキにはカンカンという金属打撃音が心地よく響いていた。
「ユーリ、そこ。ボルトの締め、あともう半回転。怪我人に無理はさせんが、手加減してナメさせたら後で泣くのは自分だぞ」
「わかってるよ、バートンさん。……くっ、このスパナ、重すぎるんだよな……」
ユーリは肩に巻き直した包帯の引きつれに顔をしかめつつ、右舷のフレーム補強材にボルトを締め込んでいた。
昏睡から目覚めて数日。まだ激しい運動は主治医(というか、無愛想な港の船医)から止められているが、こうして軽作業で手を動かしている方が、余計なことを考えずに済む。
デッキの端では、エプロン姿のセシリアが、大きな木箱の上に腰掛けて真鍮製のバルブを磨いていた。
ウエス(布くず)に油を染ませ、キュッキュと丁寧に磨く手つきは、ここ数日で随分と様になっている。
「お嬢、ハインツのところへお使いに行ってきてくれないか? 第二機関の圧力を逃がす銅パイプ、予備の3インチ径があるか聞いてきてほしい」
「はい、バートンさん! 3インチの銅パイプですね。行ってきます!」
セシリアは元気よく立ち上がると、スカートの裾を少し持ち上げてタラップを駆け下りていった。
その背中を見送りながら、ユーリは吐息をつくように呟く。
「……たくましくなったな、あいつ」
「お嬢様だからな。守られるだけじゃないってのを、自分なりに証明したいんだろうよ」
バートンは咥えたパイプの煙を吐き出し、視線を船体底部の影……そこに防水シートで覆われて横たわる「それ」へ向けた。
アウラ号の残骸だ。
右翼と、焦げ付いたメインフレームのほんの一部。
あの猛烈な雲底への落下の果てに、奇跡的にアルゴー号のクレーンに引っかかって引っ張り上げた、愛機の「遺骨」のようなもの。
ユーリの指が、無意識にポケットの中の小さなネジを転がす。アウラから外れた部品だ。
「……ユーリ。あのフレーム、どうする?」
バートンの問いに、ユーリはすぐには答えられなかった。
「解体して、アルゴーの補修材に流用するなら今だ。良質な軽合金だからな。……だが、お前がそれを望まないなら、ドックの隅に置いておく」
「……まだ、決められないです。これを壊したら、本当に……アウラが消えちゃう気がして」
「そうか」
バートンはそれ以上追及せず、ユーリの背中をポンと強く叩いた。
「なら、今日はアルゴーの奥……最下層の『開かずの区画』を整理するか。旦那が生前、『ここには手を出すな』と言っていた機材置き場だ。船のバランスをとるためにも、一度中身を改めなきゃならん」
一方、東側ドックの事務所。
セシリアは、巨大な蒸気クレーンの設計図と格闘していたハインツを見つけて声をかけていた。
「ハインツさん! バートンさんから、3インチの銅パイプがあるか聞かれてきました」
「ん? おお、お嬢か。3インチなら第二資材庫の棚奥だ。後で若いのに運ばせるよ」
ハインツはタバコを指に挟み、汗を拭いながら笑った。
そして、セシリアの汚れたエプロンと、手慣れたウエス捌きを見て、ふっと目を細める。
「……フン。顔つきが父親に似てきたな、アーノルドに」
「父に……ですか?」
セシリアが足を止めると、ハインツは懐かしそうに天井の岩盤を見上げた。
「あいつ(アーノルド)も酷い男だったよ。名門の技術者だってのに、机の上の計算に飽き足らず、こんな泥と油の臭う境界域にまで首を突っ込んでさ。『この空の底には、俺たちの常識をひっくり返すカラクリが眠っている』なんて目をしてな」
「父が……境界域に?」
「ああ。アルゴー号に乗って、何度も『大断層』の近くまで潜っていった。あいつが探していたのは、ただの宝じゃねぇ。もっと古い……現代の蒸気機関なんて玩具に見えるような、古代の『気体動力』の遺物だ」
