第23話:骨組みの呼吸
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
AIに小説を書かせたら、最初の読者である私すら行き先を知らない飛行艇の旅が始まった。 一面の青い空と、雲海の向こうに広がる世界。 蒸気機関と飛行技術が発達したこの世界で、小型飛行艇の操縦士として空を飛ぶ青年ユーリは、いつものように仕事をこなしていた。 特別な力も、世界を変える使命もない。 ただ空を飛び、依頼された仕事を終えて帰る――そのはずだった。 だが、ある日の飛行中に起きた出来事を境に、ユーリの日常は大きく変わっていく。 雲海の奥で出会った少女。 父親の残した潜行貨物船。 空と雲の向こうに潜む未知の存在。 そして、壊れた飛行艇で向かう先は、まだ誰にも分からない。 これは、特別な英雄ではない一人の操縦士が、仲間たちとともに空を旅する物語。 どこへ向かうのか。 何が待っているのか。 最初の読者である私自身も、まだ知らない。 そして、この物語が何話まで続くのかも、私には分かりません。 ※本作は、人間がプロットの方向性や世界観を『ふんわり』設定し、本文はAIが執筆する形で制作しています。
本文
無人島の静かなドック跡に、朝から甲高い打撃音が響き渡っていた。
「……よし、第二スクリュー軸のベアリング打ち替え、完了だ!」
バートンが油塗れの顔を上げ、スパナを床板に転がした。
アルゴー号の本格整備は五日目を迎えていた。ボイラー内部の管巣打ち替えは昨晩のうちに終わり、今日は一番の懸念事項だった推進軸の開放点検を行っていたのだ。
「バートンさん、手応えはどうですか?」
甲板から覗き込んだユーリに、バートンはグッと親指を立てて見せた。
「ハン、上々だ。新しいベアリングに耐熱グリスをたっぷり叩き込んでやった。これで中央気流帯の激しい乱気流に巻き込まれても、軸が焼き付いて動かなくなる心配はねぇ。……まあ、船体補強と蒸気配管のバルブ交換がまだ残ってるから、完全復活とはいかねぇがな」
「よかった……。アルゴー号が少しずつ息を吹き返していくみたいで、嬉しいです」
「船の心配をする余裕があるなら、自分たちの『足』の方を進めるぞ。……お嬢、例の床下リンケージの試作部品、上がったか?」
ドックの作業台から、セシリアが小さな金属パーツを手に持ち、布で汗を拭いながら歩いてきた。
「ええ、アウラの予備リンケージを加工して、レバーの支点を真下へ逃がすリンクアームを作ってみたわ。……シエロ、邪魔をしちゃダメよ」
セシリアの足元では、暖かなボイラーの余熱が残る甲板で丸くなっていた黒猫のシエロが、「ニャー」と短く鳴いて彼女の裾をちょいちょいと引っ張っていた。工具箱の陰から出てきたシエロは、セシリアが手にした金属部品に鼻を近づけ、満足そうにフッと息を吐くと、日当たりの良い木箱の上に移動して伸びをした。
――――――
仮組み台に置かれた新しい機体の骨組み。
バートンとユーリは、セシリアが用意した新しいリンクアームを、操縦席の真下――キール(竜骨)と蒸気配管が交差する狭小なスペースへと慎重に組み込んだ。
「よし……これでレバーを左に全開で倒してみろ」
ユーリは皮手袋をはめ直し、仮留めの操縦席に深く腰掛けた。
呼吸を整え、真鍮製の操縦レバーを左へ——一気に引き倒す。
カチリ。
昨日まで横フレームにぶつかって止まっていたレバーが、スムーズに限界点まで倒れ切った。
「通った……! 肘もフレームにぶつからない!」
ユーリが歓声を上げる。バートンも覗き込み、手帳に記した寸法と比べながら頷いた。
「おう、レバーの稼働域は完全に確保できたな。床下に逃がしたことで、懸念していたフレームの横強度も落とさずに済んだ」
「セシリア、すごいよ! 図面通りの配置でバッチリだ!」
しかし――喜びも束の間、ユーリの表情がわずかに曇った。
レバーを前後左右に繰り返し動かしていたユーリが、ふと手を止め、自分の手首を見つめたのだ。
「……どうした、ユーリ? どこか引っかかるか?」
「いや……滑らかに動くし、どこにも干渉はしてないんだ。でも……なんというか、レバーを倒した時の『跳ね返り』が、アウラと違う」
ユーリはもう一度レバーを右に倒し、ゆっくりと戻した。
「アウラは、レバーを倒すとワイヤーの張力がダイレクトに手に伝わってきて、風の抵抗を手応えで感じられた。でも今の配置だと、床下に噛ませたアームの曲がり(屈曲部)が多いせいか、手応えが少し……『ぬるい』んだ。ダイレクト感が減って、ワンテンポ遅れて反応する感じがする」
「チッ……やっぱりそう来たか」
バートンが腕を組み、苦い顔で舌を打った。
