第五十七話 単独行動
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ロジカルな戦闘が魅力の群像劇。執筆済みのため、毎日午前6時に更新・11月30日完結予定 木や鉱石といった死んだ物質は魔力を拒絶し、術者の掌を骨ごと炭化させる。 息を吸い、肺を満たし、血を巡らせる――人間の肉体こそが唯一無二の触媒である世界。 極寒の寒村で家族を飢えで失った少年、テラ・ベルジェ。 彼がメルキオーレ魔術学院へ送られたのは、村の生き残りを賭けた「食料配給の手形」としてだった。 成績を落とせば即座に除籍、故郷は全員餓死。 首に麻縄を巻かれたような絶望の中、手に入れたのは、他人が床に撒き散らした魔力の燃え殻を吸い込み、硝子の檻に閉じ込めてぶつけるだけの、醜悪な「泥棒の小細工」だった。 名門エリートたちが優雅に呪文を紡ぐ学び舎で、テラと同じく世界の隅へと追いやられた者たちが出会う。 血統を呪い、折れぬ直剣を佩く異端の前衛・エヴァン。 没落の借財に抗い、完璧の型にすがる参謀令嬢・ルナ。 才能を弄ばれ、感覚の超火力を放つ傲岸な小隊長・リゼット。 衝撃を吸い取る悪知恵のトリックスター・エリクス。 そして、感情を殺し、汚れを消去し続ける謎の特例生・クロエ。 「不純物」「落伍者」と切り捨てられた六人は、生き残るため、互いの欠陥を凶器へと変える冷酷な契約を結ぶ。 だが、彼らが勝ち上がった先に待っていたのは―― この国の美しい魔術文明そのものが、地下深くで生きたまま魂をすり潰されている「一人の少女の生贄」の上に成り立っているという、おぞましい真実だった。 「誰かの地獄の上に成り立つ光なら、そんなもの全部叩き壊してやる」 理不尽な国家の欺瞞と、忍び寄る聖賢騎士団の断罪。 持たざる者たちが泥水を啜り、手を取り合い、世界の檻を打ち破る――本格ダーク・学園魔術戦記! ※カクヨムでも『AI本文利用』タグにて同時掲載中です 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
本文
ドォォォォォォンッ!! ドガァンッ!!
連続する凄まじい地鳴りが、大聖堂の床石を足元から跳ね上げた。
数百メートルの天蓋がきしみ、美しいステンドグラスが一斉にひび割れて、粉々になった色硝子の雨が頭上から容赦なく降り注ぐ。
カンカンカンカンッ!!
王都全域に響き渡る警報の魔導鐘。遠くの礼拝堂からは、聖賢騎士たちの怒号と、軍靴が石畳を乱打する地響きのような足音が近づいてくる。
「伏せろッ!!」
エヴァンの一喝とともに、直剣が一閃した。
頭上から落下してきた大理石の破片を、導魔油の雷刃が音もなく両断し、左右へと弾き飛ばす。
テラも即座に手甲を掲げ、リゼットの頭上へ落ちてきた瓦礫を腕力で殴り飛ばした。
立ち込める白い石粉と、鼻腔を突く焦げた油の煙。
「みんな、無事か!?」
テラが叫ぶ。
「ええ、問題ありませんわ!」ルナが煤を払いながら立ち上がる。
「こっちもピンピンしてるぜ!」胸を叩くエリクス。
リゼットは咳き込みながら煙を払い、前方へと視線を向けた。
「ラティナ……ッ!!」
だが。
さっきまでそこに立っていたはずの、黒衣の少女の姿は――すでにどこにもなかった。
爆発の混乱と濛々たる白煙の幕に乗じ、音もなく回廊の深い暗がりへと足早に姿を眩ませたのだ。
「逃げられた……!」
リゼットが悔しげに奥歯を噛み締める。
「地下だ」
エヴァンが焦げた切先を下げ、冷徹に床石を見下ろした。
「この揺れと衝撃波……単なる外壁の破壊ではない。学院の地下深層の隔壁が爆破されている」
「まさか…!この大聖堂の真下は、学院の最重要区画ですわ!テロリストの狙いはそこかもしれません!」
その時だった。
テラが周囲を見渡し、ふと、血の気を引かせた。
「……あれ?」
テラの声が震えた。
「クロエは……!? クロエが、いない……!!」
「なんですって……!?」
ルナが息を呑み、五人の視線が一斉に周囲の薄暗がりを走った。
さっきまで、自分たちのすぐ背後に立っていたはずの、黒髪の少女。
その姿が、忽然と消え去っていた。
「おい、見ろ!」
エリクスが回廊の角、暗がりを鋭く指差した。
普段は厳重に施錠されているはずの、学院地下深層へと続く非常用の重い鉄扉。その閂(かんぬき)が外され、扉が大きく開け放たれていた。
冷たい風が吹き上がるその暗闇の奥から、微かに、規則正しく階段を駆け下りていく小さな靴音が、遠ざかるように響いていた。
「あいつ……!」
エリクスが頭を抱えた。
「爆発が起きた瞬間、一人で地下へ飛び出していったんだ!」
「何考えてんのよ、あのバカ……!!」
リゼットの琥珀色の瞳が、激しい怒りと焦燥に吊り上がった。
「一人でテロを止めに行く気!? 相手が何者かも分からないのに、勝手に先行するなんて……!」
「クロエは……」
テラは胸元を強く握りしめた。
感情を一切見せず、常に合理的だったあの少女の顔が脳裏をよぎる。
「クロエは……いつも無口だけど、僕たちを危険に巻き込まないように、一人で……!」
「ふざけないでよ!」
リゼットが叫び、式典用ローブの裾を乱暴に翻して、地下階段へ向けて駆け出した。
「小隊長命令よ! あの単独行動のバカを連れ戻すわよ! 勝手に一人でカッコつけて、死なせるわけないでしょ!!」
「ああ、仲間を置いていく選択肢などない!」
エヴァンが直剣を握り直し、リゼットの後に続く。
「クロエ……無茶をなさらないで……!」ルナが走り、エリクスが「待てよ隊長、先頭は俺たちに任せろ!」と先行する。
「クロエ……! 無事でいてくれ……!!」
テラは手甲を強く握り締め、暗い螺旋階段の闇の中へ、仲間たちと共に転がるように駆け下りていった。
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。