第七十七話 返報
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あらすじ
ロジカルな戦闘が魅力の群像劇。執筆済みのため、毎日午前6時に更新・11月30日完結予定 木や鉱石といった死んだ物質は魔力を拒絶し、術者の掌を骨ごと炭化させる。 息を吸い、肺を満たし、血を巡らせる――人間の肉体こそが唯一無二の触媒である世界。 極寒の寒村で家族を飢えで失った少年、テラ・ベルジェ。 彼がメルキオーレ魔術学院へ送られたのは、村の生き残りを賭けた「食料配給の手形」としてだった。 成績を落とせば即座に除籍、故郷は全員餓死。 首に麻縄を巻かれたような絶望の中、手に入れたのは、他人が床に撒き散らした魔力の燃え殻を吸い込み、硝子の檻に閉じ込めてぶつけるだけの、醜悪な「泥棒の小細工」だった。 名門エリートたちが優雅に呪文を紡ぐ学び舎で、テラと同じく世界の隅へと追いやられた者たちが出会う。 血統を呪い、折れぬ直剣を佩く異端の前衛・エヴァン。 没落の借財に抗い、完璧の型にすがる参謀令嬢・ルナ。 才能を弄ばれ、感覚の超火力を放つ傲岸な小隊長・リゼット。 衝撃を吸い取る悪知恵のトリックスター・エリクス。 そして、感情を殺し、汚れを消去し続ける謎の特例生・クロエ。 「不純物」「落伍者」と切り捨てられた六人は、生き残るため、互いの欠陥を凶器へと変える冷酷な契約を結ぶ。 だが、彼らが勝ち上がった先に待っていたのは―― この国の美しい魔術文明そのものが、地下深くで生きたまま魂をすり潰されている「一人の少女の生贄」の上に成り立っているという、おぞましい真実だった。 「誰かの地獄の上に成り立つ光なら、そんなもの全部叩き壊してやる」 理不尽な国家の欺瞞と、忍び寄る聖賢騎士団の断罪。 持たざる者たちが泥水を啜り、手を取り合い、世界の檻を打ち破る――本格ダーク・学園魔術戦記! ※カクヨムでも『AI本文利用』タグにて同時掲載中です 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
本文
ドンッ!!
古代の石畳が蜘蛛の巣状に砕け散り、フェンリスの巨躯が弾丸のように突進してきた。
先頭に立つエヴァンへ向けて、丸太のような右拳が唸りを上げる。直撃し、生体組織が破壊されれば、そのダメージと同等の魔力を固有術式『渇望』によって根こそぎ吸い取られる必殺の打撃。
だが、エヴァンは演習林のときのようにまともに喰らいはしなかった。
踏み込みは半歩。導魔油の塗られた直剣を斜めに滑らせ、フェンリスの拳の強烈な運動エネルギーを、刃の弾性で流れるように受け流した。
ガギィンッ!
軌道を逸らされたフェンリスの体勢が、わずかに前へと流れる。
その隙間へ、エヴァンの直剣が一閃した。刀身に凝縮された青白い雷光が、フェンリスの褐色の脇腹を鋭く切り裂く。
ジュッ、と焦げた皮膚から火花が散るが、狂戦士は痛みに怯むどころか、即座に肉体強化の足腰を踏ん張って体勢を立て直そうとした。
そのステップの着地点。
「へいよっ、足元に置き土産だぜ!」
エリクスが指を鳴らした。
フェンリスの足裏の石畳に事前に仕込まれていた、相承術式『レゾルテ』――これまでの移動でエリクスが蓄積していた衝撃エネルギーが、地雷のように真上へ向けて爆ぜた。
ドガンッ!!
下からの強烈な突き上げに、フェンリスの巨躯がふわりと宙へ浮く。
その刹那。
「『凍てよ』」
クロエの放った鋭利な氷槍が、浮き上がったフェンリスの両足首へと音もなく突き刺さり、着地した石畳の上へ、一瞬だけ完全に凍結固定した。
「小細工ばかり上手くなりやがってッ!!」
フェンリスは咆哮を上げ、力任せに足首の氷を引きちぎった。
ねじり込んだ上半身から、砕けた石屑を纏った豪腕の裏拳が、後衛のテラたちへ向けて薙ぎ払われる。
「くっ……!」
テラは手甲を構えて身を沈め、そこへエリクスが横から飛び込んで『レゾルテ』の掌を合わせ、拳の風圧のベクトルを斜め上方へと強引に受け流した。
フェンリスの拳が空を切った、その一瞬の隙。
テラは胸元のホルダーから「あらかじめエヴァンの雷とリゼットの炎が調和された黄金カード」を抜き放つと、フェンリスの眉間へ向けて全力で投げ放った。
「ルナッ!!」
テラの鋭い合図。
『――断て!』
ルナの唇から紡がれた、最短の破格構文。
放たれた不可視の真空刃が、空中を飛翔する黄金カードを、フェンリスの眼前数センチの距離で寸分の狂いもなく撃ち抜いた。
パリンッ!!
砕け散る硝子。
その瞬間、カードの内に調和されていたリゼットの紅蓮とエヴァンの雷光が、目も眩むような二重螺旋の閃光となって、フェンリスの顔面をゼロ距離で丸呑みにした。
「ぐ、がああああッ!?」
視界と意識を完全に奪われ、巨躯の防御が完全にガラ空きになる。
仲間たちが命を懸けてこじ開けた、完全な急所。
そこへ、小隊長リゼットが進み出た。
その琥珀色の瞳には、あの演習林の日のガス欠の屈辱と、仲間たちへの絶対の誇りが燃え盛っていた。
リゼットは感情に任せて魔力を垂れ流さない。
心の中で、短く鋭い『チッ』という錨(アンカー)を深く、深く打ち込み、自らの全魔力を、掌の前の一点へと極限まで収縮させた。
「演習林での借りを……きっちり利子をつけて返してあげるわよ!!」
ボォォォォォッ!!
解き放たれたのは、大味な暴風ではない。
林檎ほどの大きさに凝縮された、あらゆる物質を蒸発させる超高密度の極限熱線。
それが、防御の解けたフェンリスの胸板のど真ん中へ、ゼロ距離で突き刺さった。
――ドォォォォォォォォンッ!!
大回廊全体を揺るがす凄まじい轟音。
狂戦士の頑強な肉体強化ごと、フェンリスの巨躯が砲弾のように吹き飛ばされ、白大理石の柱を二本根こそぎ薙ぎ倒して、後方の瓦礫の山へと激突した。
舞い上がる黒煙と焦土の臭気。
リゼットは肩で息をしながらも、仁王立ちで煙の向こうを見据えていた。
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