第七十五話 知恵と意地
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あらすじ
ロジカルな戦闘が魅力の群像劇。執筆済みのため、毎日午前6時に更新・11月30日完結予定 木や鉱石といった死んだ物質は魔力を拒絶し、術者の掌を骨ごと炭化させる。 息を吸い、肺を満たし、血を巡らせる――人間の肉体こそが唯一無二の触媒である世界。 極寒の寒村で家族を飢えで失った少年、テラ・ベルジェ。 彼がメルキオーレ魔術学院へ送られたのは、村の生き残りを賭けた「食料配給の手形」としてだった。 成績を落とせば即座に除籍、故郷は全員餓死。 首に麻縄を巻かれたような絶望の中、手に入れたのは、他人が床に撒き散らした魔力の燃え殻を吸い込み、硝子の檻に閉じ込めてぶつけるだけの、醜悪な「泥棒の小細工」だった。 名門エリートたちが優雅に呪文を紡ぐ学び舎で、テラと同じく世界の隅へと追いやられた者たちが出会う。 血統を呪い、折れぬ直剣を佩く異端の前衛・エヴァン。 没落の借財に抗い、完璧の型にすがる参謀令嬢・ルナ。 才能を弄ばれ、感覚の超火力を放つ傲岸な小隊長・リゼット。 衝撃を吸い取る悪知恵のトリックスター・エリクス。 そして、感情を殺し、汚れを消去し続ける謎の特例生・クロエ。 「不純物」「落伍者」と切り捨てられた六人は、生き残るため、互いの欠陥を凶器へと変える冷酷な契約を結ぶ。 だが、彼らが勝ち上がった先に待っていたのは―― この国の美しい魔術文明そのものが、地下深くで生きたまま魂をすり潰されている「一人の少女の生贄」の上に成り立っているという、おぞましい真実だった。 「誰かの地獄の上に成り立つ光なら、そんなもの全部叩き壊してやる」 理不尽な国家の欺瞞と、忍び寄る聖賢騎士団の断罪。 持たざる者たちが泥水を啜り、手を取り合い、世界の檻を打ち破る――本格ダーク・学園魔術戦記! ※カクヨムでも『AI本文利用』タグにて同時掲載中です 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
本文
実験場の最奥、開かれた横穴の縁に、青白い水滴が滴り落ちていた。
リゼットが握りしめる掌の中で、青白い燐光を放つ小さな真鍮の鍵――セドリックから託された『古代賢者の解除キー』が、微かな霊的脈動を刻んでいる。
『もしセレナ君を装置から解放すれば、核を失った揺り籠は暴走し、都市の結界を巻き込む崩壊のカウントダウンを始めるだろう。 ……だが、恐れることはない。私やスレイ、カトレアやヒューゴ……この学院の教官たちが、三百年の歴史で積み上げてきた現代魔術の知恵と意地を結集し、必ずや新たな理をゼロから組み上げてみせる。 ……君たちは、ただ迷わずセレナ君を救いに行きたまえ』
過去の遺産に縋るのではない。
今を生きる者たちの技術の粋と、意地で世界を繋ぎ直す。
その言葉が、六人の背中を力強く押し出していた。
ズズズズズズッ……!!
突如として、実験場の天井が激しく波打ち、パラパラと石屑が降り注いだ。
地下の深層にまで届く、大地そのものをへし折るような重低音の地鳴り。
ドォォォォォンッ! ドォンッ!
「……始まったな」
エヴァンが直剣の柄に手をかけた。
旧校舎の真上――地上のあちこちから、緊急迎撃を告げるラッパの金属音と、怒号が響き渡る。
クロエが壁面の有線通信端子から耳を離し、淡々と状況を告げた。
「帝都の北外壁が突破されました。族長ヴァルグ率いる部族連合『原始の獣血』の本隊が突入。……聖賢騎士団長ギデオン、副団長クラウディアが全軍を率いて防衛戦へ移行。旧校舎の包囲部隊も、前線迎撃へ引き抜かれていきます」
包囲が、解けた。
今この瞬間、地上では数千の獣血と白銀の騎士団が激突し、大聖堂の中枢では、混乱に乗じてファウストとラティナが直通昇降機を突破して降下を開始している。
「時間がないわ」
リゼットが金髪を翻し、真鍮の解除キーを掲げた。
「行くわよ、あんたたち! ラティナがあの部屋に辿り着く前に、私たちが先にセレナ姉様を引っ張り出すのよ!」
「うん!」
テラを先頭に、六人は迷いなく、実験場の奥壁にくり抜いた丸い横穴へと身を滑り込ませた。
ジャブッ!
横穴を抜けた瞬間、膝丈まで満ちた冷たい酸性の水流が、足元を激しく洗った。
鼻腔を突くツンとした刺激臭。暗く狭い古代の暗渠(冷却水路)の中を、水飛沫を蹴立てて一直線に疾走する。
わずか十メートルの疾走。
水路の突き当たりに、青黒い巨岩のようにそびえ立つ、巨大な『零号地下聖域・外郭水門』が立ち塞がった。
表面には、賢者フィーナの手による幾何学暗号の円環。
「リゼット、鍵を!」テラが叫び、水門の前に立ち塞がって足場を固める。
「任せなさい!」
リゼットが水門の中央、青白く燐光を放つ歯車の鍵穴へと、セドリックの解除キーを力任せに押し込んだ。
――カチリ。
小さな、けれど完璧な噛み合いの音。
ギチギチギチギチッ……!!
三百年間閉ざされ続けていた古代の歯車が、一斉に逆回転を始めた。
水底に沈んでいた巨大な青黒い金属水門が、重厚な地響きとともに、ゆっくりと上方へ競り上がっていく。
水門の裂け目から溢れ出してきたのは、地下水脈の冷気とは異なる――息が詰まるほど濃密な古代の霊気と、広大な空間の気配。
大聖堂の真下に広がる、未踏の古代遺構『零号地下聖域』。
六人は身を低くし、開かれた水門の隙間へと飛び込んでいった。
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