「机の上の図面でワイヤーの取り回しを曲げれば、干渉は防げる。だが、曲がり角(プーリー)が増えれば増えるほど、摩擦と遊び(ガタ)が生まれる。それが操作感覚のヌルさに繋がっちまってるんだ」
「操作のダイレクト感……。空中での変態機動には、それがいちばん大事なんだろ?」
「うん。直感で操作した瞬間に機体が反応してくれないと、あのアクロバットな旋回はできない……」
ユーリはレバーから手を放さず、目を閉じた。
アウラと違う。
確かにアウラから受け継いだレバーであり、メインフレームだ。だが、この骨組みはもう「アウラそのもの」ではない。
新しい軽量合金のキール。重心を低くするために床下に集約されたリンケージ。そして、これから載るであろうアーノルドの試作双発エンジン。
設計図の上では理にかなっていても、実際に人間が乗り、風を感じる道具としては、まだ「しっくりこない」違和感が残っていた。
――――――
「……お父様のノートに、こんな記述があったわ」
二人の会話を聞いていたセシリアが、羊皮紙の図面をめくりながら静かに口を開いた。
「『高圧蒸気とコアの余剰エネルギーを複合させる試作エンジンは、従来の一体型ボイラーと異なり、出力の立ち上がりが鋭すぎる。そのため、操縦ワイヤーにはあえてわずかな“あそび”を持たせ、パイロットの過剰な操作による機体の破損を防ぐ必要がある』……と」
ユーリとバートンがハッとしてセシリアを見た。
「セシリアのお父さんが……あえてダイレクト感を減らそうとしていた?」
「ええ。増幅されたエンジンの力をそのままダイレクトに受けると、旋回時の負荷で操縦系統そのものが壊れる可能性があったのね。でも、お父様は『もしこの暴れ馬のようなエンジンを完全に手懐けられるパイロットがいるなら、床下のアーム比率を三対二から五対三へ変更し、ダイレクト駆動に戻す余地がある』とも書き残しているの」
セシリアはノートの余白に書かれた小さな数式とスケッチを指差した。
「アームの支点の位置をほんの数ミリずらして、ワイヤーの引き幅を変えるの。……そうすれば、手応えの硬さを戻せるかもしれないわ」
「数ミリの支点変更か……!」
バートンがノギスを掴み、セシリアの指差した数式を食い入るように見つめた。
「なるほどな……! お嬢、大したもんだ。アーノルドの奴、そこまで計算して図面を描いてやがったのか。……ただしユーリ、支点を変えて手応えをダイレクトに戻すとなると、お前の腕にかかる操作負荷はアウラの時よりずっと重くなるぞ。それでもいいか?」
ユーリは迷わず頷き、力強く操縦レバーを握りしめた。
「重くても構わない! 手応えがダイレクトな方が、風の強さも、機体が悲鳴を上げている限界も、僕の手に伝わってくるから!」
「ハン、言ってくれるじゃねぇか。よし、アームの穴開け直しだ! 今日の夜作業が増えたぞ!」
「望むところです!」
完璧な解決策が今すぐ出たわけではない。
支点を変えれば、今度は床下の狭い耐熱シールドにアームがかすめるリスクが出てくるし、ユーリの体力的な負担も増す。
けれど、「アウラの模倣」から一歩踏み出し、アーノルドの遺した知恵と、ユーリの操縦感覚、バートンの技術が噛み合いながら、新しい機体の「呼吸」が作られ始めていた。
――――――
太陽が雲海の彼方へ沈み、ドックに深い群青の夜が訪れる。
アルゴー号の甲板では、ランタンの温かな光の中で、シエロがセシリアの膝の上に顎を乗せてすやすやと眠っていた。
バートンはボイラー室から戻り、冷えたハーブティーを喉に流し込んでいる。アルゴー号の主要な機械系は、連日の根気強い作業によって、確実に息を吹き返しつつあった。
ユーリは一人、月明かりが差し込む作業台の操縦席に腰掛けていた。
アームの再加工は明日になるため、今のレバーはまだ「ぬるい」手応えのままだ。
だが、ユーリは何度もレバーを倒し、ペダルを踏み込み、暗闇の中で風を切る自分の姿をイメージした。
アウラの残骸から始まった骨組み。
最初はただの壊れたパーツの集まりだったそれが、今やバートンが削り出した軽量キールと組み合わされ、セシリアが解き明かした計算によって支えられている。
もう、これは「昔のアウラ」ではない。
かといって、まだ見ぬ「完成した新機体」でもない。
自分たちが手を探り、悩み、汗を流して作り上げつつある、世界にただ一つの「僕たちの翼」だ。
「……待てよ」
ユーリは骨組みの冷たい真鍮レバーに呟いた。
「もう少しで、お前と本当の意味で一つになれる気がするんだ」
夜風がドックを吹き抜け、仮組みされた機体のフレームをかすかに鳴らした。
それはまるで、新しい命を吹き込まれようとしている翼が、静かに深呼吸をしたかのように聞こえた――。
第23話はここまで!
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