第六十三話 抵抗
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あらすじ
ロジカルな戦闘が魅力の群像劇。執筆済みのため、毎日午前6時に更新・11月30日完結予定 木や鉱石といった死んだ物質は魔力を拒絶し、術者の掌を骨ごと炭化させる。 息を吸い、肺を満たし、血を巡らせる――人間の肉体こそが唯一無二の触媒である世界。 極寒の寒村で家族を飢えで失った少年、テラ・ベルジェ。 彼がメルキオーレ魔術学院へ送られたのは、村の生き残りを賭けた「食料配給の手形」としてだった。 成績を落とせば即座に除籍、故郷は全員餓死。 首に麻縄を巻かれたような絶望の中、手に入れたのは、他人が床に撒き散らした魔力の燃え殻を吸い込み、硝子の檻に閉じ込めてぶつけるだけの、醜悪な「泥棒の小細工」だった。 名門エリートたちが優雅に呪文を紡ぐ学び舎で、テラと同じく世界の隅へと追いやられた者たちが出会う。 血統を呪い、折れぬ直剣を佩く異端の前衛・エヴァン。 没落の借財に抗い、完璧の型にすがる参謀令嬢・ルナ。 才能を弄ばれ、感覚の超火力を放つ傲岸な小隊長・リゼット。 衝撃を吸い取る悪知恵のトリックスター・エリクス。 そして、感情を殺し、汚れを消去し続ける謎の特例生・クロエ。 「不純物」「落伍者」と切り捨てられた六人は、生き残るため、互いの欠陥を凶器へと変える冷酷な契約を結ぶ。 だが、彼らが勝ち上がった先に待っていたのは―― この国の美しい魔術文明そのものが、地下深くで生きたまま魂をすり潰されている「一人の少女の生贄」の上に成り立っているという、おぞましい真実だった。 「誰かの地獄の上に成り立つ光なら、そんなもの全部叩き壊してやる」 理不尽な国家の欺瞞と、忍び寄る聖賢騎士団の断罪。 持たざる者たちが泥水を啜り、手を取り合い、世界の檻を打ち破る――本格ダーク・学園魔術戦記! ※カクヨムでも『AI本文利用』タグにて同時掲載中です 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
本文
ジャラリ、ジャラリ。
青白い捕縛陣を宿した黒鉄の鎖が、石畳の上を這うように擦れ合っていた。
二十名を超える白銀の騎士たちが、一分の狂いもない歩調で同心円状の包囲を縮めていく。退路は燃え盛る火炎と、崩落した書架の瓦礫のみ。完全に追い詰められた、逃げ場のない袋小路。
だが――包囲の中心で、エヴァンは直剣の切先を下げようとはしなかった。
導魔油の塗られた刀身に、青白い雷撃が静かに、低く唸りを上げている。
「……エヴァン・デ・ミストレイン」
クラウディアの氷のように透き通った青い瞳が、切先を微動だにさせずに射抜いた。
「聖賢騎士団の執行に対し、抜剣の姿勢を維持することは、ミストレイン侯爵家といえども国家反逆罪に問われると理解しているはずです」
「不当な状況証拠だけで仲間を縛る鎖なら、断ち切るまでだ」
エヴァンの紺色の瞳に、冷徹な炎が宿る。
「俺たちはテロリストではない。真の実行犯を追ってここにいる。 ……それを確かめようともせず、ただ数字と形式だけで縛ろうとするなら、受けて立つ」
「反逆の言葉とみなします」
クラウディアの声音は、一片の感情の揺らぎすら見せなかった。
その言葉と同時に、小隊の五人が一斉に戦闘態勢をとる。
リゼットが心象アンカーで掌に極小の火球を灯し、ルナが『ペルフェクシオン』の力場を身に纏い、エリクスが懐の信管カードに指を添える。
そしてテラは、漆黒の手甲を嵌めた両腕を広げ、自分たちのすぐ背後に立つクロエを完全に隠すようにして、前に立ち塞がっていた。
クロエの黒い瞳が、わずかに揺らいだ。
テラの広くない、けれど泥に塗れて頑丈になった背中。
なぜ庇うのか。
自分は『残り火』のスパイであり、実際にこの禁書庫の原本を焼き払った実行犯だ。自分を差し出し、「この女に騙されていた」と告発すれば、五人の嫌疑は晴れ、生存確率は跳ね上がるはずだった。
それなのに、なぜこの者たちは、全滅が確定している最も非合理的な抵抗を選ぶのか。
計算機のようなクロエの頭脳では、目の前で起きている現実の解を、どうしても導き出すことができなかった。
グンッ……!
大聖堂地下の空気が、重々しく軋んだ。
騎士たちが一斉に多層の軍用防護陣を展開したのだ。部屋全体が青白い高圧の力場で満たされ、小隊の皮膚に重力が何倍にもなったような圧力がのしかかる。
百戦錬磨の正規軍。
ここで刃を交えれば、模擬戦のようにはいかない。反逆者として即座にその場で殺されるか、地下牢獄へ叩き込まれて一生を終える。完全に詰み(チェックメイト)の盤面だった。
クラウディアが、白銀の手袋を嵌めた右手を、腰の剣柄へと静かにかけた。
「最後の警告です。武装を解き、平伏しなさい。……三秒後に、実力による強制鎮圧を開始します」
クラウディアの指が動く。
「三」
騎士たちの鎖が、一斉にジャラリと持ち上げられた。
「二」
エヴァンの全身の筋肉が極限まで張り詰める。テラが奥歯を強く噛み締めた。
「一」
クラウディアが剣を抜き放とうとした――その刹那。
カツン、カツン、カツン。
燃え盛る火炎と黒煙の向こう側から、階段を優雅に降りてくる、乾いた硬質な靴音が響き渡った。
「……相変わらず、無駄な線ばかり引いているな。クラウディア」
静かだが、大空洞の隅々まで染み渡るような、気取った声。
騎士たちの捕縛陣が、その声一つでピタリと動きを止めた。
煤煙をかき分けて現れたのは、仕立ての良いスーツに汚れ一つなく、銀時計の鎖を指先に優雅に絡めた細身の男――。
魔法陣構築理論教授、スレイ・ヴァン・エルフォートだった。
クラウディアの氷のように静まり返っていた青い瞳が、初めて、微かに見開かれた。
「……スレイ、先生……?」
炎の照り返しの中、師と元教え子の視線が、音もなく激突した。
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