第七十八話 勝利
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ロジカルな戦闘が魅力の群像劇。執筆済みのため、毎日午前7時に更新・11月中に完結予定 木や鉱石といった死んだ物質は魔力を拒絶し、術者の掌を骨ごと炭化させる。 息を吸い、肺を満たし、血を巡らせる――人間の肉体こそが唯一無二の触媒である世界。 極寒の寒村で家族を飢えで失った少年、テラ・ベルジェ。 彼がメルキオーレ魔術学院へ送られたのは、村の生き残りを賭けた「食料配給の手形」としてだった。 成績を落とせば即座に除籍、故郷は全員餓死。 首に麻縄を巻かれたような絶望の中、手に入れたのは、他人が床に撒き散らした魔力の燃え殻を吸い込み、硝子の檻に閉じ込めてぶつけるだけの、醜悪な「泥棒の小細工」だった。 名門エリートたちが優雅に呪文を紡ぐ学び舎で、テラと同じく世界の隅へと追いやられた者たちが出会う。 血統を呪い、折れぬ直剣を佩く異端の前衛・エヴァン。 没落の借財に抗い、完璧の型にすがる参謀令嬢・ルナ。 才能を弄ばれ、感覚の超火力を放つ傲岸な小隊長・リゼット。 衝撃を吸い取る悪知恵のトリックスター・エリクス。 そして、感情を殺し、汚れを消去し続ける謎の特例生・クロエ。 「不純物」「落伍者」と切り捨てられた六人は、生き残るため、互いの欠陥を凶器へと変える冷酷な契約を結ぶ。 だが、彼らが勝ち上がった先に待っていたのは―― この国の美しい魔術文明そのものが、地下深くで生きたまま魂をすり潰されている「一人の少女の生贄」の上に成り立っているという、おぞましい真実だった。 「誰かの地獄の上に成り立つ光なら、そんなもの全部叩き壊してやる」 理不尽な国家の欺瞞と、忍び寄る聖賢騎士団の断罪。 持たざる者たちが泥水を啜り、手を取り合い、世界の檻を打ち破る――本格ダーク・学園魔術戦記! ※カクヨムでも『AI本文利用』タグにて同時掲載中です 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
本文
濛々と立ち込める黒煙と焦土の臭気。
大理石の柱を二本薙ぎ倒し、瓦礫の山へと激突したフェンリスの巨躯。
だが――。
ズズッ……ズザザッ。
瓦礫を押し退ける重々しい音が、石壁に木霊した。
五人の息が、喉の奥で凍りつく。
「……ハハッ」
煙の帳(とばり)を切り裂いて、ゆっくりと立ち上がってきたのは――胸板を骨が見えるほど黒焦げに焼かれ、生々しい血飛沫を噴き出しながらも、琥珀色の瞳をギラギラと狂気的に輝かせたフェンリスだった。
狂戦士は血の泡を口から吐き捨て、耳まで裂かんばかりに嗤っている。
「効いたぜ、お嬢ちゃん……! 心臓まで届きかけたぞ! ……だが、まだだ! まだ俺の血は止まっちゃいねえぞッ!!」
全身の筋肉がギチギチと悲鳴を上げ、残された全生命力が、丸太のような右拳へと収縮していく。
演習林のときと同じ、常軌を逸した生命の執念。
「全員、構えなさい!!」
リゼットの叫び。
その時、テラの足元で、大気中の空気が激しく渦を巻いた。
リゼットが放った超高密度の極限熱線――それがフェンリスの肉体と激突して四散したことで、いま大回廊の空間には、極めて濃密な「炎の残滓」が霧となって充満していた。
「……来てくれッ!!」
テラは右手の手甲を軋ませ、胸元のホルダーからレゾルテ信管カードを抜き放った。
シュウウウウゥッ!!
黄金の硝子が、大気中に漂う膨大な熱の燃え殻を、飢えた獣のように一滴残らず吸い込んでいく。黄金の結晶が、灼熱の赤黒い光を宿して激しく脈動を始めた。
「死ねえええええッ!!」
フェンリスが最後の一歩を踏み込み、相打ち覚悟の鉄拳を振り下ろす。
エヴァンが直剣でその拳を命懸けで受け流し、刀身から散る火花とともに体勢を逸らす。
ルナが破格構文『――凪げ!』を放ち、不可視の力場でフェンリスの首の軸を強引に固定。
クロエが踏み込み、フェンリスの焼けた胸元の傷口を覆っていた血泥を『清掃』で一瞬で消滅させ、剥き出しの肉を露わにする。
仲間たちがこじ開けた、完全な急所。
テラは突っ込まず、低く身を沈めて手甲のスナップを利かせた。
農村で凍土へ石を投げ続けてきた、泥臭く鋭い投擲。
リゼットの全残滓を呑み込んだ信管入りの黄金カードが、一直線に風を切り、フェンリスの「剥き出しの胸の傷口」の肉塊へと、ナイフのように深々と突き刺さった。
投げ終えたテラが即座に低く後方へ転がり、エヴァンたちの後ろへと退避する。
「なっ……!?」
胸に刺さったカードへフェンリスが手を伸ばしかけた、その刹那。
十歩離れた位置で、エリクスがニヤリと笑って指を鳴らした。
パチンッ!
あらかじめカードの表面に仕込まれていた『レゾルテ』の信管が、遠隔で自壊した。
硝子が砕け散る。
そして――カードに閉じ込められていたリゼットの極大熱線の全残滓が、フェンリスの傷口の肉の内側で、一気に解放された。
――ドガァァァァァァァァンッ!!
内側から肉体を焼き千切る二重の爆縮。
さすがの狂戦士も、肉体強化の許容量を完全に突破され、全身から白い煙を噴き出して宙を舞った。
ズゥゥゥンッ……!!
大理石の石畳の上へ、大の字に叩きつけられる巨躯。
フェンリスの拳から完全に魔力の陽炎が掻き消え、男は荒い血の息を吐きながら、指先一つ動かせずに沈黙した。
作品統計
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