第八十八話 ウィンターフェル
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ロジカルな戦闘が魅力の群像劇。執筆済みのため、毎日午前6時に更新・11月30日完結予定 木や鉱石といった死んだ物質は魔力を拒絶し、術者の掌を骨ごと炭化させる。 息を吸い、肺を満たし、血を巡らせる――人間の肉体こそが唯一無二の触媒である世界。 極寒の寒村で家族を飢えで失った少年、テラ・ベルジェ。 彼がメルキオーレ魔術学院へ送られたのは、村の生き残りを賭けた「食料配給の手形」としてだった。 成績を落とせば即座に除籍、故郷は全員餓死。 首に麻縄を巻かれたような絶望の中、手に入れたのは、他人が床に撒き散らした魔力の燃え殻を吸い込み、硝子の檻に閉じ込めてぶつけるだけの、醜悪な「泥棒の小細工」だった。 名門エリートたちが優雅に呪文を紡ぐ学び舎で、テラと同じく世界の隅へと追いやられた者たちが出会う。 血統を呪い、折れぬ直剣を佩く異端の前衛・エヴァン。 没落の借財に抗い、完璧の型にすがる参謀令嬢・ルナ。 才能を弄ばれ、感覚の超火力を放つ傲岸な小隊長・リゼット。 衝撃を吸い取る悪知恵のトリックスター・エリクス。 そして、感情を殺し、汚れを消去し続ける謎の特例生・クロエ。 「不純物」「落伍者」と切り捨てられた六人は、生き残るため、互いの欠陥を凶器へと変える冷酷な契約を結ぶ。 だが、彼らが勝ち上がった先に待っていたのは―― この国の美しい魔術文明そのものが、地下深くで生きたまま魂をすり潰されている「一人の少女の生贄」の上に成り立っているという、おぞましい真実だった。 「誰かの地獄の上に成り立つ光なら、そんなもの全部叩き壊してやる」 理不尽な国家の欺瞞と、忍び寄る聖賢騎士団の断罪。 持たざる者たちが泥水を啜り、手を取り合い、世界の檻を打ち破る――本格ダーク・学園魔術戦記! ※カクヨムでも『AI本文利用』タグにて同時掲載中です 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
本文
ズズズズズズズズッ……!!
大聖堂地下の天蓋全体が、悲鳴を上げて激しく軋んだ。
ドガァァァァァァァンッ!!
何百トンもの白大理石の天井が一撃で粉砕された。
大聖堂の中庭から直接、冷たい冬空と粉雪とともに、巨大な巨岩と粉塵の雨が、大空洞の中央へ向けて雪崩れ落ちてくる。
ドォォォスッ!!
巻き上がる猛烈な砂塵と突風の中。
崩落した瓦礫の頂の上に、仁王立ちになっていたのは――。
熊のように分厚い筋骨隆々の巨躯。
灰色の獣皮を羽織り、全身に無数の傷を刻んだ初老の大男。
『原始の獣血』の頂点に君臨する族長、ヴァルグ。
「ガハハハハハッ!!」
大地をへし折るような地鳴りの哄笑が、機械の唸りを圧殺して響き渡った。
「ここが、飼い慣らされた豚どもの心臓か! 地上で騎士どもを蹴散らして掘り進んでみりゃあ……良い匂いだ、血の匂いが充満してやがるじゃねえか!!」
ヴァルグが丸太のような両手を力任せに打ち鳴らし、同時に、浅い息で肺腑から呼気を爆発させた。
固有術式『喝采(ムングルモ・ワ・ダム)』。
――ドガァァァァァァンッ!!
大気そのものが分厚い鉄板と化し、超音速で叩きつけられたような衝撃波の津波。
大聖堂の地下を支えていた太い白大理石の柱が二本、根元からへし折れて轟音とともに倒壊した。床の石畳が一斉にめくり上がり、破片の嵐が全方位へ吹き荒れる。
「姉様ッ!!」
祭壇の上で、ラティナが叫び、血統術式『無限魔術』を展開した。
大気の魔力を直接変換した幾重もの青白い防御障壁が、シリンダーの周囲を包み込む。その外側から、リゼットの炎、エヴァンの制式剣、テラの手甲が飛来する瓦礫を叩き落としてセレナを守り、ファウストは『海葬』の圧力の盾で衝撃を正面から両断した。
ドォォスッ!
粉塵をかき分け、ヴァルグが瓦礫の山から石畳へと飛び降りてくる。
「耐えたか、豚ども! ならば骨の一片まで――」
怪物が、小隊を蹂躙しようと前へ踏み出した――その瞬間だった。
――ドォォォォォンッ!!
天蓋の巨大な崩落口から、地響きとともに、もう一人の大男が飛び降りてきた。
大理石の床石を両足で踏み砕き、濛々と立ち込める煙を切り裂いて現れたのは――着崩した革鎧に、無精髭の顎。
肩には、分厚く無骨な一本の大鉈。
基礎魔力学教授、レガート・ウィンターフェル。
レガートは大鉈を地面から引き抜き、石畳へと深々と突き刺した。
その濁った瞳の奥に、十数年間、胸の奥底で燻り続けていた復讐の炎が、獰猛に燃え盛っていた。
「……おい、ヴァルグ。うちのヒヨコどもに、デカい面してんじゃねえよ」
低く、地を這うようなしゃがれた声。
レガートは大鉈の切先を、眼前の怪物へと真っ直ぐに向けた。
「あの日……俺の故郷ウィンターフェルをお前の『喝采』で更地にされ、仲間を皆殺しにされたあの日から……俺はこの鉈を、テメエの首を断つためだけに研ぎ澄ましてきたんだよ」
ヴァルグの琥珀色の瞳が見開かれ、次いで、耳まで裂かんばかりの狂喜の笑みがその顔に広がった。
「ガハハハハッ! あの日の生き残りのガキか! 良い面構えの傭兵になったじゃねえか!!」
ズゥン、と重い靴音が響いた。
ファウストが進み出た。
アッシュグレーの白髪を揺らし、胸元の火傷の痛みを押し殺して、レガートの真横へと並び立つ。
右拳に『海葬』の深海圧力を宿すファウスト。
大鉈を両手で構え、全身の筋肉を軋ませるレガート。
魔術の虚飾を脱ぎ捨て、己の肉体と鉄のみを信じて生きてきた二人の歴戦の猛者が、小隊の前衛として、完全に並び立った。
ヴァルグの巨大な胸郭が、歓喜に震えるように盛り上がる。
「ほう……上等だ! まとめて来い、まとめて相手をしてやる!!」
完全体の獣王に対し、二人の猛者が地を蹴った。
神殿の最深部で、命を削り合う壮絶な激突の火蓋が切って落とされた。