第8話 毒の霧をエネルギーに変えろ

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あらすじ

町工場の修理工・カイトは異世界に召喚されるも、ハズレスキル【リサイクル】を理由に「廃棄の谷」へ追放されてしまう。 だが、その真価はガラクタを神話級へと創り変える【超・資源再生(アップサイクル)】だった! 折れた剣は不壊の魔剣に、毒の霧は無限のエネルギーに、捨てられた機械人形は絶世の美少女(最強)へと大変身! 拾い人の少女や龍人族、没落令嬢らと共に、温泉付きの快適な要塞都市を築き上げていく。 一方、使い捨て社会のツケで破滅寸前の王国が「戻ってきて国を建て直してくれ!」と泣きついてくるが―― 「断る。俺の居場所は、あの最高のゴミ捨て場だ」 ガラクタだらけのどん底から始まる、痛快な領地開拓ファンタジー!

本文

 モニターの端――【廃棄の谷】の最深部に映し出された景色に気づいた瞬間、エマの顔からサッと血の気が引いていた。

 そこは、ここから見てもわかるほど濃密な紫色のガスに覆われていた。

 ドロドロと不気味に渦を巻くその霧は、触れるだけで鉄を腐食させ、生き物の肺を焼き尽くす猛毒の瘴気だ。

「本気だよ。あそこには古代兵器や、王国の危険な実験の残骸が転がってるんだろ? それってつまり、普通じゃ絶対に手に入らない超レアな素材の宝庫ってことじゃないか」

「超レアな素材の前に、人間が死んじゃうよ! あの奥の瘴気はね、王国の熟練の騎士様でも上級の魔法障壁がないと数分で倒れちゃうんだから! 私たちがそのまま行ったら、一瞬で息ができなくなってバタッて倒れちゃうよ!」

 エマは両手を顔の前でバタバタと振って、必死に首を横に振った。  相変わらずリアクションがいちいち大きくて見ていて飽きないが、言っていること自体はもっともだ。

 生身の人間がそのまま飛び込めば、素材を拾うどころの話ではない。

「息ができないなら、吸えるようにすればいいだけの話だろ」

「どうやって!? 息を止めて走るの!?」

「小学生のプールじゃないんだから……。いいか、エマ。瘴気っていうのは、要するに『毒や汚れが混ざってドロドロに濁った魔力』なんだよ」

「濁った魔力……?」

「そう。泥水と同じさ。泥水をそのまま飲んだらお腹を壊すけど、布や砂のフィルターを通して泥をろ過すれば、綺麗な水が飲めるだろ? それと同じで、瘴気から毒の汚れだけを綺麗に取り除いてやれば、人間が吸える安全な空気と、凄まじい魔力エネルギーが手に入るんだ」

「ええっ!? 瘴気の毒を抜いたら、そのまま魔力として使えるの!?」

「使える。むしろあれだけ濃いなら、特大のエネルギー源だ。だから、拠点の周りの空気を一気に綺麗にしつつ、取り出した魔力を溜めてエネルギーを満タンにする【大型換気清浄タワー】を作るぞ」