ハインツはそこまで言うと、「喋りすぎたな」と短く息を吐き、セシリアの頭にぽんと手を置いた。
「あいつが船に残したモノ……もし見つけることがあっても、深入りはするなよ、お嬢。アーノルドが何のためにそれ隠していたのか、いつか解るときが来る」
その頃、アルゴー号の最下層・中央格納庫。
ユーリとバートンは、固く閉ざされていた重い鉄扉のロックを解除していた。
蒸気がプシューッと音を立てて抜け、ギギギ……と重い音を立てて扉が開く。
中は、セシリアが幼い頃に見た記憶のある「父の物置」だった。
だが、ライトの光が照らし出したのは、単なるガラクタの山ではなかった。
「なんだ……これ……?」
ユーリは息をのんだ。
そこには、セシリアの父・アーノルドが収集していた無数のパーツが眠っていた。
木箱に収められた、見たこともない複雑なギア機構。現代の技術では不可能なほど精密に削り出された、結晶構造を持つ金属パイプ。
そして壁には、羊皮紙ではなく「硬質ガラス」のような板に青い光で刻まれた、謎の構造図。
「……旧時代の試作機……いや、既存の飛行艇の設計思想と根底から違う」
バートンが、慎重な手つきでガラス板のホコリを払う。
そこに描かれていたのは、一機の「小型機」のシルエットだった。
だが、一般的な蒸気ボイラーを積むスペースがない。代わりに、船体の中央に「球体」を収めるための特殊な枠組み(ソケット)が設計されていた。
「これ……アウラより一回り小さい。だけど、もしこの設計図通りの出力が出るなら……雲海の強風すら力に変えて飛べるぞ……!」
ユーリのパイロットとしての血が、ドクンと跳ねた。
失われたアウラ。そして、目の前にある「見知らぬ翼」の設計図。
まだ、これを形にする技術も、動かすコア(動力源)が何なのかも分からない。アウラの残骸を使うべきなのか、まったく新しい機体として組むべきなのかも。
だが――胸の奥で、小さく火が点いたのを感じた。
「ユーリ、バートンさん! 銅パイプ、ハインツさんが届けてくれるって――」
セシリアが格納庫に降りてきて、二人が見つめる「ガラスの設計図」と古びたパーツの山を目にした。
「これ……お父様の……?」
「ああ。旦那が、誰にも見せずに遺した『未完成の翼』だ」
セシリアはゆっくりと足を踏み入れ、木箱の上に置かれた「あるもの」に目を留めた。
それは、他の精密なメカパーツとは異なり、無造作に転がされていた「黒ずんだ真鍮製の円筒形ケース」だった。
手のひらに乗るほどの大きさだが、表面にはびっしりと繊細な古代文字のような刻印が彫られている。
「これ……小さい頃、父が肌身離さず持っていたケース……」
セシリアが吸い寄せられるように手を伸ばし、その真鍮のケースを持ち上げた。
カチッ。
触れた瞬間、何かのロックが外れたような小さな音が響いた。
ケースの表面の刻印が、微かに――本当に微かにだが、内側から橙色の光を帯びて明滅した。
「……え?」
セシリアが驚いて手を引こうとした瞬間、光はスーッと消え、ただの冷たい真鍮の筒に戻った。
だが、その一瞬の光を見たユーリとバートンは、はっきりと息をのんだ。
「今……光ったか……?」
「……ただの金属ケースじゃないな。中身が何であれ……こいつは動いてやがる」
ハインツが言っていた「父親が探していた古代の遺物」。
そして、この格納庫に眠る「ボイラーのない飛行艇」の設計図。
暗い格納庫の中で、三人は言葉を失ったまま、セシリアの手の中にある小さな真鍮のケースを見つめていた。
潜伏港の波音が、遠くで静かに響いていた。
新しい翼の形も、この筒の中に何が入っているのかも、まだ誰にも分からない。
だが、アルゴー号の底深くで、確かに「何か」が目を覚まそうとしていた。
第14話はここまで!