第七十六話 リベンジマッチ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ロジカルな戦闘が魅力の群像劇。執筆済みのため、毎日午前6時に更新・11月30日完結予定 木や鉱石といった死んだ物質は魔力を拒絶し、術者の掌を骨ごと炭化させる。 息を吸い、肺を満たし、血を巡らせる――人間の肉体こそが唯一無二の触媒である世界。 極寒の寒村で家族を飢えで失った少年、テラ・ベルジェ。 彼がメルキオーレ魔術学院へ送られたのは、村の生き残りを賭けた「食料配給の手形」としてだった。 成績を落とせば即座に除籍、故郷は全員餓死。 首に麻縄を巻かれたような絶望の中、手に入れたのは、他人が床に撒き散らした魔力の燃え殻を吸い込み、硝子の檻に閉じ込めてぶつけるだけの、醜悪な「泥棒の小細工」だった。 名門エリートたちが優雅に呪文を紡ぐ学び舎で、テラと同じく世界の隅へと追いやられた者たちが出会う。 血統を呪い、折れぬ直剣を佩く異端の前衛・エヴァン。 没落の借財に抗い、完璧の型にすがる参謀令嬢・ルナ。 才能を弄ばれ、感覚の超火力を放つ傲岸な小隊長・リゼット。 衝撃を吸い取る悪知恵のトリックスター・エリクス。 そして、感情を殺し、汚れを消去し続ける謎の特例生・クロエ。 「不純物」「落伍者」と切り捨てられた六人は、生き残るため、互いの欠陥を凶器へと変える冷酷な契約を結ぶ。 だが、彼らが勝ち上がった先に待っていたのは―― この国の美しい魔術文明そのものが、地下深くで生きたまま魂をすり潰されている「一人の少女の生贄」の上に成り立っているという、おぞましい真実だった。 「誰かの地獄の上に成り立つ光なら、そんなもの全部叩き壊してやる」 理不尽な国家の欺瞞と、忍び寄る聖賢騎士団の断罪。 持たざる者たちが泥水を啜り、手を取り合い、世界の檻を打ち破る――本格ダーク・学園魔術戦記! ※カクヨムでも『AI本文利用』タグにて同時掲載中です 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
本文
冷たい地下水脈を抜け、競り上がった外郭水門の裂け目を潜り抜けた瞬間、足元の水深が一気に引いていった。
ザバァッ、と水を切って石畳の上へ這い上がった六人の視界を、圧倒的なスケールの闇が呑み込んだ。
「……これが、零号地下聖域……」
テラが掲げた真鍮ランプの火が、空間の広大さに押し潰されるように頼りなく揺らいだ。
数百メートルの高さを誇るドーム状の天蓋。
立ち並ぶのは、古代の巨木のように太い白大理石の柱列。床面には、かつて神殿都市として機能していた時代の幾何学的な舗装がどこまでも真っ直ぐに伸びていた。
大聖堂の地下深層に、これほどの古代遺構が眠っていたのかという息を呑むような静寂。
「あの大回廊の突き当たりですわ」
ルナが濡れた銀髪を払い、神殿都市の最奥――青白い燐光が漏れ出ている巨大なドーム状の構造物を指差した。
「あの光の集束点に……『賢者の揺り籠』が鎮座していますわ!」
走り出そうとした、その刹那だった。
――ドォスッ!!
大回廊の中央、数十メートル前方の瓦礫の山から、重い肉の塊が着地した。
天井の崩落口から一筋だけ差し込む初冬の淡い陽光。その白い光を背にして、ゆっくりと立ち上がったのは――。
「……遅かったじゃねえか、小僧ども」
褐色の筋骨隆々な肉体。全身に刻まれた無数の古傷と、腰に巻かれた粗末な獣皮。
毛穴から立ち上る生温かい魔力の陽炎が、古代神殿の冷気を蜃気楼のように歪めていた。
「フェンリス……!?」
リゼットが息を呑み、即座に右手を構えた。
「あんた、親玉と一緒に地上で騎士団と戦争してるんじゃないの!?」
「親父の戦争なんざ、知ったこっちゃねえよ」
フェンリスは首の骨をゴキリと鳴らし、獰猛な笑みを浮かべた。
その視線が、テラの手甲、エヴァンの直剣、六人の立ち姿を、飢えた狼のように舐め回す。
男の両足首。
演習林で酸嚢垂れの木の強酸を浴び、白骨が露出するほどドロドロに溶け崩れていたはずの足首には、野蛮な縫合痕のような太い傷跡が刻まれていた。だが、その筋肉と靭帯は完全に再生し、古代の石畳を岩のように力強く踏みしめていた。
「前回のあの酸の罠……落とし穴……屈辱だったぜ」
フェンリスの琥珀色の瞳が、爛々と輝きを増した。
「だが同時に、俺の血が沸騰して止まらなくなった。……お前たちの匂いを追って、大聖堂の地下を素手で掘り抜いて先回りしてやったのさ」
バチンッ!!
フェンリスが、丸太のような両拳を自らの前で力任せに打ち鳴らした。
衝撃波が突風となって吹き荒れ、大回廊の大理石の柱を激しく震わせる。
「ここには酸の木も、崩れる水脈もねえ!」
狂戦士の咆哮が、地下神殿を揺るがした。
「逃げ場のないこの石畳の上で……お前たちのその小隊の全火力と、俺のこの拳。……どっちが上か、白黒つけようじゃねえか!!」
小細工を捨て、道具を嫌い、ただ純粋な魂の激突のみを求める武人の狂気。
背後には閉ざされた水門。前にはこの怪物。
迂回路など、どこにも存在しなかった。
「……退くわけにはいかない」
エヴァンが一歩踏み出し、直剣を一閃させた。
青白い雷撃が、導魔油の塗られた刀身へと滑らかに吸着される。
「ラティナたちが揺り籠へ辿り着く前に、こいつを正面からねじ伏せて先へ行くぞ」
「うん」
テラは胸元のホルダーから、黄金色の硝子カードを指先へと滑らせた。
内側から朝日のように澄み切った光を放つ、進化した『檻』。
「全力で行こう、みんな!」
リゼットが火球を灯し、ルナが破格構文の真空刃を纏い、エリクスが懐の信管カードに指を添え、クロエが音もなく氷槍を構える。
四ヶ月の鍛錬と、選抜を制覇した小隊の全火力が、全快の狂戦士へと向けられた。
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