「瘴気を吸い込んでエネルギーにしちゃうってこと……!? お兄ちゃんの頭の中、やっぱり普通の人間と違いすぎるよ!」

 頭を抱えて唸るエマを連れて、俺たちは一旦工房の外へと出た。

 狙うのは、拠点周辺に転がっている大型のジャンクパーツだ。  エマの長年の目利きと、俺の【解析】の合わせ技で、素材集めは信じられないほどスムーズに進んだ。

「お兄ちゃん、あっちに昔の魔導空調設備の残骸があるよ! ダクトと巨大なファンがそのまま残ってる!」

「ナイスだ、エマ! こっちには壊れた大型魔導バッテリーと、空っぽの魔石シリンダーが転がってるな」

「うわ、その鉄の塊、一人で持てるの!? 重さ百キロくらいあるよ!?」

「持ち方を工夫して、テコの原理を使えば余裕だ。ほら、エマはそっちの細い銅線をまとめて持っててくれ」

「てこのげんり? なんのことだか分かんないけど……は、はーい!」

 俺たちは集めた素材を、工房奥の広々とした【専用作業部屋】へと運び込んだ。

 集まったのは、錆びついた巨大な送風用ファン、ひしゃげた排気ダクト、泥の詰まった多重フィルター、そして亀裂の入った大容量魔導バッテリーだ。

「完成形が3メートルを超える大型装置になるからな。まずは作業部屋で各ユニットを精密にアップサイクルして、屋上で一気に組み立てるぞ」

「了解! 部品の整理はお任せあれ!」

 俺は作業台の前に立ち、気合を入れて腕まくりをした。

「【解析(スキャン)】――【分解・精製(ディスアセンブル)】!」

 手のひらから吹き出したエメラルドグリーンの光が、作業部屋いっぱいに広がるジャンクの山を呑み込んだ。

 ガガガガッ、と激しい音を立てて、錆と汚れが一瞬でチリとなって消滅していく。

 泥だらけだったフィルターは、毒の粒子だけを完璧に絡め取るナノセラミック多孔質フィルターへと再結晶化。

 錆びた送風ファンは、空気抵抗を極限まで減らしたミスリル合金製の超高速回転ブレードへと変貌する。

 そして割れていたバッテリーは、取り込んだ膨大な魔力を漏らさず保存する【超高密度蓄魔結晶】へとアップサイクルされた。

「よし、ユニットごとの加工は完了だ。屋上に運んで組み立てるぞ!」

 俺とエマは、ピカピカに仕上がった各パーツを工房の屋上へと運び上げた。

 屋上の平らな装甲板の上に強固な土台を据え付け、清浄ユニット、回転ブレード、蓄魔結晶を順番に組み上げていく。

 最後に、輸送車本体のメインフレームの魔力ラインとタワーの基部を直結させた。

 全高3メートルを超える、銀色と白に輝く重厚なタワー型装置が、屋上に堂々とそびえ立つ。

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【完成品】大型大気浄化・魔力変換タワー(品質:特級)

【機能】

・超広範囲・有毒ガスおよび瘴気の強制吸引

・ナノセラミック多重ろ過(有害毒素の完全分離除去)

・瘴気成分の超高純度魔力粒子変換および蓄電

・清浄空気の連続放出による防毒結界の展開

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「うわあ……屋上に立つと迫力がすごいね! 王都の時計塔のミニチュアみたい!」

 エマが歓声を上げる中、直結した回路が輸送車の予備魔力を検知し、タワーの始動シーケンスが自動で立ち上がった。

「ブウウウウウウンッ!」

 心地よい重低音と共に、タワー上部のミスリル製ブレードが超高速で回転を始めた。

瞬間、周囲の大気が激しく震え、目に見えるほどの巨大な空気の渦が発生した。

「ゴオオオオオオッ!」

 谷の四方八方から、重たく淀んでいた紫色の瘴気が、まるで巨大な竜巻のようにタワーへと一気に吸い寄せられていく。

 吸い込まれた瘴気は、ナノセラミックフィルターを通過する瞬間に毒の汚れを完全に削ぎ落とされた。

 そして、毒を失って抽出されたエネルギーは、キラキラと輝く純粋な魔力粒子へと分解・変換され、タワーの基部に組み込まれた【超高密度蓄魔結晶】に勢いよく蓄積されていく。

 結晶が澄んだサファイアブルーの光を強く放ち、蓄電メーターが跳ね上がっていく。

空っぽだった魔力ゲージが、ものの数分で満タンを示した。

 そして――。

タワーの排気口から、シュウウウッと清らかな風が勢いよく吹き出した。

「わあぁっ……!」

 エマが思わず両手を広げて顔を上げた。

 工房の周囲数百メートルを覆っていたどんよりとした暗闇が、潮が引くようにみるみる消え去っていく。

 上空の紫色の結界すらも光を和らげ、まるで澄み切った青空の下にいるかのような、明るく温かい光が地上へと降り注いだ。

 風に乗って届くのは、湿ったカビの匂いでも金属の悪臭でもない。

高原の朝のように澄み渡り、胸の奥までスーッと通り抜ける清々しい空気だった。

「す、すごい……! 空気がすっごく澄んでて、清々しくて気持ちいいよ、お兄ちゃん! 深呼吸すると身体の隅々まで洗われるみたい!」

「大気中の毒を全部分離して、純粋な空気だけを放出したからな。これでこの拠点周辺は、谷の中で一番安全で快適なエリアになったぞ」

「うんっ! こんなの、王都のど真ん中よりずっと空気が綺麗だよ!」

 エマは嬉しそうに深呼吸を繰り返しながら、屋上を軽快に駆け回っていた。

「よし、拠点側の安全と動力源はこれで確保できた。次は、俺たちが最深部へ乗り込むための装備だな」

 俺は余ったフィルターの破片と軽量な魔導レザーを使い、手のひらサイズの【携帯型防毒マスク】を二つ作り上げた。

 顔にぴったりフィットして呼吸を妨げず、外の猛毒ガスを吸い込んでも瞬時に新鮮な空気に変換してくれる優れものだ。

「これをつけていけば、最深部のど真ん中に飛び込んでも息苦しさすら感じないはずだ」

「カイトお兄ちゃん、準備が良すぎるよ! もう完全に探検隊じゃん!」

 エマは受け取ったマスクを大切そうに胸に抱き、それからキリッとした顔で頷いた。

「これなら私も一緒に行けるよ! 最深部の地形、遠くからだけどずっと観察してたから、歩きやすいルートはバッチリ頭に入ってるからね!」

「頼りにしてるぞ、エマ」

 俺は腰に魔導棍を差し、背中に特級ポーションを詰め込んだ小型ポーチを装着した。

 見据える先は、谷の最深部。

紫の霧が晴れ始めた境界線の向こう側には、古代の超文明が遺したとされる巨大な瓦礫の山が、静かに眠っている。

「よし……宝探しに出発だ!」

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作者について

ふっせ

第2弾スタートです!

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